このゲスト・コラムでは、TikTokでヒットする楽曲の性質を分析した検証結果を説明します。TikTokと相性が良く、動画で人気を集めやすい楽曲に共通するジャンルやスタイル、歌詞、楽曲構成は何でしょうか? 分析と執筆を担当したのは、AIを活用した音楽業界向けの楽曲分析プラットフォーム「MyPart」で働く、シニアリサーチャーのAri Katorza、リサーチ責任者のAmir Graitzer、コンテント・マネージャーのDoron Gabbayです。


TikTokでは、2020年に動画視聴数が10億回を超えた楽曲は176曲以上、と音楽業界が驚く数値を発表しましたが、2021年には10億回再生以上を達成した楽曲は430曲まで拡大しました。そしてTikTokでトレンドとなり、全米ビルボードHOT 100入りした楽曲数は175曲以上に増えました。

TikTokは、リリース戦略における成功指標を示す重要なプラットフォームとしての地位を確立しました。その影響力はますます大きくなっています。無名なアーティストが、レーベルとのレコード契約を獲得するきっかけを与えており、TikTokによれば、2020年には70組以上のアーティストがレコード契約を結ぶことに成功しており、その数は今も増え続けています。Lil Nax Xのようなコンテンツ・クリエイターを世界的なスーパースター・アーティストへ変身させます。

そして、音楽との出会いにも、影響を与えています。TikTokユーザーの75%は、TikTokで新しいアーティストを発見すると答えており、知らない楽曲を初めて耳にするのはTikTok上である、と答えた人は63%にものぼっています。

TikTokは、新曲だけがヒットするとは限りません。1977年にリリースされたFleetwood Macの「ドリームス」は、43年ぶりにビルボードHOT100に復活し、Kate Bushの1980年の名曲「Babooshka」はTikTokで20万回以上のビデオ視聴を獲得するなど、TikTokはカタログ楽曲や往年のヒット曲も復活させる影響力があります。

想像してください。これらの古いヒット曲は、TikTokユーザー達が生まれるずっと前に発表された楽曲です。新しい世代が、昔を懐かしむTikTokトレンドに合わせて、こうした楽曲に合わせて歌い踊るビデオを投稿する音楽の楽しみ方によって、ボニーMの「怪僧ラスプーチン」や、Natasha Bedingfiledの2004年の「Unwritten」など、忘れ去られたカタログ楽曲に、新しい命を吹き込んでいるのです。

image via TikTok

カタログ楽曲がTikTokでヒットして成功に繋がった好例が、スコットランドを拠点とするインディーズ・ロックバンドのLife Without Buildingsです。彼らが「The Leanover」をリリースしたのは21年前でしたが、突然Spotifyで800万再生以上を獲得するヒットに繋がりました。これは、インディーズ・クリエーターでシンガーソングライターのBeabadoobeeが、同曲を口パクする10秒動画をTikTokに投稿したことがキッカケでバイラルヒットとなったことが理由です。

TikTokヒット曲の分析と傾向を知る

TikTokでヒットする楽曲の全体像を見ると、特定のジャンルやスタイルに左右されることなく、「多様化」がトレンドの一つであると言えます。Drakeの「Toosie Slide」、Doja Catの「Streets」、Britney Spearsの「I’m a Slave 4 U」、Michael Jacksonの「Billie Jean」など、TikTokからバイラルし、ヒットに繋がる楽曲には、公式はあるのでしょうか。何らかの公式が存在するとすれば、それは音楽業界にどのような影響を与えるのでしょうか。

私たちは、レコード会社や音楽出版社向けのAIを利用した分析ツール「SongCrunch」を使って、TikTokでヒットとなった新曲とカタログ曲を分析しました。SongCrunchは、人工知能モデルを含む幅広いアルゴリズムを導入しています。音楽市場のトレンドの特定、高度な楽曲検索、新しい作詞作曲家の発見など、さまざまな目的に応じて、歌詞や音楽、音響の要素から分析できるツールです。

今回、私たちは2018年から2021年の過去3年間にTikTokでバイラルヒットした16曲を分析しました。内訳は新曲8曲、2018年以前にリリースされた「懐かしの」8曲です。これらを同じ期間にチャート入りしたトップ5000曲と比較しました。

