韓国と日本で異なる「土下座会見」の意味合い

記者会見後に再び土下座する運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長 =27日午後7時15分、北海道斜里町
記者会見後に再び土下座する運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長 =27日午後7時15分、北海道斜里町

「知床遊覧船」の桂田精一社長(58)の記者会見では冒頭からの土下座に注目が集まった。約2時間半の会見で計3回行い、強烈なインパクトを残した。交流サイト(SNS)では「パフォーマンス」と厳しい意見が目立ち、専門家は「誰に謝るべきか分かっていない印象を受けた」と指摘した。

事故発生から5日目の27日、初めて公の場に姿を見せた桂田社長。「この度はお騒がせして大変申し訳ございませんでした」。冒頭、沈痛な表情でこう切り出し、額を床にこすりつけた。続いて被害者家族に謝罪の言葉を述べ、再び土下座。最後の質問の後にも土下座して会場を去った。

土下座は心からの謝罪と恭順の意思表示とされるが、公的な場面でなされることはめったにない。このため額面通りの意味合いで受け取ろうにも、突飛な印象が先行してしまう。事故の遺族からも「土下座はポーズ」と冷ややかな声が上がった。

不祥事に絡んで、企業のトップが土下座した例は過去にもある。

大学生ら15人が死亡した平成28年1月の長野県軽井沢町のバス転落事故では、運行会社の社長が会見の最後に土下座。23年のユッケ集団食中毒でも、運営会社の社長が報道陣を前に路上で土下座した。

桂田社長の「土下座会見」について、企業の危機管理に詳しい浅見隆行弁護士(第二東京弁護士会)は「自分の責任と正面から向き合うどころか、責任逃れをしたいというマイナスの印象が一層強くなった」と話す。報道陣の前で何度も土下座した点も不可解といい、「誰に対して謝らなければならないのか、理解できていない印象だ」。

ニュースなどで土下座を見る機会が多いのは韓国だ。近畿大産業理工学部の河知延(ハチヨン)教授(国際経営学)によると、土下座と同じしぐさは「クンジョル」と呼ばれ、もともとは相手への敬意を示す最上級のあいさつ。だが近年は、政治家が謝罪の意味も織り込んで行うケースが増えているという。

先の大統領選では候補者が失策をわびるとして、国民に向けてクンジョルをするシーンがあった。河氏は「多くの国民は『自分よりも(立場が)上の政治家が頭を下げている』と好意的にみたりしている」と指摘。日本の土下座と見た目は似ていても、持つ意味は少し異なるようだ。

河氏は日本の土下座について「論理的な思考傾向の強い日本人は『この土下座は保身か、心からの謝罪か』と見極め、冷ややかにとらえる人が多いのでは」と分析した。

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