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『インド外交の流儀 先行き不透明な世界に向けた戦略 (原題)THE INDIA WAY』S・ジャイシャンカル著(白水社) 3630円

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現職外相が明かす手の内

評・井上正也(政治学者・慶応大教授)

◇S. Jaishankar=1955年生まれ。インド外相。77年、インド外務省に入省し、外務次官などを歴任。2019年から現職。
◇S. Jaishankar=1955年生まれ。インド外相。77年、インド外務省に入省し、外務次官などを歴任。2019年から現職。

 「自由で開かれたインド太平洋」戦略に象徴されるように、日本におけるインドへの関心はこれまでになく高まっている。だが、日本人はインドの巨大市場やその対中戦略に過大な期待を抱きながらも、現実とのギャップに当惑させられがちだ。確かにロシアのウクライナ侵攻への対応を見ていると、世界の分断が深まるなかで、インドがいったいどちらを向いているのか分かりにくい。

『山県有朋 明治国家と権力』小林道彦著

 そのインド外交を理解するための最良の書が翻訳された。著者のジャイシャンカル氏は、職業外交官として中国大使やアメリカ大使を歴任し、2019年にモディ首相から外務大臣に任命された。インド外交の司令塔ともいえる著者が論じる「インドならではの手法」とは、どのようなものなのか。

 本書の議論は、国際社会の分断を論じる時に陥りがちな二元論から距離を置いている。すなわち、グローバリズムかナショナリズムか、アメリカか中国かといった問いに性急に答えを出さず、歴史と地域のマクロ的視座からインド外交の位相を明らかにしている。

 だが、それ以上に評者が きつけられたのは、著者の経験に裏打ちされた外交論である。例えば、多国間協調主義が後退するなかで、国際政治は、「フレネミー(友人でも敵でもある国)」が増加し、様々なレベルでの競争と協力が並行する複雑な国際体制になると指摘する。このように国際環境が変化するなかで一貫性にこだわらず、教条主義的な考えを捨てよと著者は説く。

 本書を読むと、多極世界を迎えるなかで、インドが直面する外交課題が、日本のそれと共通する点が多いことに気付かされる。自国の成長をグローバル経済の中でいかに位置づけるのか、米中分断が進むなかで、どのような複数の国とのパートナーシップを構築することが、政治的利益と経済的利益を両立させることにつながるのか。インド太平洋を見すえた日本外交の今後の進路を考える上でも、じっくりと向き合いたい外交論である。笠井亮平訳。

読書委員プロフィル
井上 正也( いのうえ・まさや
 1979年生まれ。政治学者、慶応大教授。専門は日本政治外交史。『日中国交正常化の政治史』でサントリー学芸賞を受賞。共著に『評伝 福田赳夫』がある。

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3820833 0 書評・レビュー 2023/02/17 05:20:00 2023/09/26 12:42:30 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/02/20230214-OYT8I50042-T.jpg?type=thumbnail

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