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高校野球は教育の一環なのか 競技団体が主催の怖さ

ドーム社長 安田秀一

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101回目の「夏の甲子園」は投手の球数制限などについて多くの人の関心を集めました。優勝した履正社高校(大阪)をはじめ、ベスト4のチームはいずれもエースだけでなく複数の投手を起用して勝ち上がりました。これまで医学的なリスクなどを指摘してきた米スポーツブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店、ドームで社長を務める安田秀一氏は、こうした傾向に一定の評価をしつつ、問題の本質は別のところにあると切り込みます。

◇   ◇   ◇

今年も夏の高校野球の投手の球数制限、過密日程や暑さ対策などが大きな議論になりました。

大船渡高校が最速163キロを投げる佐々木朗希投手を岩手県大会の決勝のマウンドに送らずに敗退したことの是非も話題になりました。かつてはエースが炎天下で何百球も投げ続けることが美談とされていたわけですから、大きな変化です。「議論がなされること」自体が健全なことですので、ようやくいい方向に向かい始めたと思っています。

しかし、まだどんな「対応策をとるか」という表面上の議論にとどまっているように思います。このコラムで過去にも指摘していますが、問題の本質は高校野球、高校スポーツのあり方そのものにあります。教育機関ではない競技団体が、教育を目的に掲げて高校生の大会を主催していることに、そもそもの矛盾があるわけです。

米国の部活動は正規授業

本来はどうあるべきか。米国では基本的に、部活動は正規の授業や活動にくくられます。ほとんどの学校にはスポーツに関わる活動を統括する「アスレチックデパートメント」という部局があり、責任者としてアスレチックディレクター(AD)という存在がいます。ADの仕事は学校のスポーツプログラムを通じて人材教育をすること、そして「学校の人気を高める」ことです。

ADの大きな仕事として、スポーツに関わる全ての活動の事業計画を立て、ファンドレイジング(資金調達)をする、というのがあります。地元の有力者や学校OB・OGを招いて計画を説明し、寄付を募ったりスポンサーを集めたりするわけです。僕は米アンダーアーマーの創業者で友人でもあるケビン・プランク氏の母校のファンドレイジングイベントをのぞいたことがありますが、3年計画での施設修繕などに約80億円を集めるという大規模なものでした。

その財源などを使って予算を組み、施設を整備し、各競技のコーチを雇用します。アスレチックデパートメントは競技ごとに縦割りにするのではなく、各競技が横で連携し、共同で利用するトレーニングルームを管理し、各競技にまたがるトレーナーや栄養士も雇用したりします。生徒たちはシーズンに応じて部活動を掛け持ちすることもあり、アメリカンフットボールや陸上、野球などさまざまなスポーツに取り組むことができます。

スポーツにどれだけ投資するかは学校によって方針が違い、学校の規模も異なります。基本的にバスで移動できる範囲の地域で、同じ規模、同じ方針の学校が集まってリーグを作り、シーズンに合わせてそれぞれの競技をホーム&アウェー方式で戦います。日程は学校同士の事情で決め、1軍の試合だけでなく2軍、3軍同士の試合もあります。だからみんなが試合に出場することができます。学校でゲームが行われますから、入場料や飲食、物販など興行収入が直接学校に入ってきます。

また、全米一を決定するような大会は高校の段階ではありません。各リーグで優勝を決め、さらに州でのチャンピオンを決めるという形が主流です。日本との決定的な違いは、学校にとって部活は授業と同じ扱いであり、試合はその学校同士でルールを決める、というところです。日本高等学校野球連盟(高野連)のような第三者が大会を用意することはありません。それはスポーツは教育であり、教育機関として法律で認められた学校が責任を持たねばならないというコンセンサスがあるからです。同時に、教育にはお金がかかるから、スポーツの力を借りて、スポンサーを募ったり、資金調達をしたりして、学校で用具を用意できるようにする、という合理的な仕組みが回転しています。

日本には日本の事情があり、米国と同じようにはできないでしょう。僕自身は人口に大きな格差がある各都道府県から規模や条件がまったく異なる代表校を出して、トーナメントで日本一を争う大会に何の意味があるのか、とは思いますが、それが国民に大変な人気があることもまた現実です。全国の学校が日本一を目指すことで人材を育成するという方針を共有し、それを掲げるのなら素晴らしいことでしょう。しかし、教育機関でもなく、スポーツの大会を主催しているだけの組織が、学校の部活そのものが何たるかを定義しているのは、どう考えても問題があります。登録料の支払いを含めて、大会出場資格の定義を競技団体がする時点で、「部活」は競技団体により定義されていることになります。

