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福島県磐梯町にウイスキー蒸留所が誕生した。北海道・知床半島沖で昨年4月に起きた観光船沈没事故で亡くなった小池駿介さん(当時28歳)が新事業として打ち出し、夢見てきた施設だ。遺志を継ぐ仲間たちが完成させた蒸留所には、ウイスキーの本場・スコットランドの設備が導入されるなど、小池さんの情熱が随所に詰まっている。(福島支局 山口優夢)
小池さんは、福島県を中心にスーパーを展開する「リオン・ドールコーポレーション」の小池信介社長の長男で、取締役を務めていた。観光船「KAZU I(カズワン)」の事故当時は北海道に出張中で、仕事の合間に知床へ足を延ばしていたという。
ウイスキーにほれ込んだのは、英国に留学していた大学時代。帰国後の2018年に同社の関連会社として、ウイスキー製造「天鏡」を設立した。スコットランドの蒸留所を視察するなど本場のウイスキー造りを学び、故郷の福島の中でも、きれいな水が豊富な磐梯町を挑戦の舞台に選んだ。
会社設立時から仕事を共にしてきた大沼孝専務(49)は「海外で知り合った人たちにアドバイスをもらいながら、設計図に向き合っていた」と懐かしむ。理想を追い求め、図面を19回も修正したという小池さんだが、蒸留所の完成を見ることはなかった。
蒸留所は今年7月に着工。原料の麦を砕く設備をスコットランドから取り寄せ、麦汁の発酵槽は、複雑な香味を与える木製と発酵がコントロールしやすいステンレス製の2種類を設置した。加熱・冷却方法が異なる4タイプの蒸留器で様々な原酒を造り、ブレンドすることで深い味わいを生むことを目指す。
蒸留所は月内に蒸留免許を取得後、稼働する予定で、製造するウイスキー「天鏡」は熟成に10年かけ、34年の出荷を見込む。大沼専務は「彼の思いをかなえるため、全員で進んでいく」と決意を語った。