インターネット上の誹謗中傷、刑事責任を追及するために企業がとるべき行動と期間制限

目次

はじめに

昨今、インターネット上の誹謗中傷の問題は大きな社会問題となっており、関連法令は法改正も進められています。

インターネット上の誹謗中傷は、不特定多数人に閲覧できる状態が半永久的に残り続ける点で、通常の誹謗中傷より被害が深刻となりやすいです。

企業にとっても、インターネット上の誹謗中傷は、ブランディングやマーケティングを行ううえで大きな支障となります。たとえば、寿司チェーン店の一連の騒動では、飲食店の重要な価値である「食への安心・安全」が脅かされました。

このような誹謗中傷の問題は、民事上の損害賠償請求だけではなく、刑事上の責任追及も可能です。

今回の記事では、刑事上の責任追及(名誉毀損罪と侮辱罪)をテーマに、刑事責任を追及するための方法と期間制限を解説します。

インターネット上の誹謗中傷の問題

インターネット上で誹謗中傷された場合、被害者は名誉毀損や侮辱罪で刑事告訴が可能です。

名誉毀損や侮辱罪が成立するための要件は、以下のとおりです。

刑法

(名誉毀損)

第230条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

(侮辱)

第231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

事実を摘示して社会的評価を低下させた場合は名誉毀損、事実を摘示していない場合は侮辱罪の成立可能性があります。

侮辱罪の厳罰化。侮辱と名誉毀損の違いとは

名誉毀損罪や侮辱罪として訴追するには刑事告訴が必要

名誉毀損罪や侮辱罪は、被害者が行動しなくても警察が動くものでしょうか。

答えは「NO」です。名誉毀損罪や侮辱罪として刑事責任を追及するためには、刑事告訴が必須です。

刑法

(親告罪)

第232条 この章の罪※は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

※「この章の罪」には、名誉毀損罪や侮辱罪を含みます。

刑事告訴の期間制限

名誉毀損や侮辱罪などは、刑事告訴が必要で、刑事告訴は犯人を知ったときから6カ月以内にしないといけません。

つまり、期間内に告訴がないと、被害者が犯人に対して処罰を望んでも、刑事裁判すらできません。

犯人の処罰を望む場合は、刑事告訴を期間内にすることが極めて重要ということです。

刑訴法

第235条 親告罪の告訴は、犯人を知った日から六箇月を経過したときは、これをすることができない。・・・

刑事告訴した場合の警察の動き

刑事告訴した場合は、警察官は刑事告訴を受理しなければならず、かつすみやかに捜査を行うことが求められます。(刑訴法242条、犯罪捜査規範63条、67条)
ただ、実際は、捜査に時間がかかることも多いです。

刑事訴訟法

第242条 司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。

犯罪捜査規範

(告訴、告発および自首の受理)

第63条 司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない。

(告訴事件および告発事件の捜査)

第67条 告訴または告発があつた事件については、特にすみやかに捜査を行うように努めるとともに、次に掲げる事項に注意しなければならない。

  • (1) ぶ告、中傷を目的とする虚偽または著しい誇張によるものでないかどうか。
  • (2) 当該事件の犯罪事実以外の犯罪がないかどうか。

刑事告訴の期間はいつからカウントするのか?重要裁判例の解説

告訴の期間はいつからカウントするのか?

刑事告訴は6カ月以内の期間制限があります。告訴の期間をいつからカウントするのかにより、期間内かどうかが決まります。たとえば、誹謗中傷の投稿がなされて、かつ投稿と同時に投稿者が特定できたとします。

投稿時から告訴期間をカウントすると、投稿されてから6カ月を経過すると、刑事告訴はできないことになります。

他方で、誹謗中傷の投稿が残り続けている限り告訴期間のカウントが進まないというルールであれば、6カ月以上前の投稿も刑事告訴ができます。

重要裁判例について

この点については、平成16年 4月22日大阪高等裁判所の事例が参考になります。簡単に事案の概要と争点、裁判所の判断を説明します。

【事案の概要】

①平成13年7月5日

インターネット上で誹謗中傷の投稿がなされる

②平成13年10月4日頃

被害者がホームページの掲示板に名誉毀損するような書き込みを発見
書き込みした者もわかる状態であった。

③平成15年3月頃

警察と犯人の間で、誹謗中傷の投稿を削除したいがパスワードを忘れてしまって削除できない、警察側で管理者に対して削除要請する旨のやりとりがなされた。

④平成15年4月22日

①の書き込みの件で刑事告訴(罪名:名誉毀損)。

※「少なくとも平成15年6月末ころまで、サーバーコンピュータから削除されることなく、利用者の閲覧可能な状態に置かれたままであった」とあるので、投稿が削除されたのは平成15年7月以降であったと思われる

【争点】

刑事告訴がなされた平成15年4月22日の時点で、既に刑事告訴の期間が過ぎているように思われるが、告訴期間の起算点(カウントの始期)をいつと考えるべきか。

【裁判所の判断】

刑訴法235条1項にいう「犯人を知った日」とは、犯罪終了後において、告訴権者が犯人が誰であるかを知った日をいい、犯罪の継続中に告訴権者が犯人を知ったとしても、その日をもって告訴期間の起算日とされることはない。

