金融庁 損保ジャパンとビッグモーターに立ち入り検査

金融庁 損保ジャパンとビッグモーターに立ち入り検査

ビッグモーターによる保険金の不正請求問題で、金融庁は保険業法に基づいて損害保険ジャパンに対し立ち入り検査に入りました。
去年、経営陣が不正の可能性があることを認識していながらビッグモーターとの取り引きを再開した経緯やグループのガバナンス体制についても問題がなかったか詳しく調べる方針です。

金融庁は、19日午前、東京・多摩市にあるビッグモーターの店舗と東京・新宿区の損害保険ジャパンの本社に立ち入り検査に入りました。
損害保険ジャパンは、去年7月に不正の可能性があることを認識していながらいったん中止していたビッグモーターとの取り引きを再開したことが経営判断のミスだったとして、今月8日、白川儀一社長が責任をとって辞任すると発表しました。
損害保険ジャパンをめぐっては、2019年に社内にビッグモーターに対応するチームを設けて損害査定を簡略化していたこともわかっています。
金融庁は、こうした経営判断に至った経緯を詳しく調べるとともに、互いの客を紹介し合うなど長年にわたって親密な関係にあったビッグモーターとの取り引きの実態についても解明したいとしています。
さらに、親会社のSOMPOホールディングスを含めたグループのガバナンス体制が機能していたのかという点についても調査する方針です。
その結果、保険業法に照らして顧客保護の観点から問題が認められれば行政処分も含めて厳正に対処することにしています。

金融庁の立ち入り検査を受けたことについて損害保険ジャパンは「検査に真摯に対応するとともに、お客さまの被害回復に努めて参ります」とコメントしています。

金融庁が保険業法に基づき、東京・多摩市内にある店舗に立ち入り検査に入ったことについて、ビッグモーターは「立ち入り検査には全面的に協力してまいります」とコメントしています。

金融庁は、保険会社の適切な業務運営を確保し、保険契約者などの保護をはかるために必要があると判断した場合、保険業法にのっとって保険会社や保険代理店に立ち入り検査を行うことができます。
金融庁とその委託を受けた財務局の検査官が保険会社の本社や店舗を訪れて業務の内容や財務状況について質問したり帳簿資料などを確認したりして保険業法に照らして問題がないか確認します。
検査は数か月にわたることもあり問題があると認められれば行政処分の対象となることもあります。
保険業法に基づく金融庁の立ち入り検査としては、過去には、不適切な保険の契約が多数見つかった「かんぽ生命」と販売を手がけた「日本郵便」に対して2019年9月から12月まで3か月間にわたって実施したケースがあります。
金融庁は、両社に対して新規の保険販売の業務を3か月間、停止するよう求める行政処分を出し、グループ3社のトップが経営責任をとって辞任しました。
一方、「損害保険ジャパン」も2006年、金融庁の立ち入り検査の結果、多くの法令違反が見つかり、経営トップが辞任に追い込まれたことがあります。
このときの立ち入り検査では保険金の多数の支払い漏れや保険商品の違法な販売などが発覚。
金融庁から損害保険の募集の一時停止などの行政処分を受け、当時の平野浩志社長など代表権をもつ4人の役員全員が辞任する事態となりました。

金融庁の立ち入り検査のポイントです。
最大の焦点は、損害保険ジャパンの経営陣が去年7月、不正の可能性があることを認識していながら追加の調査を行わずいったん中止していたビッグモーターとの取り引きを再開した詳しい経緯とその背景に何があったのかという点です。
このときに大手損害保険会社のなかでビッグモーターとの取り引きを再開したのは損害保険ジャパンだけで、白川儀一社長は、今月8日、経営判断のミスだったとして、責任をとって辞任すると表明しました。
金融庁は、損害保険ジャパンが保険ビジネスで利益をもたらすビッグモーターとの取り引きを優先し、顧客への対応を軽視していたことが不正の温床になったのではないかとみて取り引き再開の判断に至った経緯や両社の取り引き関係を詳しく調べることにしています。
2つ目は、損害保険ジャパンが2019年に社内にビッグモーターに対応するチームを設けて損害査定を簡略化していた問題です。
金融庁は、不正がないかをチェックする損害査定の仕組みや体制に問題がなかったかについても調査する方針です。
そして3つ目は、損害保険ジャパンの親会社のSOMPOホールディングスを含めたグループのガバナンス体制の問題です。
親会社が子会社の経営をチェックする役割を果たしていたのか。
そしてビッグモーターをめぐる問題について親会社がどのような報告を受けていたのかなどグループのガバナンス体制が機能していたのかを立ち入り検査で確認することにしています。
金融庁は、一連の不正請求の実態を解明し、損害保険ジャパンとビッグモーターとのもたれ合いとも指摘される関係を把握するため19日、ビッグモーターにも立ち入り検査に入り、保険販売を行う代理店として顧客保護の観点から問題がなかったかなどを調べることにしています。
鈴木金融担当大臣は、両社への立ち入り検査を前にした今月15日の会見で、「問題の根本原因を特定すべく、深みのある実態把握を進めていく」と述べ、経営や内部管理の体制上の課題にふみこんで検査にあたる考えを示しています。

損害保険ジャパンはビッグモーターとの間で互いの顧客を紹介し合う親密な関係を続けてきました。
事故にあった保険契約者にビッグモーターの修理工場を紹介すると、ビッグモーターは代理店として紹介された数に応じて、中古車の購入者に損保会社が手がける自賠責保険などを販売するという仕組みがあり、双方にとって収益源となっていました。
また、損害保険会社が昨年度ビッグモーターを経由して受け取った保険料のうち、損害保険ジャパンは120億円と、全体のおよそ6割を占めたということです。
これについて損害保険ジャパンの白川儀一社長は「現場からすると大きな保険料をいただいている部分は、気を遣う部分があったのではないか」と述べています。
損害保険ジャパンはビッグモーターに2011年以降、あわせて37人を板金部門や営業部門に出向させ、なかには執行役員を務めた出向者もいました。
また、損害保険ジャパンは、2015年の時点でビッグモーターの株式の7%あまりを保有する大株主だったほか、ビッグモーターの創業者の長男でことし7月に引責辞任した兼重宏一前副社長は2011年から1年余りの期間、損害保険ジャパンの前身企業の一つ、「日本興亜損保」に在籍していました。
こうした親密な関係が続くなか、損害保険ジャパンは2019年、社内にビッグモーターに対応するチームを設けて、修理する車の損害査定を簡略化していたことも分かっています。
ビッグモーターが修理の見積もりを作成して写真を送れば、損害査定の手続きを大幅に簡略化して保険金を決めることができる仕組みでした。
本来は、事後的なモニタリング調査と組み合わせて運用することで見積もりの妥当性を担保する仕組みでしたが、ビッグモーターについてはモニタリング結果が悪化しているにもかかわらず査定簡略化の対象外とせず、改善を確約させるなどの対応もとっていませんでした。
その理由について、白川社長は「大型代理店であるビッグモーターからの反発をおそれ、厳正な対処ができなかった」と述べています。