型破りな熱血刑事VSゲスな財閥御曹司の闘いを描く『ベテラン』

ベテラン熱血刑事が大財閥御曹司の悪事に立ち向かう!
ファン・ジョンミン主演の痛快アクション『ベテラン』

2023/05/22 公開

監督が「おもしろく見せる」ことに徹した、正義と悪のガチンコ勝負!

韓国の映画やドラマについて書かれた記事を読んでいると「サイダー」という言葉に遭遇することがある。もちろん、飲み物のサイダーを指す言葉だが、物語やセリフについて使われる際には、その爽やかな飲み口から派生して「もどかしい気持ちを一気に解消させてくれるほど痛快」を意味する形容詞として使われることが多い。叩き上げの刑事が圧倒的な財力を誇る財閥一家の御曹司に挑む『ベテラン』(2015年)も、そんなサイダーのような1本だ。

体を張って悪事に挑むドチョルのアクションシーンにも注目だ

下請け会社の賃金不払いに抗議するため、シンジン物産本社を訪れたトラック運転手が社内で投身自殺を図るという事件が発生。広域捜査隊所属の刑事ドチョル(ファン・ジョンミン)は彼と会っていたシンジングループ会長の孫チョ・テオ(ユ・アイン)が関与していると直感し、捜査を始める。一方、テオの腹心であるチェ常務(ユ・ヘジン)は、警察、マスコミ、ドチョルの妻にまで手を伸ばし、事件のもみ消しを図ろうとする。

『ベルリンファイル』(2013年)や『モガディシュ 脱出までの14日間』(2021年)など、骨太なテーマとスリリングな展開が共存する映画を生み出してきたリュ・スンワン監督が「おもしろく見せる」ことに徹して挑んだ正義と悪のガチンコ勝負。財閥家の一員である会社重役が離陸間際の自社航空機を引き返させ、日本でも大きく報道された「ナッツ・リターン事件」の翌年という絶好のタイミングで韓国公開され、観客動員1300万人を超える大ヒットとなった。

巨大財閥の御曹司テオは、権力を盾に血も涙もない悪事を繰り返す

高級外車を海外に売り飛ばそうとする犯罪組織を検挙する派手なシーンで幕を開けるこの映画では、口よりも手が先に出るような刑事ドチョルが「(一見そうは見えないが)本当に悪い奴」の正体に気づき、数々の妨害にも屈せずに体を張って悪事を暴いていく。その根底には「私たちはいつまでカネの奴隷として、自分の幸せを犠牲にしてまで生きなければいけないのか?」というリュ・スンワン監督の問いかけがある。

それを象徴しているのが、映画の中に何度も登場する「恥ずかしい」という言葉。人は時にお金がないことを恥じてしまうが、本当に恥ずかしいのはそんな相手の弱みにつけ込み、金をチラつかせて自分の思うように動かそうとする人間たちの方なのだ、という監督の強い思いが伝わってくる。ドチョルの気持ちのこもったアクションシーンにも、そんな怒りが込められているように見える。また、刑事ものとしては珍しく、共働きで家計を支えるドチョルの妻が登場するのも特徴で、ドチョル以上に正義感の強い妻が弱気になりそうな彼を叱咤激励する場面がすばらしい。

名優ファン・ジョンミンが無鉄砲な熱血刑事を好演!

泥臭くて熱血漢のアウトロー刑事はファン・ジョンミンのハマり役!

ドチョルを演じているのは、冷酷でありながらどこか憎めない暴力組織幹部に扮した『新しき世界』(2013年)、韓国の現代史を体現する人物になりきった『国際市場で逢いましょう』(2014年)など、出演作ごとに観る者を引きつけて離さない名優ファン・ジョンミン。彼自身を主人公とした『人質 韓国トップスター誘拐事件』(2021年)が作られるなど、名実ともに韓国を代表する俳優である彼が、いいかげんに見えて、人情に厚く腕っぷしの強い好人物を軽々と演じている。

個性的な刑事たちの絶妙な掛け合いなどユーモアも満載

そんな彼を支えるチームのメンバーも魅力的だ。無鉄砲なドチョルに振り回される弱気なチーム長を『偽りの隣人 ある諜報員の告白』(2020年)のオ・ダルス、長い手足でダイナミックなアクションを見せるミス・ボンを『三姉妹』(2020年)のチャン・ユンジュが演じている。また、ドチョルの妻役のチン・ギョンも、登場シーンは短いが存在感を発揮している。

さらに、数多い財閥三世キャラの中でも「最悪」と言ってもよい、傍若無人で残忍なテオ役を鬼気迫る演技で見せているのが、『声もなく』(2020年)のユ・アイン。総合格闘技の訓練を積んでいるという設定のため戦闘能力も高く、ダイナミックなアクションも披露している。また、彼が自分の部屋に呼びつけたトラック運転手に向かって憎々しげに言い放つ「あきれたね」というセリフは流行語となり、数々のパロディを生んだ。そんな彼の悪行のすべてを収拾する常務役は『マルモイ ことばあつめ』(2019年)のユ・ヘジン。コメディの名手として知られる俳優だが、ここでは一族の中で冷遇されている卑屈で神経質な人物を好演している。

演技派ユ・アインが、テオの「最悪」ぶりを見事に体現する

そのほか、テオの酒席に付き合わされている若手女優役で『パラサイト 半地下の家族』(2019年)のパク・ソダム、テオのボディーガード役で『楽園の夜』(2020年)のオム・テグと、その後ブレイクしていく俳優たちも登場。さらには、マ・ドンソクまでがあっと驚く場面で姿を見せている。

韓国で大成功を収めた今作は、現在パート2が制作中。リュ・スンワン監督のもと、ファン・ジョンミンをはじめとする警察チームが再結集するだけでなく、新たなメンバーとしてドラマ「D.P. -脱走兵追跡官-」のチョン・ヘインも合流するとのこと。ドンチョルと仲間たちは、どんな悪に向かっていくのか。楽しみに完成を待ちたい。

文=佐藤結

佐藤結●映画ライター。韓国映画やドキュメンタリーを中心に執筆。「キネマ旬報」「韓流ぴあ」「月刊TVnavi」などの雑誌や劇場用パンフレットに寄稿している。共著に「『テレビは見ない』というけれど エンタメコンテンツをフェミニズム・ジェンダーから読む」(青弓社)がある。

<放送情報>
ベテラン
放送日時:2023年6月14日(水)18:45~、28日(水)23:15~
チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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