謎に包まれた「幻のイルカ」…日本人研究者による大発見とは?

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日本一クジラを解剖してきた研究者・田島木綿子さんの初の著書『海獣学者、クジラを解剖する。~海の哺乳類の死体が教えてくれること』は、海獣学者として世界中を飛び回って解剖調査を行い、国立科学博物館の研究員として標本作製に励む七転八倒の日々と、クジラやイルカ、アザラシやジュゴンなど海の哺乳類たちの驚きの生態と工夫を凝らした生き方を紹介する一冊。発売たちまち重版で好評の本書から、内容の一部を公開します。第14回は、幻のイルカ、ユメゴンドウにつて。

イラスト=芦野公平

日本の周囲に棲息しているイルカの中には、ストランディング実績がほとんどなく、長年「幻のイルカ」とされてきた種がある。それがユメゴンドウだ。

19世紀後半にその存在が初めて文献に記載され、イギリスの大英自然史博物館に頭骨が2個収蔵されていたが、全身骨格は存在せず、生態や全貌はずっと不明のままだった。

そんな幻のイルカを再発見したのが、日本のクジラ研究の先駆者であり、第一人者でもあった山田致知(むねさと)氏(以下、致知先生)だ。

1952年に、古式捕鯨発祥の地といわれる和歌山県太地町へたまたま仕事で訪れていた致知先生は、浜辺で漁師たちが「見たこともないイルカがいる」と騒いでいる声を聞いて駆けつけ、確かに見慣れぬそのイルカの全身骨格を持ち帰った。

国内のイルカの頭骨と一致せず、その後、大英自然史博物館にある2頭の頭骨と比較したところ、それと同じ種のイルカであることが判明。約1世紀ぶりの再発見となった。まさに夢のような大発見だったことから、鳥類学者の黒田長礼(ながみち)氏の提案で「ユメゴンドウ」という和名がつけられた。

ユメゴンドウは、体長3メートル弱で、頭部が丸くてクチバシがない。
イルカの中では、ほっそりした体型をしており、10頭以上の群れで行動することが知られている。

英名は〝小さな殺し屋クジラ〞を意味する「Pygmy Killer Whale」。

イルカの名前に「殺し屋(killer)」の文字が入っていることは、和名とのギャップが激しく、イルカのファンの人たちにとっては衝撃かもしれないが、ユメゴンドウは実際に気性が荒いともいわれており、少なくともあまり人懐っこい性格ではないようだ。

現在、国内では、沖縄美ら海水族館にのみ1頭飼育されている。

※本記事は『海獣学者、クジラを解剖する。』を一部掲載したものです。

 

『海獣学者、クジラを解剖する。~海の哺乳類の死体が教えてくれること~』

日本一クジラを解剖してきた研究者が、七転八倒の毎日とともに綴る科学エッセイ


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著: 田島 木綿子
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【著者略歴】
田島 木綿子(たじま・ゆうこ)

国立科学博物館動物研究部研究員。 獣医。日本獣医畜産大学獣医学科卒業後、東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻にて博士課程修了。 大学院での特定研究員を経て2005年、テキサス大学および、カリフォルニアのMarine mammals centerにて病理学を学び、 2006年から国立科学博物館動物研究部に所属。 博物館業務に携わるかたわら、海の哺乳類のストランディングの実態調査、病理解剖で世界中を飛び回っている。 雑誌の寄稿や監修の他、率直で明るいキャラクターに「世界一受けたい授業」「NHKスペシャル」などのテレビ出演や 講演の依頼も多い。

海獣学者、クジラを解剖する。

日本一クジラを解剖してきた研究者・田島木綿子さんの初の著書『海獣学者、クジラを解剖する。~海の哺乳類の死体が教えてくれること』が発刊された。海獣学者として世界中を飛び回って解剖調査を行い、国立科学博物館の研究員として標本作製に励む七転八倒の日々と、クジラやイルカ、アザラシやジュゴンなど海の哺乳類たちの驚きの生態と工夫を凝らした生き方を紹介する一冊。発刊を記念して、内容の一部を公開します。

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