通報者の情報を漏らせば刑事罰も 改正公益通報者保護法が施行 窓口設置など体制整備を企業に義務付け

2022年6月1日 21時16分
 企業の不正を内部から指摘した人を守る改正公益通報者保護法が、1日に施行された。企業に通報窓口の設置や調査といった体制の整備を義務付けるほか、通報者の情報を漏らした担当者には刑事罰を科す。企業が不正を隠蔽いんぺいする事態も起きる中で、通報者の保護を強化するとともに不正の是正を目指す。(畑間香織)
 施行後、企業は担当者を決めて内部通報の窓口を設置し、通報の受け付けや通報内容の調査、是正をする。体制の整備を怠った場合、消費者庁による勧告や企業名の公表といった行政指導が入る。企業だけでなく病院や非営利の自治体なども含む労働者301人以上の事業者が対象で、300人以下は努力義務になる。
 通報者を守るため、通報を受けた調査担当者には守秘義務を課す。通報者が特定される情報を漏らした場合は罰金がある。企業側が通報者を捜すことを禁止し、解雇など不利益な扱いをした場合は行為者を懲戒処分にするよう求めている。
 関連の著書がある上智大の奥山俊宏教授は「経営者には耳が痛い告発も、長い目で見れば組織の利益になるという考え方が求められる。チェックする体制は消費者庁だけでは人員が足りず、全国の労働局に役割を担わせる検討も必要ではないか」と述べた。
 公益通報者保護法は2006年の施行。企業の不祥事が起きても制度が機能せず、通報者が保護されない事態が相次いだため、改正に至った。

◆通報者の4割超が降格など不利益受けたとの調査も

 公益通報者保護制度の強化には、どのような背景や課題があるのでしょうか。
 Q 公益通報とは何ですか。
 A 組織の不正を知った従業員らが是正を求め、内部の通報窓口や外部の行政機関、マスコミに知らせる行為です。通報をした人が解雇や降格といった不利益な扱いを受けないように守るための法律が、公益通報者保護法です。
 Q 法制化のきっかけは何ですか。
 A 自動車会社のリコール隠しや食品会社の産地偽装など、不祥事が2000年代に続出しました。交通や食品、医療などの分野で自社の業績のために問題点を隠せば、結果として消費者の命にも関わる「公益」を失うことになりかねません。保護法は内部からの通報を生かしてこうした不正を防ぎ、是正する狙いから作られたのです。
 Q 法改正で通報者は守られるのでしょうか。
 A 簡単ではありません。オリンパスでは、取引先の社員を立て続けに引き抜こうとした上司の行為を倫理上おかしいと感じた男性が、07年に内部通報した後に経験の無い部署に左遷されています。消費者庁による意見聴取で男性は「私の名前が当事者の上司に無断で漏えいされ、退職に追い込もうとする組織的な嫌がらせが始まった」と話しています。
 Q 組織側の意識の問題も大きいのですね。
 A 同庁の調査では、通報経験者63人のうち、嫌がらせや解雇といった不利益な扱いを受けた人は4割超に上りました。勤務先を通報先に選ばない理由の上位は「十分に対応してくれない」「不利益な扱いを受ける恐れがある」でした。法律が変わっても不正をもみ消し、報復される恐れのある組織では、声は上げにくいままです。国は体制の整備が形だけになっていないかを調べ、是正を働きかけることも求められます。

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