記事

2022年は福岡市が国際都市へ飛躍するチャレンジの年に

天神ビッグバン、博多コネクティッドによる大規模オフィスビルの再開発に加え、大型商業施設の開業、九大跡地の再開発構想など、生まれ変わろうとする福岡市。2022年は国際都市へと飛躍するきっかけとなりそうだ。

2022年 02月 15日
本格化する福岡市の大型再開発

いよいよ2022年、国際都市への挑戦が始まった。福岡市では昨年10月に天神ビッグバン第1号となる「天神ビジネスセンター」が竣工した。延床面積60,000㎡を超える大規模ビルながら竣工時点で90%以上の好稼働でスタートした。Google日本法人が3拠点目となる事業所を同ビルに開設すると報じられており、天神ビッグバン元年としては上々のスタートだ。

天神ビッグバンに関する記事はこちら

正念場となる今年は「旧大名小学校跡地活用事業」プロジェクトが竣工する。同プロジェクトはグローバル創業都市を目指す福岡市の根幹的事業で、大名小学校跡の借地約10,000㎡を権原とし、積水ハウス等の手によるオフィス、ホテル、商業施設、住宅、創業支援施設、保育施設、広場、イベントホール等から構成される大規模複合ビルを建設するものである。竣工は今年12月、グランドオープンは来年春の予定である。中核となるオフィス棟は25階建てで、基準階の賃貸面積は約756坪、高いセキュリティ性能を備えたBCP対応の福岡屈指のハイグレードオフィスとなる。募集賃料は天神ビジネスセンターとほぼ同額の月額坪あたり30,000円台(共益費込み)といわれる。

オフィス棟の17-24階には九州初となる高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン福岡」がオープンするため、欧米系の富裕層が福岡に来るなど地域活性化に大きく貢献すると期待されている。福岡市にとって待ち望んでいたラグジュアリー&インターナショナルな5スターホテルの誕生である。

購読

さらにインサイトをお探しですか?アップデートを見逃さない

グローバルな事業用不動産市場から最新のニュース、インサイト、投資機会を受け取る。

また、大名小学校跡地以外にも、福岡市では「福岡舞鶴スクエア(延床面積6,200坪)」が2022年3月に竣工を迎える。同ビルは経済環境の悪化でテナント募集が難航すると危惧されていたが、蓋を開けてみれば竣工前の段階でほぼ100%のテナントが内定しているようだ。2021年に竣工した「T-building HAKATA EAST」も同様に満床になっているのを見ると、コロナ禍で在宅やリモートワークが進み、経済の停滞も重なってオフィス需要が減退しているはずが、水面下ではオフィス市況の回復が胎動していた。福岡市では2021年9月ころからオフィス需要が少しずつ増加しており、絶対量は2019年に比べるべくもないが緩やかに回復基調にのっていたのだ。

次に博多駅地区を見ると、こちらも博多コネクティッド第1号となるオフィスビル「博多イーストテラス」が8月に開業する。事業主はNTT都市開発で10階建て、基準階の賃貸面積は650坪と広く、延床面積は8,823坪になる。博多駅地区は福岡空港に近いため、その分、高度制限が厳しく、都心部でも10階建てが限度一杯というのは福岡市特有の光景である。空港の利便性と建築物の高さはトレードオフの関係にある。

下表は2021年から5年間のオフィスビルの供給状況を示したものである。

商業施設開発で年間10%超の地価上昇

2番目に商業施設の開発動向に移ろう。福岡市の一番の商業トピックスは2022年4月に「ららぽーと福岡」が開業することである。博多区那珂に建築中の「ららぽーと福岡」は敷地面積86,600㎡ 延床面積206,400㎡で約200店以上が出店する。同施設には、多彩な店舗群に加え、こどもの職業・社会体験ができる「キッザニア」、日本最大級の木育・多世代交流施設「おもちゃ美術館」も登場する。また、フットサルコート3面を有する「MIFA Football Park 福岡」や屋上には「スポーツパーク」も設置され、スポーツ施設の規模は施設全体で10,000㎡に及ぶ。

「ららぽーと福岡」の最寄り駅となるJR竹下駅周辺の不動産市場は沸き立っており、賃貸及び分譲マンション需要の高まりを受けて住宅地、商業地とも年間10%以上の地価上昇率が続いている。同駅は博多駅から電車で1駅という近さの割には知名度が低かったが、「ららぽーと福岡」の出現で一躍表舞台に躍り出た感がある。