分析では、次の4つの側面に焦点を当てました。

楽曲構成分析:ハーモニー(キー、コード進行、ケーデンスなど)、メロディー(ボーカルやフック)、歌の構造、編曲などの作曲上の特徴。

プロダクション:bpm、楽器の特徴、ジャンル、ムード、曲の「響き」に関連するすべての要素。

歌詞の主題とムード:歌詞が伝える物語と感情。0(低い関連性)から5(強い関連性)のスケールで測定。

歌詞構成スタイル:反復、押韻、頭韻法、言葉遣いの選び方などの文学的および言語的手段を含む、歌詞におけるスタイル選好。

SongCrunchの分析によると、TikTokのヒット曲は、あらゆる面で極めて「シンプル」な傾向と要素が楽曲に含まれることが分かってきます。最も大きな特徴は、チャートインする楽曲よりも、複雑さが少ないことが見えてきます。TikTokヒット曲で使われるハーモニーは、キーにおいて全音階的な曲が目立ちます。他の楽曲との区別がつく個性ある「固有の」コードや、楽曲内におけるコードの数(「総コード数」)も、比較的少なくなっています。

下のグラフを見ると、トップチャートの楽曲で使われたコードの数は数百(最大値)ののぼる一方、TikTokのヒット曲で使われたコード総数はわずか90と、極端に少ないことが分かりました。興味深いことに、新旧のTikTokヒット曲はどちらも、モーダルインターチェンジやセカンダリードミナントといったコード進行の技法をほぼ一切使っていないことが分かりました。

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総コード数 vs. 固有のコード数 vs.全音階コード(%)

メロディー面では、TikTokのヒット曲は、平均的なトップチャート曲よりも、同じ音を連続して繰り返すユニゾンの数が多く、それらがより分かりやすくなっています。また、ボーカルフックのシーケンスもチャートヒット曲よりも長くなっています。これらの特徴は、楽曲がより反復的かつ定型的となって、親しみやすく、簡単に覚えられるようにしています。その結果、TikTok上でUGC動画に使われやすくなっています。さらに、楽曲のトーンは、トップチャート曲は平均的にメジャーとマイナーのスケールとモードにほぼ均等に分割している一方で、TikTokのヒット曲は主にマイナーなスケールが多く使われていました。

TikTokヒット曲の傾向

TikTokのトップヒット曲を、SongCrunchのダンサビリティ分析(どれだけダンスに向いているかの傾向分析)した結果、トップチャート曲の平均よりも高いスコアを獲得したことは驚くことではないでしょう。また、TikTokとトップチャートの曲は、BPM/テンポが速い、という共通点があることも見えてきました。

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(紫)ダンサビリティ(ピンク)高音ボーカルが広範囲に使われている(青)ムード:エレクトロニック

Cardi Bのトラップから、The Weekndのファルセットまで、TikTokのヒット曲のほとんどは、主に女性ボーカルまたは高音域のボーカルをフィーチャーしています。一方、トップチャート曲では、高音域と低音域のボーカルの分布はほぼ均等でした。

楽曲は、純粋なプレティーン・ポップから、トラップ、ヒップホップのダンス・ヒットまで、幅広いジャンルにわたっていましたが、TikTokのヒット曲には面白いことに、暗いムードの音色が多く含まれています。

新曲のTikTokヒット曲で最も一般的なムードとテーマは「エレクトロニック」、「ハッピー」、「パーティー」 でした。一方、カタログ楽曲(2018年以前リリース曲)のTikTokヒット曲に注目すると、ノスタルジーに誘発される「悲しさ」という感情が高いスコアを示しています。Simple Planの「I’m Just a Kid」、Jason Deruloの「Ridin Solo」、Busta Rhymesの「Touch It」など、ジャンルを横断して共通したムードでした。

歌詞のテーマ性:恋愛、性的、エンパワーメント

TikTokのヒット曲の歌詞を分析すると、チャートヒット曲よりもロマンチックな歌詞が多く、恋人との別れ、失恋をテーマにする楽曲がヒット曲には多いことも分かりました。TikTokのスマッシュ・ヒットとなった「Driver’s License」では、Olivia Rodrigoのヒリヒリするようなシンプルで感情豊かな歌声が、これまでに失恋を体験しことのあるTikTokユーザー全員に響いています。

またCardi Bの「WAP」、Megan Thee Stallionの「Savage」に見られるように、TikTokトップヒット曲は、セックスや性的なテーマを扱う傾向が強まっています。これらの楽曲は、楽曲を再生するTikTokユーザーの自信とエンパワーメントを高める内容になっています。喜び、フリースタイル、成功、楽しみといった、共感を呼びやすいカテゴリーや、羨望を誘うライフスタイルを示すカテゴリーで、高いスコアが出ています。

