米朝首脳会談 “示せるか、非核化への道筋”

2回目の米朝首脳会談が迫っています。

アメリカのトランプ大統領と、北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長が、シンガポールで歴史的会談を行ってから8か月余り。1回目の会談では、非核化に向けた具体的な合意がなかったことが批判されたこともあり、今回は、より実質的な中身が求められています。
今回の会談では、何が焦点となっているのでしょうか。

米朝首脳会談 焦点は?

第1回の米朝首脳会談(シンガポール・2018年6月)

最大の焦点は、北朝鮮の非核化への道筋をどこまで具体的に示せるかです。
2018年6月の1回目の米朝首脳会談で出された共同声明の柱は、
・北朝鮮による完全な非核化への努力
・朝鮮半島の恒久的な平和体制の構築
・新たな米朝関係の樹立、です。

しかし、その方法や期限などは盛り込まれず、その後、米朝間で、非核化や見返りをめぐる両者の立場の違いが鮮明になり、交渉は停滞しました。

非核化に向けた当面の措置としてアメリカ側が求めているのは主に3つ。

▽核兵器やミサイルと関連施設の申告
▽査察の受け入れと廃棄
▽非核化の具体的な手順や期限を示すロードマップ(行程表)の策定、です。

これに対して、北朝鮮側が非核化に向けた取り組みとして、具体的に言及したのは主に3つです。

▼ニョンビョン(寧辺)の核関連施設の閉鎖
▼プンゲリ(豊渓里)の核実験場の爆破・閉鎖
▼トンチャンリ(東倉里)のミサイル発射場の廃棄

しかし、北朝鮮は核兵器の保有状況や、このほかの関連施設の申告や査察には踏み込んでいません。

米朝双方の“切り札”

では、米朝双方が合意できる着地点を探るために、交渉の切り札として、それぞれどのようなカードを持っているのでしょうか。

北朝鮮側のカード

まず、北朝鮮側です。

北朝鮮は、非核化は段階的に進め、その進展具合に応じて、経済制裁の緩和や体制の保証につながる見返りが必要だという立場です。

北朝鮮がアメリカに対して切る可能性のあるカードです。難易度の高い順に

▼核兵器や核施設の完全な申告
▼ICBM=大陸間弾道ミサイルの廃棄
▼非核化に向けた具体的な措置を示したロードマップ(行程表)
▼ニョンビョンにある核施設の閉鎖・査察
▼北西部のトンチャンリにあるミサイルのエンジン実験場などの廃棄・査察

爆破されたプンゲリの核実験場施設(2018年5月)

北朝鮮は、これまでに過去6回核実験を行ったプンゲリの核実験場を爆破して閉鎖したことや、ICBM=大陸間弾道ミサイルの発射実験の中止などを発表しているとして、すでに具体的な措置を取っていると繰り返し強調しています。

また、去年9月の南北首脳会談で署名された「ピョンヤン共同宣言」では、トンチャンリのミサイルのエンジン実験場や発射台を、関係国の専門家の立ち会いのもとで廃棄することや、アメリカが相応の措置を取れば、ニョンビョンにある核施設を閉鎖する用意があることなども表明しています。

しかし、アメリカが主張してきた核兵器や核関連施設の申告については、「わたしたちに、『攻撃する場所を教えてくれ』と言っていることにほかならず、不当で無礼だ」と、強く反発しています。

一方で、元日に国営テレビで放送された、ことしの国政運営の方針を示す演説の中で、キム委員長は、非核化やアメリカに対するみずからの立場をこう述べました。

新年の辞を発表するキム委員長(2019年1月1日)

「これ以上、核兵器をつくらず、実験も使用も、拡散することもしない。完全な非核化へと進むことはわが党と政府の変わらない立場であり、私の確固たる意志だ」

北朝鮮は、すでに核実験場を閉鎖するなど非核化に向けた措置をとったとして、制裁の緩和やみずからの体制保証につながる朝鮮戦争の終戦宣言などを求めています。

キム委員長は、トランプ大統領とのじか談判で、非核化に取り組む姿勢をアピールし、制裁の緩和など、譲歩を迫るものとみられます。

アメリカ側

一方のアメリカ側は、北朝鮮に対して「最終的で完全に検証可能な非核化」を求めています。

核兵器だけでなく、ICBMなどの運搬手段や、核兵器の生産手段をすべて取り除くことを目指しています。

そして、北朝鮮が非核化を達成するまで制裁を解除しないという基本スタンスは、今も変えていません。

ただ、去年6月の米朝首脳会談以降、非核化をめぐる交渉が一向に前進しなかったことを受けて、アメリカ政府は姿勢を軟化させています。

「シンガポールの首脳会談で、両首脳が出した共同声明にあるすべての約束を“同時に”かつ“並行して”実施する用意があることを北朝鮮側に伝えた」

ビーガン特別代表が、ことし1月に講演で述べたものです。
そのことばからは、北朝鮮が完全な非核化に向けて行動を起こすならば、新たな米朝関係、そして平和体制の構築のために、アメリカも「見返り」を並行して与える用意があることを表明したと読み取れます。

また、非核化が達成されるまで制裁は緩和しないとしながらも、北朝鮮が求める信頼醸成のためであれば、非核化の達成前であっても、人道支援の一部再開など、何かしらの見返りを与える可能性も示唆しています。

アメリカの見返りのカード

では、どのような「見返り」が検討されているのでしょうか?

難易度の高い順に
▽在韓米軍の撤退・縮小
▽制裁緩和
▽北朝鮮と韓国の交流事業の例外的な容認=ケソン(開城)工業団地の操業など
▽朝鮮戦争の終戦宣言
▽双方の連絡事務所の設置
▽人道支援

訓練中の在韓米軍

アメリカは、非核化なしに経済制裁は解除しないとしていて、この方針のもとで経済的な見返りにまで踏み込むのか、注目されています。

また、アメリカが今回、見返りに応じれば、北朝鮮側の求める段階的な非核化とそのつどの見返りを事実上、受け入れることにもなり、アメリカ側がどのような姿勢を示すのかにも関心が集まっています。

舞台はベトナムへ…

今回、首脳会談の開催地にベトナムが選ばれたことにもメッセージがあります。

アメリカとベトナムは、かつて戦火を交えましたが、敵国であっても、アメリカとの関係を改善すれば、明るい未来が待っているというものです。

首脳会談を前に、米朝双方の実務協議の担当者たちは、今月21日から連日、実務協議を行い、共同声明に向けた調整を続けています。

アメリカと北朝鮮のトップどうしが、信頼を醸成し、本格的な非核化に向けて進むための道筋をつけられるのか。2回目の首脳会談での両首脳の決断に、世界の目が注がれています。

ワシントン支局長
油井秀樹
ワシントン支局記者
石部俊
中国総局記者
長野祥光