スマートシティを目指す九大跡地の大規模再開発

3番目に福岡市の開発プロジェクトを取り上げる。大規模プロジェクトとしては九州大学箱崎キャンパス跡地が動きだす可能性が高く、ようやく土地利用事業者の公募が行われるのではと期待されている。九州大学とUR都市再生機構は2021年春に公募を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大による影響を考慮し、公募時期を半年延ばしたのち、9月にさらに再延期した。具体的な公募の時期は今のところ未定であるが、周辺エリアまで含めた開発規模は50haに及ぶ大規模開発であり、天神ビッグバンと並んで市民の関心が極めて高いプロジェクトである。福岡市は九大跡地について自動運転など先端技術を駆使した次世代モデル都市「スマートシティ」として開発することを標榜しており、今後の動向が注目される。入札予定者としては九州電力をはじめとする地場企業連合と商社がコンソーシアムを組んで参加すると新聞紙上を賑わしたが、新型コロナによる影響で投資意欲に変化が生じているのは想像に難くない。

一方で、九大跡地の交通整備は具体化しており、JR九州は新たな街の利便性を向上させるため、2025年の開業を目指して、貝塚駅近くにJR鹿児島本線新駅を設置すると発表した。新しい街は地下鉄箱崎線を利用して商都「天神」に通勤可能なほか、JR鹿児島本線を利用して「陸の玄関」博多駅への通勤も可能なので、将来的には2駅2路線を擁する福岡市の副都心として発展を遂げていく可能性が高い。

国際イベントの開催

4番目にイベントである。福岡市では5月に博多区のマリンメッセで世界水泳選手権福岡大会が開催される予定だったが、「オミクロン株」の感染拡大により、各国で予選会を開催できないため、2023年7月頃に再延期される見通しとなった。世界190カ国・地域から約2,400人が出場し、その後に開催される世界マスターズ水泳では世界100カ国・地域から約10,000人が出場する予定だっただけに、福岡市民にとっては残念な結果だが、来年無事に開催されることを祈りたい。来年、世界水泳選手権が開催されれば、日本で開催されるのは2001年の福岡大会から実に22年ぶり、日本では2度目の開催になる。経済効果は九州全体(マスターズは熊本・鹿児島でも開催)で約460億円と試算されているが、福岡市には、90億円に上る負担がのしかかるため、世界水泳のオフィシャルグッズをふるさと納税の返戻品にするなど開催地支援を呼び掛けている。

さらに福岡市は2023年に日本で開催されるG7主要7カ国首脳会議の候補地にも名乗りを上げている。広島市や名古屋市も立候補しているため誘致獲得は容易ではないが、仮に誘致が決まった場合には、経済的な波及効果はもちろん、天神ビッグバンのこけら落としとして大名小学校跡地のお披露目できるほか、爾後の国際競争力が高まるとあって福岡市のG7誘致にかける意気込みは強い。

国家事業に位置付けられる半導体工場の誘致

最後に九州経済にとって重要なプロジェクトを紹介する。

世界的半導体大手の台湾TSMCが過去最高益をあげたニュースが記憶に新しいが、TSMCは日本初となる半導体の量産工場を、ソニーグループと共同で熊本県菊陽町に建設する。日本政府は国家事業と位置付けて数千億円の補助金を用意するためTSMCの進出は総額で約8,000億円に及ぶビッグプロジェクトとなっており、1,500人の雇用をはじめ、熊本県に大きな経済効果と関連産業の集積をもたらすと期待が高まっている。すでに道路や住宅、ショッピンセンターなどの整備が始まっており、熊本県が人口増加に転じる可能性さえ指摘され始めている。菊陽町は社人研の人口予測を超えて人口が顕著に伸びており、菊陽町及び同町と隣接する熊本市の不動産投資が活発化してくる可能性が高い。外国人向けの住宅ニーズが熊本市に顕在化する可能性も否定できない。TSMCは2024年末までに量産を始める。

以上みてきたように、2022年は福岡市にとって国際都市として飛躍するチャレンジの年になる。「オミクロン」株の影響で国際水泳大会が再延期されるなど、現実には多くの困難が立ちはだかるが、福岡市長をはじめ市民の態度は、明鏡止水のごとく、曇りなく国際化による福岡市の発展を信じているように見える。市長は「気持ちを切り替えまた1年準備をしていきたい」とブロック中心都市のトップランナーとしての自信を覗かせた。

執筆者:JLL日本 福岡支社 支社長 兼 キャピタルマーケット事業部 福岡代表 山﨑 健二

日本の不動産投資市場の最新動向はこちら

お問い合わせ

何かお探しものやご興味のあるものがありましたら、お知らせ下さい。担当者より折り返しご連絡いたします。