ミスターレッズが現役最後、そして埼玉スタジアムで最初で最後のゴールを決めた直後の印象的なメッセージだった。

「負けないよ」。

02年10月19日、第2ステージ第9節。浦和MF福田正博が名古屋戦で0-1の劣勢から同点ゴールを奪った。当時35歳。ハンス・オフト監督のもと、本来のFWではなく、中盤で守備もこなすバランサーとして地味な役割を愚直にこなしていた。後半34分、ゴール前にこぼれたボールを右足で押し込んだ。通算91ゴール目。降雨の中で95年得点王のストライカーらしい、一瞬の隙を逃さない得点シーンだった。

試合は延長戦の末、FWエメルソンがゴールを決めて逆転勝利を挙げた。直後のヒーローインタビューで「どうしても欲しい時間で決めましたね」とのアナウンサーの質問だったものの、福田は率直な気持ちを4万人近くのサポーターに向けて発した。「いいや、負けないよ」と。

この逆転勝ちで、当時のチーム最長記録となる9試合連続負けなしでリーグ首位をキープ。ナビスコ杯(現ルヴァン杯)決勝進出も決め、3冠も狙えるポジションにいた。福田の真意は「簡単には、負けないよ」の意味だったが、この発言以降はリーグで8連敗。ナビスコ杯決勝も敗れて公式戦11連敗となり、いずれのタイトルも逃した。当時は「負けないよ」の言葉だけがひとり歩きし「呪縛」になったとも言われた。

02年末に戦力外通告を受け入れ引退した福田にとって「いいや、負けないよ」は、結果的に現役最後の「見せ場」となった。04年以降、数多くのタイトルを獲得してきた今の浦和になる以前。00年にはJ2も経験するなど苦難の時代が続いたクラブを最高潮ムードに演出した言葉でもあった。現在も浦和の名言の1つとして語り継がれている。