レッドカーペットファッションを語るとき、もし2017年に裸に近いドレスが多く、2018年に政治的発言を思わせるドレスがあったとしたら、2019年はすべてがヴィンテージだった。人生の大切なこの瞬間に過去のデザイナーのファッションに群がる多くの影響力のある人たちを見たこの年に、議論が再燃するのは興味深いことに、アーカイブ作品を着ることについてだ。
90年代にキャットウォークを歩いた時のナオミ・キャンベルをそのまま真似たようなキム・カーダシアンや1965年のクレージュ(Courreges)のクチュールコートを選んだサセックス公爵夫人から、エミー賞で60年代のヴァレンティノ(Valentino)を着用したグウィネス・パルトロウ、カンヌ国際映画祭でヴィンテージのロベルト カヴァリ(Roberto Cavalli)を着て登場したベラ・ハディッド、2020年SAGアワードでジョン・ガリアーノのディオール(Dior)を着用したジェニファー・アニストンなど、この12ヶ月で、最も話題になったセレブリティスタイルは、何十年も前に作られた服。
この新しいヴィンテージに対する認識は、どれほどサステナビリティへの関心があるかというもので、必然的に新しい環境の認識へと帰結する。
しかし、レッドカーペットでヴィンテージにシフトする姿が見られるのは、これが主要な理由なのだろうか? どのくらい私たちのワードローブにインパクトを与えるのか? そしてこれはただの一過性のトレンドではなく更なる何かを期待できるのか?
この議論の興味深いスタートポイントとなるうるのは、ヴィンテージの定義をどう捉えるかだ。ミュージシャンのマギー・ロジャーズがシャネル(Chanel)の2014年プレフォールコレクションを先週のグラミー賞で着た時、多くの雑誌は彼女の“ヴィンテージ”ドレスによるサステナビリティへの取り組みを賞賛した。
しかし、多くの疑問があったのも事実。たった6年前に作られたものがこのカテゴリーに入るのだろうか。
ほんの数シーズン古いだけの何かと対照的に、それをヴィンテージとして広く一般に容認される概念があるだろうか?
「ヴィンテージの条件はいつも変わります」。ウィリアム・ヴィンテージのCEOであるマリー・ブランシェットは語る。
「フランスでは、ヴィンテージは“ミレジム”と訳されます。その意味は“最高の年”。その言葉は80年代にファッション業界で初めて使われました。同じ世紀のなかで、何十年も前にインスパイアされたファッションが初めて利用された10年。今日では、ヴィンテージであるには、すでにファッションの歴史として存在している必要があります。そして現代のトレンドやシルエットに十分影響を与えていること」
ヴィンテージであるには、すでにファッションの歴史として存在している必要がある
ショーディッチにある人気のヴィンテージストア、ノルディック・ポエトリーの設立者アメリ・リンドグレンにとって、ヴィンテージと考えられるかどうかは年代によるという。しかしそれも常に主観的なものだという。
「伝統的に、ヴィンテージと定義されるものは少なくとも20年以上のもので、アンティークアイテムは、少なくとも100年以上前のものです。しかしながら、これはひとつの定義にすぎません。ノルディック・ポエトリーでは、私たちは1960年代から2000年のデザイナー・ヴィンテージをセレクトしています。もしそれが特別なものならば、それはまた再び販売される。私たちにとってそれがヴィンテージのカテゴリーに入ります。アイテムが以前に誰かのものであることは顧客にとって明らかです。しかし同時にそれは他のどこにも見つけることはできません」
両方の専門家が同意するものは、私たちがそれがヴィンテージであるべきかどうかのタイムスタンプを押す試みをしても、最終的にそれはすべてその服が持つインパクトであり、決定するのは個人の考え方だということだ。
ヴィンテージへの移行を促進するよりもっと重要な課題がある
そしてレッドカーペットでは、サステナビリティの促進に関して言えば、新品や今現在作られているものでなければ、どれほど古いものかは関係ないと論じることもできる。これを考慮すると、ヴィンテージと考えるかどうかにかかわらず、今シーズンのキャットウォークやカスタムの服よりも 、少なくとも2、3シーズン古い服を選ぶ傾向が多くのセレブにあったと思われる。
しかし、この変更の背後にあるものは何か?
