刑事責任追及の裏で社会復帰アシスト 知られざる検察組織の「別の顔」

検察庁の関与のもと、罪を犯したものの起訴猶予などを理由に社会生活に戻る人を福祉サービスにつなぐ取り組みが本格化しつつある。刑務所出所者の「出口支援」に対し「入口支援」と呼ばれ、起訴・不起訴処分の先を見据えた再犯防止が目的だ。秋の霜と夏の苛烈な日差しを指す「秋霜烈日(しゅうそうれつじつ)」を理想に、厳然と刑事責任を追及してきた検察組織。大阪地検で支援を担う職員らは、そんな組織と福祉のはざまで特別な役割を果たしている。

「支援を受けたい」

「河川敷での生活に戻りたい」。大阪地検の社会福祉アドバイザー、坂根匡宣(まさのり)さん(49)が3年ほど前、面談で向き合った路上生活者の中年男性はこう漏らした。

職務質問を受けた際に果物ナイフを持っていたとして逮捕されていた男性には複数の前科があり、療育手帳はなかったが、明らかに知的障害があることも見て取れた。

大阪地検再犯防止対策室で社会福祉アドバイザーを務める坂根匡宣さん=大阪市福島区(彦野公太朗撮影)
大阪地検再犯防止対策室で社会福祉アドバイザーを務める坂根匡宣さん=大阪市福島区(彦野公太朗撮影)

罪を犯す人はそれまで周囲から否定され続け、本心を言えなくなったり、本心に気づくことすらできなくなったりしていることが少なくない。坂根さんは約1時間、今までの苦労をねぎらいながら丁寧に話を聴き、「支援を受けたい」という思いを引き出した。

その後、生活保護と療育手帳の申請を手配し、住居付きで就労できる施設に男性を紹介。不起訴となり入所した男性は、当初は壁に穴を開けるなどの問題行動をとっていたが、環境に慣れると再び罪を犯すことなく働いているという。

支援は年間200件超

東京地検の「社会復帰支援室」に続き、大阪地検に「再犯防止対策室」が設置されたのは平成26年。同様の部署はその後、全地検に広がった。大阪では検事のほか、社会福祉士の資格を持つ複数のアドバイザーが臨時職員として勤務する。

入口支援の対象は、不起訴や罰金刑、執行猶予付き判決が見込まれ、高齢者や障害者、路上生活者、薬物依存者など、福祉的なサポートがあれば罪を犯さないことが期待される人たちだ。

事件捜査や公判を担当する検察官が必要だと判断し、本人も希望した場合に同室に連絡があり、アドバイザーが事件記録や面談を踏まえて支援計画を立てる-というのが支援の流れで、同室は近年、年間200件超を扱う。

その中でアドバイザーに求められるのは、役割の異なる検察組織と福祉との〝懸け橋〟としての働きだという。

検察組織の目的は社会秩序の維持で、再犯防止はそのために必要な手段となる。一方、福祉で最も重要なのは人が個人として尊重され自立に向かうことだ。坂根さんは「検察という組織にいても、アドバイザーの軸足はあくまで福祉。本人の人生がよくなることが、結果的に社会のためにもなる」と強調する。

弁護側との対立も

福祉サービスにつないだ後の「伴走」は民間の福祉施設などに委ねられることが課題だったが、令和3年度から、福祉を所管する厚生労働省も入口支援に関わるように。出口支援を担ってきた各都道府県の「地域生活定着支援センター」が、検察庁と保護観察所が選んだ人を継続的に支援する制度がつくられた。

ただ課題は山積している。刑事司法手続きの中で福祉はあくまで〝脇役〟となるため、被害者感情や弁護方針を踏まえて検察側と弁護側が対立すると、思うような段取りができないこともある。

そんな対立構造の中でも支援が成功するかどうかは、検察官やアドバイザーが事前に、対象者から支援に前向きな気持ちを引き出せるかにかかっているという。

大阪のセンターの山田真紀子所長は「入口支援の必要性が認められるようになってきたことは大きな進歩。適切な生活支援ができるよう検察などと連携を深めたい」と話している。(西山瑞穂)

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