そこで検討するのに、名誉毀損罪は抽象的危険犯であるところ、関係証拠によると、原判示のとおり、被告人は、平成13年7月5日、C及びBの名誉を毀損する記事(以下、「本件記事」という。)をサーバーコンピュータに記憶・蔵置させ、不特定多数のインターネット利用者らに閲覧可能な状態を設定したものであり、これによって、両名の名誉に対する侵害の抽象的危険が発生し、本件名誉毀損罪は既遂に達したというべきであるが、その後、本件記事は、少なくとも平成15年6月末ころまで、サーバーコンピュータから削除されることなく、利用者の閲覧可能な状態に置かれたままであったもので、被害発生の抽象的危険が維持されていたといえるから、このような類型の名誉毀損罪においては、既遂に達した後も、未だ犯罪は終了せず、継続していると解される。

もっとも、関係証拠によると、平成15年3月9日、大阪府泉佐野警察署警察官によって、本件名誉毀損事件を被疑事実として被告人方が捜索されたことなどがきっかけとなり、その2、3日後、被告人は、同警察署に電話し、自分の名前を名乗った上で、「自分が書き込んだ掲示板がまだ残っており、消したいが、パスワードを忘れてしまったので消せない。

ホームページの管理人の電話を教えてほしい。」旨申し入れたところ、同警察署側において、被告人に対し、「こちらから管理人に連絡の上削除してもらうよう依頼する。」と返答した上、直ちに本件ホームページの管理者であるDに対して、「パスワードを忘れたので消せないと言ってきた。そちらで削除してやってほしい。」と申し入れ、同人もこれに異を唱えていなかった事実が認められるところ、この事実は、被告人が、自らの先行行為により惹起させた被害発生の抽象的危険を解消するために課せられていた義務を果たしたと評価できるから、爾後も本件記事が削除されずに残っていたとはいえ、被告人が上記申入れをした時点をもって、本件名誉毀損の犯罪は終了したと解するのが相当である。

しかして、Bの本件告訴は、上記申入れの時点において犯罪が終了した後6ヶ月以内であることが明らかな平成15年4月22日になされているから、適法である。

裁判例の解説及び弁護士の感想

簡単に説明すると、裁判所は以下のように判断しました。

  • 告訴期間のカウントがスタートされる「犯人を知った日」とは、犯罪終了後において、告訴権者が犯人が誰であるかを知った日をいい、犯罪の継続中に告訴権者が犯人を知ったとしても、その日をもって告訴期間の起算日とされることはない
  • 名誉毀損罪は、サーバーコンピュータに記憶・蔵置させ、不特定多数のインターネット利用者らに閲覧可能な状態を設定した時点で犯罪成立(既遂)
  • 名誉毀損の投稿が、不特定多数のインターネット利用者らに閲覧可能な状態が継続している場合は、名誉毀損が既遂に達した後も、未だ犯罪は終了せず、継続している
  • 削除できていなくても、名誉毀損の状態を解消しようと具体的に頑張った時点を犯罪の終了時期として、告訴期間のカウントをスタートする

裁判例を前提とすると、誹謗中傷の投稿がインターネット上で残っている状態だと、原則として名誉毀損の犯罪が終了したとはいえないので、刑事告訴の期間制限をあまり意識する必要はありません。

例外的に、投稿者が誹謗中傷の投稿を削除するために具体的な行動をした場合は告訴期間がスタートします。

投稿者が削除するために具体的にどのような行動をしたかという面が重視されており、被害者側にはなかなか分かりにくい事情です。

他方で、インターネット上での投稿は、投稿者でも削除が難しいケースがあること、拡散等があると全削除は事実上困難であることなどからすると、投稿者が名誉毀損の状態を解消するためにどのような行動をとったのかを重視する判断は妥当だと思います。

今回の裁判例を前提としても、削除のコントロール権が誰にあるかによって告訴期間の起算点をどのように考えるのかの違いがうまれるように思います。

具体的には、①Googleマップへの口コミ投稿、②Twitterのツイートの場合は投稿者自らが削除できるので、告訴期間の起算点は、削除が完了したときからカウントするのが妥当です。

他方で、ホストラブなど投稿者自らが削除のコントロール権を持っていない場合は、告訴期間の起算点を考える上では、投稿者が削除のためにどのような行動をとったのかが重視されます。

刑事告訴は法律事務所への相談も検討すべき!弁護士が代理した場合の解決までの流れ

弁護士に依頼せずとも刑事告訴することは可能です。もっとも、書類の作成や担当刑事との面談などに労力がかかること、慣れていない作業で期間制限を経過してしまうおそれがあること、企業としてしっかりした対応をとっていることを示すためにも、法律事務所に相談して弁護士に依頼することを検討すべきです。

弁護士に依頼して解決するまでの流れは以下のとおりです。


誹謗中傷の対象となってお困りの企業様はぜひ一度ご相談いただければと思います。

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文責:弁護士 辻悠祐

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。