ザトウムシ 生理学と生態

ザトウムシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/23 14:07 UTC 版)

生理学と生態

植生を歩き回る Leiobunum rotundum

ザトウムシは動物であり、その分布域は極地乾燥地帯を除いて世界中の陸地に及ぶ[3][13]。主に森林など湿度が高い植生や地表で活動するが、海岸高山洞窟に生息する種類もある[3][46][13][16]。ダニザトウムシ亜目など小型の種類は土壌動物として落ち葉や石の裏で生活し、もしくは洞穴生物である[13]。アカザトウムシ亜目は主に熱帯雨林産で、地表などを緩慢に徘徊する[13]。カイキザトウムシ亜目など脚が特に細長い種類は、数多くの跗小節に分れた跗節を触手のように曲げて物を掴み[33]、それを利して草むらや低木などの植生を歩き回る[13]。マメザトウムシ科は常に体を高く持ち上げて、ザトウムシとして例外的に俊敏に動く[23][16]

多くのザトウムシは群れに集まって集団を作る習性がある。これは気候の変化(集団越冬など)や、天敵の捕食から身を守る効果があると考えられる[16][47][15]

感覚

ザトウムシの第1と第2は主要な感覚器であり、主に化学受容に頼って獲物、捕食者や配偶を探知したと考えられる[16][48]。ダニザトウムシ亜目以外では、長い第2脚を触角のように伸ばして周りを探知する[28]。臭腺の化学物質は防御(後述)以外では、化学信号として同種を識別するのに使われるとも考えられる[13]

多くの場合、ザトウムシの中眼視野は左右に向けており、視力は明暗で物体の大まかな輪郭を察するほどだったと推測される[48]。多くの種類は夜行性で負の走光性をもち(光を避ける)[48]、主に不動な餌(後述)を摂るため、高解像度な視力の必要はなかったと考えられる[16][22]。ただし例外もあり、例えば巨大な中眼と俊敏な動きをもつマメザトウムシ科は、優れた視力で獲物を見て捕食したと考えられる[23][16]。一部の洞窟性の種類は微小な光源に引き寄せて、生物発光するヒカリキノコバエを捕食することも知られている[49]

餌と天敵

ザトウムシの1種の摂食行動
コウモリ遺骸を摂食するザトウムシの1種

他の多くのクモガタ類ダニ以外ではほぼ捕食性で液体状の餌しか摂れない)とは異なり、ザトウムシは多くが雑食性[15]鋏角と顎葉で固形物の餌を咀嚼して呑み込むことができる[13]。餌として他の節足動物ミミズ陸貝などの小動物から、遺骸真菌果物デトリタスまで知られている[16][13][22][15]。なお、触肢の特殊な粘毛でトビムシを粘りついて捕獲するイトグチザトウムシ科や、カタツムリを常食とするエボシザトウムシ科やアゴザトウムシ属のように、専門食な傾向が強い種類もいくつかある[7][16][32][13][15]。捕食用の主な捕獲器は種類によって異なり、例えばマザトウムシ科は細長いで飛行中のハエを捕らえ、アカザトウムシ亜目は主に触肢の棘で獲物を確保し、アゴザトウムシ属は強大な鋏角でカタツムリのを砕いて捕食する[7][16][29]

天敵として脊椎動物哺乳類爬虫類鳥類)・他の節足動物(昆虫クモサソリムカデなど)・扁形動物などが知られ[50][51][52][15]、あらゆる生物群(細菌真菌原生動物条虫吸虫ハリガネムシハチダニなど)の病原体寄生生物に宿主ともされる[53]

何らかの原因で同種のを食べてしまうことがあるが、共食いは稀である[16]

防御

が2本欠損した Leiobunum vittatum
Pachyloidellus goliath(アカザトウムシ亜目)の臭腺口(g)に繋がる溝(gr)

