エビネ
Calanthe discolor Lindl.
ラン科 単子葉 多年草
分布 北海道〜九州
高さ 30〜50cm
花の時期 4〜5月

地面の下すぐに、太くてゴツゴツして少し曲がった地下茎がある。これをエビに似ていると昔の人は思った。それでこの植物をエビネと呼ぶ。地下茎からハリガネのような根がたくさん生える。地下茎の先にできた球のようなところから、3〜4枚のボート形の葉を出し、中心から、1本の茎をのばして、花を咲かせる。花は人が両足をふんばって、両手を広げた姿に似ている。「人」は、紫がかった茶色で、胸の辺りから白い花びらのようなものを下げている。その頭と両足は、がく片に当たり、両手と白いところが、花びらに当たる。つまり、がく片が3枚、花びらが3枚ということになる。花びらのうち、白い真んなかの1枚は、特別な形で、唇弁と呼ばれる。唇弁は先が3つに分かれている。唇弁から花の後ろのほうに短いシッポのような距があり、なかに蜜が入っている。果実は秋にでき、長さ3cmくらいでだ円形、なかに1mmにもならない小さな糸くずのような種子がたくさん入っている。学名のCalantheは美しい花の意味、discolorは花の色がひとつではないという意味。花は茶色と白の2色。

あまり草が茂っていないスギの林や雑木林に生える。花があれば誰にでもすぐ分かる。しかし、葉の形ときれいな緑の色に特徴があるので、花がなくともすぐに探せる。集まって生える性質があるので、そんな場合はさらにかんたんに見つかる。私は、杉の林のなかで、見渡すところ一面のエビネの花畑に出会ったことがある。エビネは花が美しいので、自分の庭に植えて楽しむ人が多い。そればかりでなく、花の形や色には変化が大きく、自然のなかには、特別に美しいものや、めずらしいものが見つかることがあるので、それを手に入れようと、エビネ大好き人間はさらに夢中になる。しかし、それが行き過ぎると自然破壊につながる。人間が庭に植えるために自然のエビネをとりつくし、今では、エビネは絶滅が心配される植物となった。とくに、めずらしい花をとって、それを高い値段で売ろうとする一部の心ない人の行いは問題とされる。それは、花が咲く前にとれるだけのエビネをすべてとりつくして、自分の畑に植えて育て、花を咲かせて、めずらしいものがあれば、それを売り、あとはすててしまうという。また、都会の花屋で苗を売るために、自然から大量にとって、野菜のように出荷することもあるという。エビネは美しい花をもつために、こんなひどい目にあっている。また、エビネのようなランを求めて、多くの日本人が熱帯の国々におしかけたという。現在、世界の自然の動物や植物が次々に絶滅している。日本でも、大きな開発の工事などによって、貴重な植物の絶滅が心配されている。このため、環境庁が中心となって、絶滅や極端に数が少なくなっている植物を調査して、『植物版レッドリスト』(1997年)という冊子を出版している。これにのせられている植物は、政府も民間の人もみんなで協力して保護しなければいけない。そのなかにエビネが入っている。また、エビネをはじめ、ラン科の植物は、すべて保護しなければならない、という考えのもとに国際的なワシントン条約が結ばれた。これによって、外国で野生のランをとって日本へもちこむことは禁止された。世界的に野生の生物を保護しなければいけない、という考えが広まっている。日本では、山や野原にある野生の花は、誰がとっても、それは、罪になるような悪いことではない、という考えが長い間人々にあった。そのような考えは、今や国際的にも通用しない。

花を楽しむだけでなく、中国では、薬用とし、打ち身の治療に用いる。

エビネのなかま(エビネ属)は、熱帯を中心に約100種があり、日本には、19種が分布する。ナツエビネは山に生え、夏にピンクの花が咲く。ニオイエビネは伊豆諸島にあり、強い香りがある。サルメンエビネは、初夏に黄緑の花を咲かせるが、唇弁にしわがあって、サルの顔のようなのでこの名前がついた。