近年、ストリーミングで音楽を楽しむ人が増えているが、それ以前に主流だったダウンロードはどうなっているのか。売り上げは減少しているものの、最近話題になっているアナログレコードの年間生産額の3倍近くと、まだ無視できない存在だ。ストリーミングだけでは把握できないヒット曲も生まれている。

 今年3月、2022年の音楽配信売り上げを日本レコード協会が発表した。それによると、今はやりの“サブスク”(定額制聴き放題サービス)の音楽版でもあるストリーミングは前年比125%の年間928億円、1000億円突破目前となった。

 これに対して、1曲ごとやアルバムごとに購入するダウンロードは前年比81%の114億円。最盛期だった2009年(この年はGReeeeN「遥か」、ヒルクライム「春夏秋冬」、EXILE「ふたつの唇」などがヒット)の625億円と比べると2割以下に減少しているが、それでも昨今注目されているレコード(アナログディスク)の年間生産額の43億円に比べるとその3倍近くあり、生産コストの高いディスクに比べると、利益面で有利なダウンロードはまだまだ無視できない存在だ。

 特にダウンロードが大きく伸びるのが、テレビの音楽特番の多い時期だ。表に音楽特番「FNS歌謡祭」「ミュージックステーション ウルトラSUPER LIVE」「輝く!日本レコード大賞」「NHK紅白歌合戦」の4番組が放送された2022年12月中旬から1月上旬までの約1カ月間において、ダウンロード部門が急上昇した楽曲をピックアップした。

未だに「紅白」「レコ大」の影響力は大きく

 1位のOfficial髭男dism「Subtitle」は、主題歌となっていたドラマ「silent」の人気で前月度から1位を継続しているが、「FNS歌謡祭」や「NHK紅白歌合戦」でパフォーマンスすることでさらに盛り上がりを見せた。また、主要4番組すべてに出演したAdo「新時代」は10位から4位、また同じく4番組に出演し、日本レコード大賞を受賞したSEKAI NO OWARI「Habit」は51位から5位へと大きくジャンプアップした。

 さらに、テレビに出ることが数少ない男性シンガーソングライターのVaundyはNHK紅白歌合戦に初出場することで、2020年の楽曲が15位に上昇、特に出演直後は週間1位にもなっており、これは彼にとって初のダウンロード首位。他にも、YOSHIKI、HYDE、SUGIZO、MIYAVIといった大御所たちによるスーパーロックバンド、THE LAST ROCKSTARSは「NHK紅白歌合戦」に出場し、ダウンロードでは18位となった。

 このような特番効果によりダウンロード部門でTOP20に急上昇した楽曲は11曲にも及び、うち6曲が月間TOP10入りを果たしている。これを同じ楽曲について、同じ期間のストリーミングを見ると、ダウンロード同様に6曲がTOP10入りしているが、ストリーミングでは前月度からもともと5曲が人気で、他の曲もダウンロードほど顕著には伸びていない。前述の、THE LAST ROCKSTARSはストリーミングでは100位にすら入っていない。

 こうした状況を見ると、ふだんストリーミングを利用しないキッズ層や年配層、定額で使うほど配信にお金をかけないリスナーが、音楽特番時期にダウンロードすることで、ヒットがより大きく広がったと言えるだろう。一部のメディアでは、“「レコ大」「紅白」なんて誰も見ていない”と安易に言われがちだが、音楽ヒットへの影響力は今なお強力と言えるだろう。

ストリーミングだけでは把握できないヒットも

 また、ダウンロードヒットについても、以前のようにミリオンヒットはほぼ出ないものの、2023年に入ってからも、女性シンガーソングライター由薫が歌う「星月夜」は、ドラマ「星降る夜に」の主題歌として週間ダウンロード1位となり注目されているし、また男性シンガーソングライターHIPPYが2017年に発表した「君に捧げる応援歌」は、野球をはじめとするスポーツや部活動に励む学生たちに人気でダウンロード部門のTOP10前後を推移している。前者は、ドラマを見ている幅広い年代の女性層、後者は小中学生を含む学生層で、いずれもストリーミングだけでは把握できないヒット現象となっている。また、アニメファンには高音質のハイレゾ音源のダウンロードも人気だ。

 こうした点からも、現代の音楽市場を考察する際は、ストリーミングを主としつつも、CD、アナログ盤、ダウンロード、さらにはTikTokやYouTubeなどの動画再生回数やカラオケ歌唱回数などを広く見渡して、様々なヒットが生まれていることにより注目すべきだろう。

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