ザトウムシが危険から身を守る防御手段は形態行動とも多様である[15]。形態として頑丈な外骨格は主要な防御機構で[50][54]、行動として自切したり、臭腺から化学物質(忌避物質)を分泌することが代表的である(後述)[13][15]。それ以外では、種類により警告色保護色擬態・棘などの形質で身を守り、触肢で反撃する・群れに集まる・表面にくっつける・体を硬直する・体を上下に揺らす・長い脚で危険を察して逃げる・摩擦音を出すなどの防御行動も知られている[55][56][57][51][29][31][15]

自切の際、ザトウムシは相手に掴まれた脚の転節を上に曲がり、これにより前後でしか動かない直後の転節と腿節の関節が解体して切断される。言い換えれば、ザトウムシは脚を浮かんだ状態で自発的に自切できない[39]。自切した脚はしばらく小刻みに動き、逃げる際に捕食者の気を取るのに役立つ[13]。なお、ザトウムシの欠損した脚は脱皮再生しないため、これは頻繁に使われるほどコストがかかる防御手段であり、脚の減少により機動性・感覚能力・代謝率などが低下することが知られている[58][59][60][61][62][63]。一方、脚の欠損は知られる限り交尾の成功率に顕著な悪影響を与えていない[64]

少なくともダニザトウムシ亜目とアカザトウムシ亜目では、臭腺の分泌物は天敵に対する忌避物質として役に立つ[21]。臭腺口から分泌物のを排出し、これはそのまま空気中に蒸発、もしくは脚で相手の体に塗りつく[13]。特にアカザトウムシ亜目では、体の背面が往々にして臭腺口に繋がる溝があり、分泌物がそれに流れ込ことで、背面全体を忌避物質の盾にすることができる[65][16]。また、臭腺の分泌物は抗生や抗真菌な性質をもつため、土壌生物な種類の身を守った可能性もある[13]。一方、ヘイキザトウムシ亜目とカイキザトウムシ亜目では前述のような役割の有無は不明確であり、臭腺や臭腺口が不明瞭・重傷を負っても分泌しない・分泌物が固形物などの種類が知られ、防御以外の機能(化学信号など)に使われる可能性が示唆される[21]

繁殖と発育

Phalangium opilio交尾姿勢(左/余白:、右/黒:
Phalangium opilio産卵

クモガタ類の中で、ザトウムシは例外的に陰茎を有し、それをの生殖孔に差し込んで真の交尾を行う(他の多くクモガタ類の配偶子のやり取りは、雌雄生殖孔の直接的な繋がりではなく、精包の受け渡しを通じて行われた間接的な「交接」である)[13]。雌雄は向き合って、前腹面を触れ合う形で交尾をする[17][66]。これは一般にザトウムシ全般に共通の繁殖行動と思われるが、ダニザトウムシ亜目に関してはほぼ不明で、特に本群の雄性生殖器(spermatopositor)は構造上精包の受け渡しに適したように思われ、精包を生殖孔に蓄える雌も見つかるため、むしろ交接を行う可能性が示唆される[38]

派手な求愛行動は見当たらない[13]が、種類により雄がメイトガードする・触肢で雌を触る(触肢で雌の第1脚基節を掴む[29])・生殖孔周辺の腺の分泌物をプレゼントとして雌に渡す(婚姻贈呈をする)ことがある[17]。アカザトウムシ亜目では雌雄が往々にして触肢でお互いを掴み、雌が触肢で雄の陰茎をガイドする[29]。一部の種類は雄が雌を巡る争いをし、性的二形に強大化した付属肢鋏角・触肢・第2脚・第4脚のいずれか)で闘争を行うことがある[41][42][43][44][30][29][14]

産卵の時、雌は産卵管を伸ばして特定の場所(種類によりっぱの表面・石の下・土の中・樹皮の裏・昆虫に放棄された茎の巣穴カタツムリの空殻など)に丸いを産む[13]。多くの種類は育児習性をもたない[13]が、育児習性をもつものの中で、は種類によりのみに、もしくは雌雄の両方に保護される[67][68][69][70][71]。一方、単為生殖と思われる種類もわずかに知られている[3]。幼体は成体に似た形で孵化[36]、5-8齢期の脱皮を経て成体になる[13]








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