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建築学生、木の家に挑む 設計グランプリの参加者増

「離れどころ台所」のイラスト。交流などの「場」となるデッキ周辺
「離れどころ台所」のイラスト。交流などの「場」となるデッキ周辺

住宅建築のプロを目指す学生を対象として谷口工務店(滋賀県竜王町山之上)が主催する木造住宅設計コンテスト「木の家設計グランプリ2022」が1日、滋賀県立美術館(大津市瀬田南大萱町)であった。グランプリの金賞には早稲田大大学院チームが選ばれた。平成26年に始まったコンテストは今回9回目。年々、参加者が増えてきているという。コンテストの模様を詳報する。

 「離れどころ台所」のイラスト
「離れどころ台所」のイラスト

今年の課題テーマは「母屋と離れ」。単に独立した従来の「離れ」ではなく、「母屋」とつながりを持つような、新たなライフスタイルを生み出す「母屋と離れ」の提案を求めた。

 厳しいまなざしで審査する7人の審査員=1日、県立美術館
厳しいまなざしで審査する7人の審査員=1日、県立美術館

島の夫婦がモデル

金賞に選ばれた早稲田大大学院チーム(田嶋大地さん、菅家結さん、大石耕太朗さん)の「離れどころ台所」は、食の空間を「離す」ことで生まれる食事と料理中心の新たな暮らしを提案した。「離す」ことで生まれた余白(デッキ周辺)は、生活、交流などの「場」と変化させ、母屋と独立しない離れをつなぐ屋根下半屋外空間としている。

 金賞に選ばれた「離れどころ台所」の模型
金賞に選ばれた「離れどころ台所」の模型

現場は、瀬戸内海の島で唯一、人口流出より流入が多く、教育に力を入れ、高校生や留学生を受け入れているという広島県の大崎上島を想定。住人としては、現役を引退し、若者のサポートをしたいという思いで島に暮らす夫婦で、若者を招いて一緒に料理や食事を楽しむ場を設定していた。

公開審査では審査員から「何をやっている夫婦か。ストーリーにリアリティーがあれば、『なるほど』となる」と問われ、同チームの菅家結さん(22)は「島で出会った夫婦がモデル。私たちとしてはリアルな夫婦がいたので想像できるが、(コンテストでは)もう少し対応すべきだった」と答えていた。

総評で辛口相次ぐ

銀賞には共立女子大チーム(谷村美咲さん、榎采乃さん、穐田瑠衣さん)の「浮箱」、銅賞には、大阪大大学院チーム(柴垣志保さん、中野雄介さん)の「離れを纏(まと)う家」がそれぞれ選ばれた。

表彰式後の審査員総評では、参加者に対する辛口のメッセージが相次いだ。

建築家の横内敏人審査員は「年々、完成度は高くなるが、頭で考えた作品が多い」と苦言。「理屈ではなく、感覚で建築を身に付けないと。おいしい料理をつくるには食べてみないと。建築も同じ。身に付けた感覚でつくるほうが説得力がある」とアドバイスした。

建築家の堀部安嗣審査員は「面白くなかった。みんな人間が観察できていない」。建築家の堀啓二審査委員長も「抜け出た作品がなかった。どんないいコンセプトでも、その空間がダメならコンセプトは台無し。ひどい寝室がいっぱいあった」と指摘した。

374組エントリー

コンテストの参加者は平成26年の第1回が77組だった。それが、29年の第4回340組、今回は374組のエントリーがあった。年々増加する背景には、建築学生への認知度の高まりとともに、日本の建築文化やものづくり精神に対する理解の広まりもあると考えられる。

審査員総評では、これからの木造建築文化を牽引(けんいん)する若者への温かい言葉もあった。

造園家の荻野寿也審査員は「社会人のコンテストでは気密高断熱が主になっているが、コロナ禍で外部空間が大事だと感じて、設計してもらえた。今しかできないことを表現してくれた。捨てたものじゃない」と学生を評価した。

建築家の竹原義二審査員は「人と接しながら空間をつくっていく。その喜び方を、自分の肌と自分の愛する人と一緒に考えられることを切に願う。来年もコンテストに参加してほしい」と呼び掛けた。

来年は10回目と節目を迎える。今から楽しみだ。(野瀬吉信)

木の家設計グランプリ2022 審査員 建築家、堀啓二(Keiji Hori)。共立女子大家政学部建築・デザイン学科教授▽建築家、松岡拓公雄(Takeo Matsuoka)▽建築家、竹原義二(Yoshiji Takehara)▽建築家、横内敏人(Toshihito Yokouchi)▽建築家、伊礼智(Satoshi Irei)▽建築家、堀部安嗣(Yasushi Horibe)。京都造形芸術大大学院教授▽造園家、荻野寿也(Toshiya Ogino)。(敬称略)

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