企業の想定為替レートに関する動向調査(2023年度)

企業の想定為替レートは平均127円61銭
~ 輸入企業ほど円安水準を想定、事業リスクを厳しく設定 ~


2021年後半から円安・ドル高が加速度的に進んだ。米国では急激に進むインフレを抑制するためにFRB(米連邦準備制度理事会)が金利を大幅に引き上げる一方、日本では日本銀行が低金利政策を維持してきた。この日米金利差の拡大が円安傾向をもたらす素地となっている。円安が続く結果として、輸入価格の上昇を通じて企業のコストアップへとつながる一因になる。他方、大幅な円安を背景に過去最高益をあげた企業も多く、為替レートが業績に与える影響は大きい。


企業が業績の見通し等を作成する際にあらかじめ設定(想定)した名目為替レートと、実際の名目為替レートに大きな差異が生じた場合には、企業の事業遂行に影響を与えるほか、業績を大きく左右することとなる。とりわけ、中小企業の想定為替レートは企業の与信にも影響を与える。


そこで、帝国データバンクは、企業の設定(想定)為替レートについて調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2023年4月調査とともに行った。


  • 調査期間は2023年4月17日~30日、調査対象は全国2万7,663社で、有効回答企業数は1万1,108社(回答率40.2%)。分析対象は想定為替レートを設定している企業2,642社。なお、想定為替レートに関する調査は2017年以降、毎年実施し、今回で7回目


外国為替レートの推移
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  1. 想定為替レートは平均1ドル=127.61円

    2023年4月時点における、企業の想定為替レートは平均1ドル=127.61円(以下、1米ドル当たりの円レートを示す)となった。前年4月時点の119.69円から7円92銭の円安水準を想定していた。また中央値、最頻値はともに130円だった。


    想定為替レートの分布は、126~130円の間を想定している企業が27.1%で割合が最も高かった。次いで131~135円が26.3%と続いており、120円台後半から130円台前半を想定する企業で5割を超える。


    企業からは、「今後、インバウンドの回復が始まる。為替は現状くらいが実力でこの程度の円安でも資源エネルギーの基礎価格が落ち着けば、国内でのインフレ状況に落ち着きが出て、個人消費が戻るとともに好循環が始まる」(しょうゆ等製造、130円)など、現在の為替レート水準くらいが望ましいとする意見がみられた。一方で、「年末に向けて、ドル・円の為替相場が円安に振れると問題が多そう」(果実卸売、125円)や「消費者物価は上昇中なので、為替レートに絡む仕入れ価格の上昇をどれだけ売価に転嫁できるか不透明」(婦人・子供服小売、125円)といった、さらなる円安進行や仕入れ価格の上昇分に対する価格転嫁へ懸念を示す声も聞かれた。


    想定為替レートの分布状況
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  2. 業界間の想定為替レートの違いは最大7.44円差

    想定為替レートを業界別にみると、『卸売』や『金融』が129円台を想定している一方で、『建設』や『運輸・倉庫』の2業界は120円台前半とみている。

    想定為替レートは、最も円安水準の『卸売』と最も円高水準の『建設』で7.44円の範囲で差があった。


    想定為替レート~業界別~
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  3. 「直接輸入」だけを行う企業は「直接輸出」だけの企業より1.60円の円安水準を想定

    想定為替レートについて輸出・輸入別にみると、事業として直接または間接のいずれかで「輸出」を行っている企業では129.63円となった(うち海外取引が「直接輸出のみ」の企業は129.43円)。

    他方、「輸入」を行っている企業は130.64円だった(うち「直接輸入のみ」の企業は131.03円)。「輸入」企業は「輸出」企業より約1円の円安水準を想定している。とりわけ海外取引として「直接輸入のみ」を行っている企業は、「直接輸出のみ」の企業より1.60円の円安水準を想定していた。


    規模別では、「大企業」は129.92円、「中小企業」は127.17円、中小企業のうち「小規模企業」は126.18円だった。規模が大きくなるほど円を安く想定する傾向がある。「直接輸入のみ」を行っている企業では、「大企業」(132.11円)は「小規模企業」(130.66円)より1.45円の円安水準を想定している。他方、「直接輸出のみ」では、「大企業」が128.00円、「中小企業」が129.75円、「小規模企業」が130.00円となり、輸入企業とは逆に小規模企業ほど円安水準を想定していた。


    想定為替レート~規模、輸出入別~
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  4. まとめ

    本調査によると、想定為替レートは平均127円61銭だった。また、輸入企業は為替レートが円安水準の場合、輸入価格の上昇による収益悪化リスクを受ける一方、輸出企業では、円高が進行することで輸出量の減少や輸出価格の上昇による海外需要の縮小というリスクを受ける。事業内容で輸出のみを行う企業と輸入のみを行う企業では、収益への影響が逆方向に働くこともあり、想定為替レートは輸入企業が1.60円の円安水準となっていることが明らかとなった。

    2017年以降は比較的、外国為替の実勢レートと想定レートに差異はなく推移していた。しかし、2021年後半から両者間で想定レートよりも実勢レートが大幅な円安水準を示す状況が続いている。2023年の名目為替レートは1ドル=130円台(月中平均、終値ベース)で推移しているが、直近では6月15日に1ドル=140.09円(東京市場、スポットレート、17時時点)を付けるなど、140円前後での推移となっている。現時点で急激な円安・ドル高は進みそうにないが、為替レートは仕入れ価格を通じて海外との取引を持たない企業の収益を悪化させる要因ともなり、当初の想定以上の為替変動は企業業績に影響を与えることになろう。


    外国為替の実勢レートと想定レート
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