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ミャンマー国営紙に見た国軍の“DNA” 政変半年、進む既成事実化

 【バンコク川合秀紀】ミャンマー国軍がクーデターで全権を掌握して8月1日で半年。アウン・サン・スー・チー前政権の排除と軍政の既成事実化を進めるが、なぜここまで国軍支配にこだわるのか。統制下にある国営紙「グローバル・ニュー・ライト・オブ・ミャンマー」の報道をつぶさに見ると、憲法で「国の政治を指導する」と定める国軍の“DNA”が浮き彫りになる。

 「誰も法を超越できない。だが彼女は憲法を超えたポストをつくり、つかんだ」(7月1日付)

 国軍総司令官で軍政トップのミン・アウン・フライン氏がロシアメディアの質問に答えた。「彼女」とはスー・チー氏。外国籍の子息がいて大統領に就けなかった同氏が憲法にない国家顧問という役職を新設し、政権を実質的に運営したことを非難した。クーデター直後の演説でも「誰も、どの組織も国益を超えて存在しない」(2月9日付)と述べており、スー・チー政権誕生の2016年以降、いかに不満を抱え続けていたかが分かる本音だ。

 現憲法は旧軍政下の08年に制定。半世紀以上、国を率いた国軍の権力を保つ規定が多く、第1章に「国軍が国民政治の指導的役割に参画する」と明記。国軍からすれば、今回の全権掌握はその「役割」を取り戻す合法措置であり、憲法停止を伴うクーデターではないと強弁する根拠だろう。

 記事では、国軍の力をそぐ改憲を試みたスー・チー氏らへの憎悪を感じさせる表現が並ぶ。「わが国は個人的なカルト崇拝という欠点に何度も直面した」(7月19日付)。社説でスー・チー氏人気をこう危険視。同氏が率いた国民民主連盟(NLD)や民主派勢力については「政治的な過激派」(同28日付)と呼び続ける。

 「ルールと規律に従う政党が(次の)総選挙を戦うことができる」(同2日付)。「国軍のコンセプトは憲法に定める『規律ある複数政党制』の実現だ」(2月9日付)

 フライン氏は総選挙のやり直しを約束するが、圧倒的な人気を誇るスー・チー氏やNLDの選挙参加は認めないと示唆。昨年の総選挙での不正を既に認定しており、NLD解党は確実だ。

 非難の矛先は国際社会にも向かう。社説では「昨年までの政府は外国の影響下にあった」(7月13日付)。フライン氏も「民主主義や人権を使い主権侵害しようとする国がある」(6月24日付)、「西側や国連機関は外交手段として虚偽情報をよく流す」(7月1日付)と非難。欧米諸国への強い不信感をあらわにしている。

 6月以降は新型コロナウイルスに関する記事が目立つ。感染者が毎日5千人前後、死者も同300人以上に急増しているためだ。フライン氏は「陽性率はそう高くない。状況は制御できる」(7月2日付)と述べていたが、ここに来て「必要なら隔離施設とスタッフをさらに拡充しなければならない」(同27日付)と修正した。

 社説では「感染を抑えるため団結すべきだ」(同21日付)と国民を鼓舞する文句が並び、患者向けの酸素が足りない危機的状況が海外で報じられると、輸入した酸素などを輸送する写真グラフを毎日掲載し、安定供給を強調。民主派との対話などを国軍に促すものの、仲介が進まない東南アジア諸国連合(ASEAN)について「ASEANと協力し、新型コロナ基金からの配分を求めたい」(同28日付)と、ここでは協調姿勢をアピールした。

 「政治の指導役」を自負するだけに、施政能力に対する疑念を生じさせたくない焦りもにじむ。

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