2018年7月 菅義偉・官房長官「北非核化 最大のチャンス」

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POINT
■北朝鮮の核・ミサイル、日本人拉致問題を解決する最大の機会と強調

■宮内庁三の丸尚蔵館の収蔵品を公開する新施設の2025年完成を目指す

■外国人労働者が就労するための新たな在留資格の創設に関する関係閣僚会議を設置

■水産業への民間企業の参入を促すための関連法改正案を近く国会に提出

読売国際経済懇話会で講演する菅官房長官(7月11日、東京都千代田区で)
読売国際経済懇話会で講演する菅官房長官(7月11日、東京都千代田区で)

 菅官房長官は7月11日、東京・内幸町の帝国ホテルで開かれた読売国際経済懇話会(YIES)で講演し、「北朝鮮の完全な非核化を実現していく最大のチャンスであり、拉致問題を解決する最大の機会だ」と述べ、北朝鮮の核・ミサイルと日本人拉致問題の包括的な解決に意欲を示した。

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 菅氏は講演で、「非核化を実現し、拉致問題を解決した暁(あかつき)には経済支援を行う用意は当然ある」とも語った。北朝鮮問題が包括的に解決されれば、2002年の日朝平壌宣言に基づいて北朝鮮との国交を正常化し、日本が経済協力を行う考えに言及したものだ。

また、6月の米朝首脳会談で北朝鮮の「完全な非核化」に合意したのは、日米両国が北朝鮮への圧力路線を堅持してきた成果だとの認識を強調し、「トランプ米大統領を引き込んで圧力をかける態勢を作り上げた。安倍首相の外交手腕だ」と述べた。

強い経済 国力の源

■アベノミクス

安倍内閣が発足した当時は、円高、デフレ、長引く景気低迷で株価は約8000円だった。日本で経済活動を行う環境ではなかった。外交安全保障でも、(民主党政権の)鳩山元首相が米軍普天間飛行場の移設先に関して「最低でも県外」と発言したことで日米関係は冷え切っていた。そうした足元を見透かすかのように韓国、ロシアの大統領が初めて竹島、北方領土に足を踏み入れた。日本は海外から相手にされない状況だった。

 安倍内閣は日本を再生させる強い決意と覚悟をもって2012年12月に誕生した。何をなすべきか明確に掲げ、目標に向かって政治主導のもとに日本を前に進めてきた。

 強い経済は国力の源だ。アベノミクスと言われる3本の矢を矢継ぎ早に放った。大胆な金融政策、機動的な財政出動、そして民間投資を喚起する成長戦略だ。

 安倍内閣が発足して5年6か月で、日本の経済は大きく変わった。GDPは56兆円増え、最大の549兆円だ。雇用も251万人増えた。そのうち女性は201万人だ。待機児童を解消する政策に取り組んできたことも影響したのだろう。

 株価は2万2000円前後。20年間続いてきたデフレからの脱却への道筋を、確実に進んでいる状況だ。有効求人倍率も当時の0・83倍が1・60倍に上がった。高校卒業後、大学卒業後の就職率は98%を超えている。大学は過去最高、高校も27年ぶり(の水準)だ。

 企業収益も過去最高で、内部留保を当時と比較すると、143兆円増の417兆円。公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人の運用益は今年3月までの間に約51兆円となっている。企業年金も3月までの間で33兆円の運用益を生じた。

 国・地方の税収も24兆円増えている。これからもこうした政策を自信を持って進めていきたい。

■観光戦略

成長戦略で一番分かりやすいのが、外国人の観光客だろう。野党の時に訪日外国人(インバウンド)は836万人だった。政権の座について、インバウンド政策に全力で取り組んだ。最初にやったのがビザの緩和だ。日本はこうした緩和をすると必ず法務省と警察庁が大反対だが、政治主導でまとめた。

 緩和したら外国人観光客は翌月から面白いように伸び始めた。昨年は2869万人だ。地方の名産品も全部免税品にして売上高が増えた。

 目標は、東京五輪・パラリンピックのある20年に4000万人とし、30年には6000万人にしたい。個人旅行が非常に増えており、日本に来た人にアンケートを取ると、「日本にまた行ってみたい」という人が94~95%だ。まだインバウンドは増え続けると思う。

 日本には世界に誇れる観光資源がある。私は迎賓館を開放したほか、皇居の乾通りの桜や紅葉も、期間限定で公開するようにした。

 国立公園も多くの人たちに見てもらうという視点がなかったが、これも変えた。モデル公園として34のうち8か所を指定した。

農業 守りから攻めへ

■三の丸尚蔵館

 皇居は我が国の歴史、文化の象徴だ。現在、旧江戸城の本丸、二の丸、三の丸の一部が東御苑(ひがしぎょえん)として公開されている。訪問する人はかつては三十数万人だったが、今は約150万人に上る。

 東御苑の中に三の丸尚蔵館という宮内庁の施設がある。皇室に代々受け継がれてきた絵画、書、工芸品などの美術品が1989年に天皇陛下から国に寄贈され、保管・一般公開されている。所蔵品の中には伊藤若冲(じゃくちゅう)の動植綵絵(どうしょくさいえ)、教科書にも出ている鎌倉時代の蒙古襲来絵詞(もうこしゅうらいえことば)、更級日記などがある。しかし、国民の皆さんは三の丸尚蔵館の存在すらご存じないと思う。

