食費月に8000円、浴槽で足踏み洗濯 タレント・井上咲楽さんが振り返る「18歳からの1人暮らし」

司会に、芝居にと、活躍の場を広げる井上咲楽さん(酒巻俊介撮影)
司会に、芝居にと、活躍の場を広げる井上咲楽さん(酒巻俊介撮影)

この春、入学や就職を機に1人暮らしを始めた人は少なくないでしょう。テレビ番組の司会やドラマ出演など、幅広く活躍するタレント、井上咲楽さん(24)が1人暮らしを始めたのは、高校を卒業したばかりの18歳のときでした。月の食費は8000円だったという当初のことを聞いてみると、「ホームシックじゃない、と言い聞かせていました。自分の寂しさを認めたくありませんでした」と振り返りました。


東京・蒲田のワンルームから

生まれ育ったのは栃木県益子町です。私は長女で、父と母、妹3人と暮らしていました。大皿の食事や大袋に入ったファミリーパックの菓子が出されても取り合いになる、にぎやかな家庭で育ったんです。

高校生だったとき、テレビ東京系の朝の番組への出演が決まって、東京に通うようになりました。最初の頃は(同じ芸能事務所に所属するタレントの)春香クリスティーンさんと東京・池上のマンションを一緒に借りて。18歳の春、高校卒業を機に同じ大田区内にある蒲田で1人暮らしを始めました。

築50年ほどのアパートのワンルーム。決め手になったのは月5万円の家賃と、立地です。栃木-東京間を行き来して、さまざまな路線が通る蒲田駅が便利だなあと感じていたんです。

食事の時間を自分で決められて幸せ-。最初はそう思いました。親からうるさく言われず、けんかもしない生活から、幸福感を得ていました。自分の〝城〟ができたような気がしたんです。

大家さんから牛乳と豆腐

でも2カ月ほどたったら寂しくなっちゃって。帰宅してドアを開けても部屋は真っ暗で誰もいないし、どんどん洗濯物だけがたまっていく。

実家では浴槽を洗う風呂当番があったので、自分も家事を担っているつもりでいました。だけど排水溝って、放っておくと髪がたまるんですよね。母が風呂場の細部を清掃していたと気付かされ、感謝しました。

電気料金なども支払わなければならず、お金がかかる生活への不安を1人で抱えていました。寂しいという自覚はあるのに、それを認めたくない感じ。「ホームシックではない」と自分に言い聞かせながらも、月1回以上は栃木県に帰省していました。

その頃、食費は毎月約8000円でやりくりし、食材は安いものを選んで使っていました。実家からもらったみそで、さほど具を入れないみそ汁を作っていたのをよく覚えています。節約のための自炊でした。

支えになったのは、同じアパートに住んでいた大家さん。優しいおじいさんで週に1回ほど様子を見にきてくれたんです。女性の1人暮らしが心配だったのかもしれません。

瓶に入った牛乳とパック入りの豆腐をお裾分けしてくれる。うれしかったですね。当時東京には、言葉を交わす相手があまりいなかったんです。牛乳瓶を返しにいくときに話せる大家さんの存在に助けられました。

 「1人暮らしを楽しめるかどうかは自分次第」と語る井上さん(酒巻俊介撮影)
「1人暮らしを楽しめるかどうかは自分次第」と語る井上さん(酒巻俊介撮影)

必要最低限の物だけで生活する「ミニマリスト」に憧れていたので、当初はベッドを置きませんでした。そのうち慣れるはずだと思いながら寝心地の悪い寝袋を使い続けましたが、寝不足になり、約3カ月後にベッドを買ってしまいました。結局、ミニマリストにはなれませんでした。

最も大変だったのが洗濯です。洗濯機を置く場所がなくて。それにコインランドリー代も節約したかったので、ユニットバスの浴槽に水を入れ、つけ置きにした衣類を足で踏んで洗い、さらに洗濯板で汚れを落としていました。最後は手で絞りますが、この脱水が大変でした。半年ほどで東京都港区のワンルームに引っ越しました。快適な暮らしが始まると思いましたね。所定の場所に洗濯機が置けましたから。

制限のある中で工夫を

その後も、都内で何度か転居を重ねました。大きな転機が訪れたのは、JR中央線などが停車する東京・荻窪に暮らしていた頃です。バラエティー番組の企画で、太かった眉毛を少しそったんです。21歳のときでした。眉毛の太さで名前を覚えてもらえたけれど、知名度に仕事量が追いついていませんでした。その恥ずかしさを抱えながら生きている自分を少しでも変えたいと感じていた時期でした。

思い切って眉毛を少しそったら、コンスタントに仕事をいただけるようになったんです。友達を招いて餃子などを振る舞えるようになりましたよ。小さい冷蔵庫をいっぱいにできるくらい、食材を買えるようになったんです。

タレント、俳優の井上咲楽さん(酒巻俊介撮影)
タレント、俳優の井上咲楽さん(酒巻俊介撮影)

そのあとは半年ほど東京・白金台のマンションに住み、昨年5月、今も住んでいるマンションに転居しました。

今の住まいはキッチンが広くて、コンロが3口あるんです。今は自分の好きな料理を楽しんでいます。3口あると土鍋でご飯を炊きながら、残りの2口でおかずの調理ができます。実家と同じ3口を使って料理ができるのは本当に幸せだと思います。

お気に入りの料理は「なすぼけ」。ゴボウ、マイタケ、鶏モモ肉と、揚げたナスと調味料を合わせて煮て、適度なとろみをつける一品です。こんな家庭的な料理が自炊の醍醐味(だいごみ)だと思います。作り方をSNS(交流サイト)のインスタグラムに載せたら反響が大きくて。5月に「なすぼけ」のレシピなどを掲載した料理本『井上咲楽のおまもりごはん』も出版します。

最初の同居も含め、東京で7カ所に住み、さまざまな失敗を経験してきましたが、振り返ってみると、1人暮らしにはワクワクすることがたくさん詰まっていたなぁと感じています。

実は、今春上京する18歳の妹からも1人暮らしの心構えを聞かれていたんです。今のマンションの日当たりのよさを気に入っているので、妹にも住まいを決めるなら、日当たりなどを見るために「内見したほうがいいよ」と話していました。これから1人暮らしを始める人たちには「予算やできることに制限があっても、その中で、工夫を楽しみましょう」と伝えたいですね。(竹中文)

井上咲楽

いのうえ・さくら 平成11年、栃木県生まれ。27年に「第40回ホリプロタレントスカウトキャラバン」で特別賞を受賞。朝日放送テレビ(テレビ朝日)系「新婚さんいらっしゃい!」の司会を務める一方、俳優としても活躍。5月24日にレシピ本『井上咲楽のおまもりごはん』(主婦の友社・1650円)を発売予定。

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