ようこそ!マイホームタウン ⽚桐はいり × ⼤森

2018年7月25日 09時00分

今月の街先案内人

今回のゲストは俳優の片桐はいりさん。大田区生まれの片桐さんにとって、最も身近で今も足繁く通っている映画館『キネカ大森』で、「大森」の魅力や今後の展望を伺いました。

実は脇役の数は少なく、本当は主演ばかりのエリート俳優だった!

 独特で圧倒的なまでの存在感を放つ、個性派俳優の代名詞ともいうべき片桐はいりさん。その特異な雰囲気を纏う彼女のルーツを紐解き、素顔の片桐はいりさんに迫ります。

お気に⼊りの映画館キネカ⼤森がリニューアルされるということで、インタビュー場所としてご協⼒いただきました。

そもそも、この業界を目指したきっかけは何だったのでしょうか?
「もともと映画が大好きだったんですけど、自分が演じる側になることは想定していませんでした。女優って、目鼻立ちの整った方がやるものでしたから(笑)。なんとなく映画に関わることがしたいと、大学生のときに銀座文化劇場(現シネスイッチ)でもぎりのアルバイトを始めたんです。いずれは劇場で働くということも考えつつ、できれば配給会社に勤めたいなんて思っていましたね。洋画の邦題を考える人とか、宣伝で来日したスターのアテンドする人とかになりたかったんです。ところが、ひょんなことから大学で劇団に参加することになって、舞台に立つようになりました。
 80年代で、時はバブルですから『なんか変なのがいる』ってことで話題になってテレビ出演やCMのお話なんかがトントン拍子に決まったんです。CMは出る気がなかったんですけど、ギャラがね。もぎりのバイトが時給450円、日当で3600円のところ100倍以上の金額ですよ。それならと引き受けて、気づけば劇団に在籍すること10年。

インタビュアーも映画も好きで、会話が弾みすぎてしまい、時間をちょっとオーバーしたのは内緒の話。

 劇団をやめるにあたって、『さぁ、何をしようか?』と考えたら、『あれ?もしかして私、歴も10年なんじゃない?』と気づいたんです。そこで初めて、自分が俳優であることを意識したんですよ。俳優を目指していたわけではないのに、気づいたらなっていた。しかもそれに気づくのに10年かかっているという、珍しいパターンかもしれませんね(笑)。
 世間の方には、脇役や端役のイメージがあるみたいなんですけど、実は最初から劇団では主演の1人でしたし、いわゆる下積み時代がないんです。実はちょっとしたエリートなんです。って、誰もうなずいてないけど、ここ笑うところですよ!(笑)。」

最近の野望は、⾃分の作品を携えて⽇本全国の"映画館"を回ること!

⼤森の商店街をパトロール。「街並みが変化するのは仕⽅ないけれど、昔の街並みがなくなるのは、なんとなく寂しい気持ちは拭えない」のだそう。

長く俳優として活動してきたなかで、ターニングポイントだと思うことはありますか?
「そこそこ名前が売れて、顔も覚えていただけるようになると、映画館でのもぎりがやりづらくなったんですよね。⾃分が出演している映画が上映されていることもありましたし…。それでしばらくもぎりを引退していたんですけど、2006年に『かもめ⾷堂』という作品に出演して、その映画の舞台挨拶がシネスイッチと名前を変えた元銀座⽂化劇場だったんです。20数年ぶりに古巣に帰ってきた感じで、感慨深いものがありました。

駅前にあった屋上ガーデニングが、いつの間にか無くなったことに驚く片桐さん。「小学校の社会科見学にいった場所で、お気に入りだったのに…」。

 このエピソードがきっかけで、キネマ旬報さんにお声がけいただいて『もぎりよ今夜も有難う』という連載を始めたんです。そのエッセイを書くにあたり、当時を振り返ってみると、⾃分のスタートはやっぱり"映画"なんだなぁ、と改めて気付かされましたね。キネカ⼤森さんでもぎりを再開したのも、それがきっかけといえるので『かもめ⾷堂』出演はひとつのターニングポイントだったとは思います。」

⽼舗のお店が次々と無くなっていく様⼦に、⼾惑いを感じるこの頃。「新しいものが悪いわけではないけど、古いものも残って欲しい。」

今後の展望や⽬標のようなものがあったら、教えていただけますか?
「私はもともと人を驚かすようなことが好きなんですよ。観ている人の頭に『⁉』マークが浮かぶようなこと。今ももぎりを続けているのは、私を見て『⁉』となるところが見られるから。でも、『⁉』を起こすためには人に覚えておいていただけないといけないので、テレビや映画に出演している。もはやもぎりのために出演しているといってもおかしくないレベルです(笑)。
 それと私は昔ながらの映画館が大好きで、いまのシネコンばかりの状態にちょっと危機感を覚えています。だから街の小さな映画館をお手伝いしていきたいんです。その第一歩としてキネカ大森といっしょにオリジナルの先付ショートムービー『もぎりさん』を撮り下ろしました。月替りで1本ずつ映画の本編前に上映されます。とりあえず6本制作しているので、好評なら続きも作りたいなぁと。ある程度の尺になったら、それを携えて全国の映画館を回りたいと思っています!」