 公開するスペースが不足しており、伊藤若冲の動植綵絵を一堂に展示することもできない。私は美術品の保存と収蔵品の公開機会の拡大のあり方について、宮内庁に指示し研究会を作った。先般、展示スペースを10倍程度に拡充すべきだという提案をいただいた。皇室ゆかりの美術品を適切に保存し、公開機会の拡大を図ることは日本の歴史、文化を深く楽しんでもらう上で極めて意義深い。

 政府は提言を踏まえて新たな施設の建設に向けて対応を開始した。2025年の完成を目指し、施設整備を進めていくこととし、できる限り早期に一部を開館したい。素晴らしい作品をご覧いただけるよう全国の博物館と連動して収蔵品を貸し出したい。

■農林水産業

農業で守りから攻めへの転換を図り、農業者の所得増大を図っていきたい。減反政策の見直しを四十数年ぶりに行った。農地を集約化して農地バンクを作り、意欲のある人に農業を営んでもらいたい。

 農協改革も行った。農協の中央会に圧倒的権限があり、従わざるを得ない状況だった。地域の農協が地域の特色を生かせる仕組みを作った。結果として、就農する人が増え続けている。ここ2年間は6万人ずつ増えている。

 林業でも、民間の森林も市町村に集約し、大規模化するようにし、意欲がある人には貸し出せる森林バンクを作った。

 水産業では、世界では養殖が進んでいるが、日本では不十分だ。漁業組合が強力な権限を持っている。公平な養殖の仕組み、効果的な数量管理、さらに効率的な卸しや流通システムといった新たな漁業の実現に向けて近く、法律を改正したい。規制改革をすることで農林水産業の展望は開ける。

■外国人材受け入れ

「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に、新たな外国人材の受け入れについて、就労を目的とした新たな在留資格の創設を盛り込んだ。地方に行っても人手不足だ。特に介護では約30万人足りないと言われている。建設などの企業から、景気が良くなってきたにもかかわらず人手不足で困っているという声が出てきた。少子高齢化社会の克服のために外国人材を受け入れることは喫緊の課題だ。

 この新たな制度の対象は単純労働者ではなく、また移民政策とも異なるものだ。一定の専門性や技能を持った即戦力となる外国人材を幅広く受け入れられる仕組みを作っていきたい。

 人手不足のところに何が必要か、それぞれの省庁に検討させている。(新制度を)来年の4月から実現できるよう、関係閣僚会議を近々立ちあげて、対応方針を決めていきたい。

拉致、核、ミサイル 包括解決を

■北朝鮮

外交安全保障では対北朝鮮問題はここ約3年、大変な状況だった。北朝鮮は一昨年、核実験を2回行い、弾道ミサイルを23発発射した。昨年は17発発射した。日本の上空を飛んでいったミサイルもある。核実験も1回行った。こうしたことに、日米同盟でしっかりと対応できた。

 2013年に、特定秘密保護法を成立させた。15年には安全保障関連法も成立させた。テロ等準備罪に関する法律も作った。こうしたものを作っていたから北朝鮮の脅威に対応できた。

 北朝鮮がミサイルを発射すると10分で日本に到達する。そういう中で私はすぐ記者会見するが、情報がしっかりと(米国から)提供されてきている。特定秘密保護法ができたためだ。

 安保関連法がない時は、北朝鮮のミサイルが日本に向かって飛んでくる際、日本を守っている米国のイージス艦に給油することが日本の自衛艦にはできなかった。この法律ができたことによって、そうした脅威に対応することができるようになった。

 テロ等準備罪もテロ組織から国民の安全、安心を守るために極めて大事な法律だ。

■米朝・日朝

 米朝の首脳会談が行われた。安倍首相はトランプ米大統領と近い人間関係を作っている。トランプ大統領を引き込んで、北朝鮮に圧力をかける態勢を作り上げることができた。それは安倍首相の外交手腕だ。

 米朝首脳会談で非核化に向けて合意した。米側は核、ミサイルの完全廃棄、拉致問題にも触れている。拉致、核、ミサイルを包括的に解決することによって日本と北朝鮮の間で国交を正常化し、経済的支援を行っていくことも考えている。

 小泉元首相が訪朝した際に日朝平壌宣言に署名した。こういった問題が解決したら、日本は経済支援をするという約束だ。非核化を実現し、ミサイルや化学兵器を廃棄し、拉致問題を解決したあかつきには、北朝鮮に経済支援を行う用意は当然ある。

 いずれにしろ、ミサイルの脅威は少なくとも(米朝の)交渉中はない。北朝鮮の完全な非核化を実現していく最大のチャンスであり、拉致問題を解決する最大の機会だ。

(2018年7月12日朝刊) 

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1624425 0 読売国際経済懇話会(YIES) 2020/10/01 05:00:00 2021/02/10 18:35:17 2021/02/10 18:35:17 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/11/20201113-OYT8I50086-T.jpg?type=thumbnail
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