「他人事」だと思っていませんか? 山の遭難、全国3位は東京、4位神奈川… レジャー気分で行く前にちょっと考えて

2022年7月9日 12時00分

傾斜が急で、大きな岩も多い大山の登山道

<山にまつわるエトセトラ①>
 「帰りはタクシーにしようね」。小さな子どもの声に「え?」と思わず振り向いた。神奈川県西部の人気の山・大山おおやま(標高1252m)の登山道。Tシャツに短パンと軽装の若い父親が、往路で早くもへたりこんだわが子を前に困惑の表情を浮かべている。「タクシーは山にはないんだよ。帰りも歩いて下りないと行けないんだ」
 記者が一番数多く登っているお気に入りの山だが、サンダル履きの若い男性、手をつないで歩くカップル、スカート姿の女性、革靴にスーツ姿の中年男性…など、とても「登山者」と呼べないような姿も目撃する。
 「神奈川の遭難で一番多いのは大山で、年々増えている。コロナの規制が緩和されて、このところ一気に山に入る人が増えた印象がある」。県警山岳救助隊の技能指導官・相田一己警部補(56)は苦い表情を浮かべる。
「特に大山はレジャーの延長気分の人が多い。そんな簡単な山ではないんだが…」

 1日に富士山が山開きし、夏山シーズンが本格的にスタートしました。早い梅雨明けや外国人受け入れ再開もあって、各地の山には大勢の登山客が訪れそうです。「山は非日常の絶景に出会えるのが最高! だけど、リスクとも背中合わせ」。コロナ禍を契機に登山にどっぷりはまった記者の率直な感想です。山で見聞きして、時には失敗したり、「へぇ!」と思ったりした、さまざまなトピックスを伝えていきます。初回は、お気軽に登れるはずの首都圏の山で起きがちな「都市型遭難」についてー。(デジタル編集部・竹村和佳子)

◆大都市周りの低山は「登山」じゃなくレジャー気分?

 毎年6月に警察庁から発表される山岳遭難概況。昨年国内で起きた山岳遭難件数は2635件で、1990年ごろから右肩上がり傾向にある。コロナ禍などの影響で2年ほど減少したが、2021年は増加に転じ、過去最多の18年に迫る勢いだった。
 都道府県別に見ると、山岳県の長野が断トツの1位だが、大都市を抱え「山」のイメージが薄い東京、神奈川、兵庫が意外にも上位にランクインしている。
 「山岳遭難」と聞くと、アルプスの断崖絶壁で足を滑らせたとか、雪山で吹雪に閉じ込められたとか、一部のコアな登山者だけが遭遇するものと思いがちだ。しかしこのデータは、家族や友人と週末気軽に出かけられる郊外の山でも直面する可能性があることを示している。
 首都圏では東京の高尾山(標高599m)や御岳山みたけさん(929m)、神奈川の大山などが人気だ。いずれも都心から電車でアクセス可能。登山道や茶店が整備され、中腹までケーブルカーで登ることができる。遠足やハイキング、紅葉狩りでもおなじみで、登山というより行楽感覚の人が多い印象だ。

◆疲れた、終電逃した、酔っぱらいのけんか…が遭難?

 こんなデータもある。どういう状態の時に遭難が起きたのかを分類した「態様別遭難状況」をみると、神奈川県で最も多いのは「道迷い」で38.6%に上る。3位の「疲労」も18.3%と多い。
 これに対し長野県の山で最多なのは「滑落・転落」31.9%。「疲労」のカテゴリーに「凍死」も含まれているのが、標高3000m級の山々が連なる長野らしく、神奈川で多い「道迷い」は13.2%(4位)にとどまっている。
 長野は高山や雪山など厳しい環境に挑む本格的な登山者が多く、都市近郊にある神奈川の山では、不慣れだったり準備不足だったりする人が比較的多い傾向がうかがえる。
 「遭難」とは、登山者本人や家族から救助を求める連絡が警察に届くことを指す。では、どんな連絡が届くのか。神奈川県警山岳救助隊に実際に聞いてみると、意外な内容に驚いた。
 「夜景を見ていたら、ケーブルカーの終電が終わってしまった」「疲れて動けなくなった」「足がつった」。山頂からヘリ救助要請があって出動すると「酔っぱらい同士のけんかだった」…。街の交番に届く通報と変わらないものもかなりあるという。
 ちなみに、神奈川県警山岳救助隊は154人全員が兼務だ。ふだんは山を抱える警察署の管内で働いており、救助要請があれば山に向かう。これに対し長野県警では「山岳安全対策課」という部署があり、専任の救助隊員10人が所属する。遭難発生時には、兼務の警察官約30人と協力して救助活動に当たる。長野県警の担当者は「北アルプスでの遭難事案などは、専門のスキル、経験、知識が無いと対応できないことが多いので専任の救助隊員を置いている」と話す。
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