そもそも高校野球には、新聞社によって、興行や販促イベントして活用されて成長した歴史があります。高野連はその新聞社主導で作られた大会を運営する組織でした。起源が商業目的であるにもかかわらず、商業利用の一切を排除する、自らは教育の一環だと定義し、大会の開催方式や出場資格を定め、不祥事が起きたときは処罰まで下す、そんな理不尽なことが普通に受け入れられているというのは、恐ろしい状況だと思います。

もとより、悪いことをした生徒を処罰して、出場停止にするのが教育とは僕には思えません。排除するのではなく、なぜそれがダメなのかを教え、同じ過ちを繰り返さないように成長させるのが教育でしょう。そしてそれを実行していくのは競技団体ではなく、学校であり先生であるはずです。

高校野球だけではなくサッカーやバスケットボールなど、日本の高校スポーツの全国大会も同じように主に競技団体が主催しています。各都道府県の代表を集めて日本一を決めるのは、そのほうが盛り上がって商業ベースに乗りやすいからだと思えますが、そもそも教育とは関係ない団体の利益であって、米国のように学校にお金が入ってくる仕組みではないのです。一部の団体に利益が集中する、利権になっているだけです。

スポーツに様々な選択肢を

今の日本からこうした大会をなくすことは非現実的ですし、そうすべきとも言いません。甲子園を目指したい高校生はその夢を追えばいい。ただ、様々な選択肢は用意すべきです。プロ野球の選手を目指すために、ほぼ全員が高校に進んで硬式野球をする今の状況は普通ではないと思います。熊本にゴールデンラークスという野球のクラブチームがあります。私の友人でもある地元のスーパーマーケットの社長が運営するチームですが、2006年の創部以来都市対抗野球大会にも2度出場し、プロ野球選手も輩出しています。そのゴールデンラークスが高野連に所属しない高校生世代のチームを作ろうとしています。

甲子園を目指さなくても、世代の違う社会人野球の先輩たちとも交流しながら、じっくりと力を蓄える。そんなやり方でそれぞれの夢を追う道もあるべきだと思います。同じような試みがもっと広がらないものでしょうか。

学校にしてみても、競技団体が定義した大会に疑問を持ち、「スポーツは教育。自分たちの責任でやるぞ!」や「シーズンスポーツを取り入れるぞ!」という高い意識のある先生たちはたくさんいるはずです。そんな学校に手をあげてもらい、50校もあればそれを全国でいくつかのブロックに分けて、リーグを組んで試合ができるでしょう。参加校はアスレチックデパートメントを作って、シーズンに合わせて複数の競技に取り組んでいく。そんな学校で自分の可能性を広げていきたいと考える子どもたちもたくさんいるはずです。スポーツ庁も、高野連へ運営の改善を要請するというような抽象的なことじゃなく、未来的な取り組みをする学校に補助を出すなど、新しい形が具体化するような実のある施策を展開すべきでしょう。

最初に書きましたが、高校野球のあり方が議論されるということは、タブーや忖度(そんたく)がない健全な状況といえるでしょう。そのうえで、海外にはどんな事例があるのかをもっと学び、スポーツが教育の一環であることの意味をしっかりと考え、議論をさらに深めていきたいと思っています。ここでは書ききれませんでしたが、ヨーロッパのサッカークラブなども、教育的な意義というコンセンサスのもと、国家としてサポートしてきた歴史があります。

そんな議論や学びを通じて、学校で、地域で、スポーツをする様々な環境が整ってくることを大いに期待しております!

安田秀一
1969年東京都生まれ。92年法政大文学部卒、三菱商事に入社。96年同社を退社し、ドーム創業。98年に米アンダーアーマーと日本の総代理店契約を結んだ。現在は同社代表取締役。アメリカンフットボールは法政二高時代から始め、キャプテンとして同校を全国ベスト8に導く。大学ではアメフト部主将として常勝の日大に勝利し、大学全日本選抜チームの主将に就く。2016年から18年春まで法政大アメフト部の監督(後に総監督)として同部の改革を指揮した。18年春までスポーツ庁の「日本版NCAA創設に向けた学産官連携協議会」の委員を務めたほか、筑波大の客員教授として同大の運動部改革にも携わる。

(「SPORTSデモクラシー」は毎月掲載します)

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