韓国次期大統領「執務室を移転」 5月から国防省に
【ソウル=恩地洋介】韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領は20日、公約履行の第1弾として大統領執務室を移転すると発表した。現在の「青瓦台」から6キロメートル余り離れた国防省の庁舎へ移る。韓国の大統領は強大な権限を持つ一方で、国民感覚に乏しいと批判されてきた。尹氏はこうした大統領制のあり方を改革する姿勢を印象づけたい考えとみられる。
国防省庁舎は、ソウルの官庁街である光化門の南方にある竜山(ヨンサン)という場所にある。尹氏は記者会見で、政権が発足する5月10日から新たな執務室を使い、青瓦台は市民に開放すると表明した。
今の国防省は隣接する軍の合同参謀本部の建物に入る。近くの米軍基地は韓国政府への返還が決まっており、広大な敷地を公園として開発する計画があった。尹氏は「国民とのコミュニケーションを強める。権力を独占する既存の青瓦台から脱皮する」と語った。
尹氏はもともと青瓦台に近い光化門への移転を公約していたが、警備上の問題から困難と判断した。国防省はヘリコプターの発着ができ、有事の際に指揮をとるための地下シェルターも備えている。移転費用として496億ウォン(約49億円)の予備費を申請するという。
尹氏は記者会見で青瓦台を「帝王的権力の象徴」と呼んだ。権威的な外観が国民との距離を遠ざけている印象を与えるとの意見や、広すぎて実務に適していないとの指摘はかねてあった。
秘書官が詰める棟から本館の大統領執務室までは徒歩で10分以上かかる。朴槿恵(パク・クネ)政権下で起こった2014年の旅客船セウォル号沈没事件では、大統領への報告が遅れた原因に挙げられた。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領も17年の就任後に、移転できるか真剣に検討したが、警護などの問題で諦めた。その代わり執務部屋を秘書棟に設け、実務担当者らとの距離を近づけた。
青瓦台が忌避される理由はほかにもある。歴代大統領が退任後、本人や家族が罪に問われるなどして軒並み不幸な末路をたどった経緯から「風水上、不吉だ」とする説がささやかれていた。
早急な移転には反対の声も存在する。5月の政権発足に間に合わせるには、予備費の執行も含めて文政権の協力が必要だ。政権交代に伴って下野する現与党の「共に民主党」は20日、移転案の撤回を求めた。同党の尹昊重(ユン・ホジュン)非常対策委員長は「安全保障に大きな穴が生じ、血税の無駄遣いになる」と批判した。