リオ五輪ココに注目! 強さの秘訣(5)

霊長類最強吉田沙保里の高速タックルを科学する 躍動する「忍者ボディー」

高速タックルを武器に五輪4連覇を狙う吉田沙保里選手
高速タックルを武器に五輪4連覇を狙う吉田沙保里選手

 女子レスリング53キロ級で史上初の4連覇を狙う吉田沙保里選手。彼女の生命線は、高速タックルである。高速とは、何が速いのか。大学のスポーツ科学の授業で学生たちに聞いてみた。大半がタックルの動作を開始してからコンタクトするまでのスピードが速いと答えた。速いというのは移動スピードが速い。すなわち床を蹴る筋肉の力が強い、という理解をしているのだ。

予備動作がない「認知神経系の素早さ」

 そうではない。吉田選手のタックルの速さの最大の特徴は、動作の動きだしが見えにくいところにある。相手の心理から見たら、あっという間に、タックルに入られているのだ。認知神経系の素早さである。通常のタックルは、後ろの足をいったん引いて(予備動作をして)前の足を踏みだして肩を当てる。タックルの前に予備動作があるので、来るタイミングが相手に分かってしまう。

 吉田選手のタックルには予備動作がない。動作の起こりが見えない(予備動作がない)タックルを、ノーモーションタックルという。各種スポーツには、ノーモーションタックルと似たからだの使い方がある。盗塁を防ぐ投手の投球クイック動作、フェンシングのノーモーション打突。サッカー、ラグビー、バスケットボールなどの球技でのかわし技。動きの起こりがみえにくい動作で相手を出し抜く選手は、スピードがあると評価される。相手にとって速いというのは、個人の絶対的な移動速度というよりも、対人関係の中での認知神経系の素早さがその本質となっている。

会員限定記事会員サービス詳細