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オーストラリアの名バンド、AC/DCが6年ぶりの新作「パワーアップ」(ソニー)を出した。全米ヒットチャート首位を記録するなど好調だ。前作を出した後、バンド崩壊の危機に見舞われていたが、それを乗り越えての再出発。リーダーでギタリストのアンガス・ヤングに聞いた。(編集委員 西田浩)
前作の制作に入った時期から試練の連続だった。アンガスの兄で作曲の相棒でもあったマルコム・ヤング(ギター)、看板歌手のブライアン・ジョンソンが相次いで病気でバンドから離脱。フィル・ラッド(ドラムス)が居住先のニュージーランドで逮捕され、彼らの代役を立ててツアーに臨んだが、今度はクリフ・ウィリアムズ(ベース)が引退宣言。追い打ちをかけるように2017年にマルコムが亡くなってしまった。
「マルコムとは二人三脚でバンドを支えてきたから、体の真ん中に穴が開いてしまったようだった。でも彼と07~08年頃から書きためていた未発表の曲やアイデアが残されていた。それを発表しなくてはという使命感がわいたんだ」
耳の病気が好転したジョンソンとトラブルを解消したラッドを呼び戻し、ウィリアムズには翻意を促すなど、バンド再建に奔走。18年には新作制作のためのスタジオ入りにこぎつけた。
「昨年にはほぼ完成していたのだが、プロデューサーから『少し時間を置いてから聴き直し、客観的な視点から仕上げよう』という提案を受け、それに従った。最終的な微調整を終えたら、コロナ禍で社会が止まってしまってね」と苦笑する。
発売が遅れた新作には、印象的なギターのリフを軸に組み立てられた重厚でノリのいいロックンロールが並ぶ。「僕らはAC/DCらしさの中で質を追求するタイプのバンド。その意味で、今回は『電源(AC/DC)はパワーアップしたぞ』と胸を張れるアルバムになっていると思う」
バンドは1975年に初アルバムを出し、79年の「地獄のハイウェイ」が世界的に大ヒットしてスターの座を手にした。しかし翌年、ボーカルのボン・スコットが死去する悲劇に襲われた。「彼はバンドの中核だったから、解散も考えた。しばらくしてマルコムが『結成した頃と同じことをもう一回やってみよう』と言ったんだ。とりあえず曲を作り、続けられるか否かを探る。その積み重ねがバンドを救った。後任のボーカルには、スコットの代わりではなく、新しい個性を求めようと気持ちを切り替えることもできた」。ジョンソンを加えて制作した「バック・イン・ブラック」は全世界で5000万枚を売り上げた。
その後もヒットを重ね、今も頂点に君臨する。「新型コロナの感染が落ち着いたらツアーも行うつもりだ」と語った。