小さい頃からお世話になっている商店街を徘徊。「いくつかお店は入れ替わっているけど、商店街としての雰囲気は残っていて、ほっとしますね。」

⼭の⼿と下町の中間的な雰囲気を持つ街は、程よい他⼈との距離感が保てる。

片桐はいりさんにとって、「大森」とはどんな存在なのでしょうか?
「私は生まれも育ちも大森で、この街を出たことないんです。旅にはしょっちゅう出るのですが。この辺は、下町と山の手の中間のような雰囲気で、個人的にすごく落ち着く空間。山の手ほど気取っていないから、気軽に遊べるし、ちゃきちゃきの下町ってほど他人が入り込んで来ない。ほどよい距離感が保てる街だと思います。
 あと、実は私は"出口"付近が落ち着く性分だということに最近気づいたんです。喫茶店でも映画館でも出口が近い場所に陣取っていることが多い。そう考えると、大田区って羽田空港があるじゃないですか。つまり東京の出口、っていうか、お勝手口ですよね。それに近い大森は旅好きの私にはこれ以上ないぴったりの場所(笑)。
 それに、目黒や渋谷のような大きい繁華街があるわけでもないのに、蒲田・大森には複数の単館系や名画座の映画館が今もあるんです。これって、意外と珍しいスポットなんですよ。さらに古くは蒲田に松竹の撮影所があったことから、この付近は映画人がたくさん住まれていました。東宝のスタジオがある世田谷の成城と同じような存在だったんです。映画好きな私にとって、これ以上居心地のいい街があるのか?いやない!
 蒲田に撮影所があったのは戦前ですから、なかなかの歴史を重ねてきたわけですけど、大森は貝塚が発見されたことから、"日本考古学発祥の地"でもある。縄文時代からの歴史がある土地なんです(笑)。
 オリンピックに向けてなのか、徐々に変わりつつありますが、まだまだ懐かしい雰囲気が残る街並みが楽しめますので、ぜひ機会があれば訪れてみてください!」
写真:ボクダ茂

◇⼤森図鑑 ⽚桐さんオススメスポット

1)キネカ⼤森
34年間通い続けている映画館。今月リニューアルしたばかりで、それを記念して作られた先付ショートムービー「もぎりさん」が上映中です。ここでしか観られない作品なので、ぜひお越しください(笑)。
東京都品川区南⼤井6-27-25⻄友⼤森店5F 03-3762-6000
■関連リンク https://ttcg.jp/cineka_omori/
2)サクティ ⼤森⽀店
キネカ⼤森の隣にあるインド料理屋さん。場所柄、頻繁にお邪魔しています。
リーズナブルな料⾦ながら、豊富なメニューが楽しめます。とくにランチのバイキングがオススメですよ。
東京都品川区南⼤井6-27-25⻄友⼤森店5F 03-5471-8884
11:00〜15:00 / 17:00〜22:00
3)洋⾷⼊⾈
創業が⼤正13年という、⽼舗の洋⾷屋さんです。昔ながらの味わい深い洋⾷とノスタルジックな雰囲気は、積み重ねた歴史あってこその賜物。最寄りは「⼤森海岸」ですけど、⾜を運ぶ価値ありです!
東京都品川区南⼤井3-18-5 03-3761-5891
11:30〜14:00 / 17:00〜21:00 ⽇曜⽇・祝⽇の⽉曜⽇定休
4)珈琲亭 ルアン
大森を代表する喫茶店。昔ながらの純喫茶な雰囲気を残す、非常にありがたいお店です。かつてはお向かいに映画館が3軒も並んでたんです!「スター・ウォーズ」の1作目はそこで観たんですよ。
東京都⼤⽥区⼤森北1-36-2 03-3761-6077
7:00〜20:00(平⽇) 7:30〜18:00(⽇・祝)

◇PROFILE
⽚桐はいり 1963年1⽉18⽇⽣まれ。東京都出⾝。
大学在学中に銀座の映画館・銀座文化劇場(現シネスイッチ銀座)でもぎりのアルバイトと劇団活動を開始。独特な存在感を武器に、唯一無二な俳優としての地位を築く。キネマ旬報で連載していた映画エッセイ『もぎりよ今夜も有難う』は、第82回キネマ旬報ベスト・テン「読者賞」を受賞。

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