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世界遺産登録決定…「やんばるの森」守った50年前の闘い

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界自然遺産登録が26日に決まった沖縄島北部の「やんばるの森」(沖縄県国頭(くにがみ)、東、大宜味(おおぎみ)村)。半世紀前、住民が身をていして米軍の実弾射撃演習を阻止し、演習場設置を撤回させた。「あの闘いがなければ一帯は荒れ果て、宝の森は消えていたかもしれない」。国頭村公認ガイドの中根忍さん(64)は先人への感謝を胸に、この地を訪れる人々を案内している。

 高さ約350メートルの同村安田(あだ)の伊部岳。濃い緑の森を分け入っていくと、登山道の脇に高さ10メートルほどのエゴノキが見えた。「アメリカ帰れ 山を返せ」-。幹には約50センチにわたり、当時の闘争参加者が石で彫ったとみられる文字が刻まれている。「50年たってもこんなに鮮明。住民の執念が宿っているようだ」。中根さんは優しく文字をなぞった。

 米施政権下にあった1970年12月22日。米軍が、北部訓練場内にあった伊部岳周辺に射撃演習場を設置する意向を村に伝えてきた。既に訓練場内に発射場を秘密裏に整えていたという。演習開始日の同31日。集まった数百人の村民が発射場に設置された有刺鉄線を越え、米兵のバリケードを突破した。米軍は砲弾を撤去し、その後、演習場の設置も断念した。

 「森はうまんちゅ(万人)の財産。村民が保革を超えて闘った」。当時、闘争に参加した元村議の上原一夫さん(85)は振り返る。2016年、伊部岳周辺を含む北部訓練場の過半部分(約4千ヘクタール)が返還され、大半が世界遺産候補地になった。

 沖縄市出身の中根さんは00年、やんばるの自然に魅了され、安田に移住。「やんばるエコツーリズム研究所」を立ち上げ、ガイド活動を始めた。「生態系を守りながら、地域にも還元したい」と安田の集落と協定を結んだ。案内する人数を1回6人までに制限。案内者1人当たり200円を徴収し、環境保全活動にも役立てている。

 安田の集落では、まきや材木から現金収入を得てきた。森の植物は食用にし、胃や心臓の薬にも生かしてきた。「森と強い結び付きがあったからこそ、破壊してはいけないという意識が生まれた。訪れた人にも、身近な森を大切にする意識が広がってほしい」。中根さんは世界遺産登録を機に、森と人が共生してきた歴史も伝えたいと考えている。

(那覇駐在・野村創)

 やんばるの森 世界自然遺産登録が決まった「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」(鹿児島、沖縄)のうち、沖縄島北部の7721ヘクタール。世界的に数少ない亜熱帯照葉樹林の森。ヤンバルクイナやノグチゲラなど絶滅の恐れがある希少な動植物が多く生息し、「奇跡の森」と呼ばれる。

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