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(青)トップチャート平均(赤)TikTok平均
(左から)失恋、恋愛、セックス、喜び、フリースタイル、成功、楽しみ、暴力、怒り、寂しさ

TikTokユーザーを掴む歌詞:シンプルかつストレート

TikTokのヒット曲は、トップチャート曲よりも、早くサビが始まる傾向にあります。リスナーの注意を即座に捉えることができています。この特徴は、15秒以下の短い動画で再生されるようにするために不可欠な要素の一つです。TikTokヒット曲の歌詞では、略語やわかりやすい単語が多く含まれ、繰り返し使われる傾向が多く見られます。逆に、押韻(ライム)が少なく、かつ行末の押韻がより完全な形で作られています。これらの歌詞の特徴は、音楽の複雑さを少なくさせ、単調であることを暗示していますが、より多くの一般的なTikTokユーザーへのアピールに重要な要素となっています。

音楽業界にTikTokが与える効果

今回の分析は、ごく一部の例外を除いて、構成がシンプルで、反復性が高く、ダンスに向く楽曲が、TikTokでは人気が高いことを示しています。またこの分析では、疑問も導きだせませいた。TikTokは間違いなく、音楽業界に多大な影響を与えていることが証明された今、TikTokは今後、音楽制作にも影響を与えていくのでしょうか? TikTokでのヒットを追求することが業界標準化すれば、アーティストには創造性やイノベーションの余地は残されているのでしょうか?

The New York Timesの動画シリーズ「Diary of a Song」のエピソードで、Olivia Rodrigoは、TikTokで人々が彼女の曲を使ってUGC動画を作りやすいように、意図的に「Driver’s License」で動画に取り込みやすい音を加えた、と語っています。

Justin Bieberは、「Yummy」リリース時には、TikTokのバイラルヒットを目的にした楽曲制作を強調し過ぎだ、と批判されました。シンプルな歌詞と繰り返しの多いフレーズ、表面的な手法で子供じみた音楽制作を取り入れた「Yummy」は、極めて露骨にTikTokでの成功に向けて計算された楽曲と捉えられたのです。定評あるスーパースターが、TikTokのアルゴリズムに合わせるために、これほどまでに多大な努力を楽曲制作で行うことは、同アプリの音楽業界における影響力について多くのことを物語っています。

多くのレコード会社はアーティストと協力して、TikTokに最適化した音楽を作り始めているとThe Ringerではレポートされています。そのためTikTokの音楽チームは「アーティストやセレブと定期的にミーティングを持ち、TikTokでヒットするためのヒントを提供している」とのことです。またTikTokのトップユーザーたちは毎週、どんな動画やトレンド、テクニックが、露出やUGC動画生成を増やすのに役立つかを説明するメールを受け取っています。TikTok社内には、綿密に管理された動画キュレーション・プロセスが存在し、どの動画をトレンドページに載せるべきかを能動的に決定しています。

TikTokは、全てのコンテンツ・クリエーターが、巨大なオーディエンスへの露出を獲得するための平等な機会を与えている、と主張しています。無名のクリエーターと、既存のグローバルアーティストやスタークリエイターが競争する場をより公平にすることに貢献している一方で、ミーム化しやすいトレンドに最も適した、親しみやすさとシンプルなサウンドのポップソングがTikTokで好まれることは揺るぎない事実でもあります。

TikTokで成功するための特別な公式の存在を証明することは無理があるものの、私たちのリサーチは、TikTokで成功するためのより具体的な指針を提供していると言えます。

最後に、私たちが気付いたTikTokでバイラルヒットを作るためのヒントを幾つかお勧めします。キャッチーで動きやすく、エレクトリックなビートを使うこと。楽しい雰囲気を醸し出すこと。シンプルで共感しやすい歌詞を使うこと。汚い言葉を使わない歌詞であること。耳馴染みの良いメロディーを持っていること。簡単に覚えれらる、創作ダンスに使いやすいこと。繰り返しがあり、流れるような韻を多様することです。シンプルですよね。と言いたくなりますが、Appleの創業者のスティーブ・ジョブズはかつて、「シンプルは複雑より難しい」と言っていました。あのジョブズ自らが難しいと言っていたシンプルさを追求しつつ、DrakeやThe Weeknd、Doja Catたちとも競争するわけですから、音楽にとってTikTokは簡単ではなさそうですね。

翻訳:塚本 紺
編集:ジェイ・コウガミ

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