答えは、明白にサステナビリティだ。ファッション業界における環境問題に対する認識はメインストリームに届く――デザイナー、スタイリスト、エディター、セレブ、インフルエンサー、そして消費者さえファッション産業がどれくらい気候変動に関与しているかを、痛々しいほど意識している。
そして、私たちの多くが自分たちの習慣に疑問を投げかける。そして、多くの誤報、混乱、そして新品の服を買うことが許されるという偽善的な環境への配慮が広がるなかで、広く認められたひとつの信念は、私たちの地球へのダメージを減少させるには、セカンドハンドを買うということは紛れもないポジティブな買い物の方法だということ。
これにより、ただのファッション声明だけではなく、サステナビリティを促進するためにレッドカーペットを使ってセレブリティにヴィンテージを着用させるのだ。
ヴィンテージには信じられないほどの魅力を感じさせる何かがある、それはただ1点のみ存在するかもしれないものだから
「現在、ヴィンテージへの移行を促進するよりもっと重要な課題がある」と、リンドグレンは主張する。
「私はスウェーデン人のアクティビスト、グレタ・トゥーンベリがサステナビリティに大きなインパクトを与えたと思いますし、再度言いますが気候変動は私たちが一番気にしていることです。世界の人々を刺激し、世界のリーダー、企業のトップ、そしてファッション業界を変えるために圧力を与える。この意識的なシフトが、人々を行動に移す影響を与えたのです」
しかしながら、リンドグレンは、これをまったく新しい何かとみなすことができないとも受け止めている。「ケイト・モス、クロエ・セヴィニー、リアーナ、そしてキム・カーダシアンなどのセレブリティたちは今までもずっとヴィンテージを支持してきました」
ビバリーヒルズをベースにしたデザイナーのアーカイブ服を扱う(そしてジェニファー・アニストンが彼女のジョン・ガリアーノのガウンをピックアップした)ストア、リリー・エ・コンパニのオーナーのリタ・ワトニックは、いつもAリストセレブたちはデザイナーのヴィンテージファッションを欲していると主張する。それはすべてがサステナビリテイに繋がるものでもない、と言う。
「私はそれがこれからの新しいトレンドになるとは思えないことを前提として」と彼女は答える。「40年ほど私はこのビジネスをしていますが、私たちのクライアントは世界のイべントに私たちのアーカイブの服を着て登場します」
ヴィンテージはやがてメインストリームになる
ワトニックの言うことはもっともだ。2006年のオスカーでのジェニファー・ロペスから、メットガラでのアシュリー・オルセンとメアリー=ケイト・オルセンや1992年のオスカー賞でデミ・ムーアが着たガウン(アカデミー賞で初めてヴィンテージが着用されたことで知られる)まで、ここ10年の間、リリー・エ・コンパニはハリウッドに多くのアーカイブファッションを提供してきた。
ワトニックはサステナビリティがこれらの関心に大きな影響を及ぼしたことを認めるが、レッドカーペットのヴィンテージファッションに対する説明がただ単に環境上の理由だけではないはずだ――そして、これは彼女一人の意見でもない。
「環境のことを考えるためには大きな役割を占めています。しかしそれはすべてサステナビリティというわけではありません」ウィリアム・ヴィンテージのブランシェットが私たちにこう語る。
「それは、何か特別なものを買いたいと言う欲望、何かストーリーがある、とてもユニークでクラフトとファッションの歴史が感じられるものです」
レッドカーペットの時期には、この独占された“特別な何か” が必要不可欠だ。コートニー・カーダシアンなどをクライアントに持つセレブリティスタイリストのダニ・ミシェルは私たちにこう語る。
「ヴィンテージをとても特別にするのは、その希少性と独創性が他のファッションを寄せ付けないからだと思います。私は本当のヴィンテージファッション好きにとって、もっとも大きい点はノスタルジアだと思います――それは私たちをその時代に戻してくれて、他の人たちが着ているものすべてから切り離すのです。私はどのヴィンテージもすべて特別だとは言いません。しかしいくつかのヴィンテージ、またはアーカイブから取り寄せたものは、信じられないほどの魅力を感じさせる何かがあります。なぜなら半年の間にそれらは何百と増えることはない――これはただ1点のみ存在するかもしれないものだからです」
環境のことを考えるためには大きな役割を占めているが、すべてサステナビリティというわけではない
NYのヴィンテージストア、ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドの共同オーナーでCEOのセス・ウェイサーは、賛同する。
「レッドカーペットでヴィンテージが増えるということは、セレブリティたちがもっともっと本当の1点ものを探しているということ。ヴィンテージスタイルはかなりレアです。なぜならもうそれは生産されておらず彼らの個性を表現するには素晴らしい機会となります。加えて、今の気候問題に関して、ほとんどのセレブリティたちが何かサステナビリティに関与しています」
つまり、ヴィンテージはいくつかの理由によりレッドカーペットに登場することになる。しかし多くの専門家は、サステナビリティは独占的な何かを利用したいというセレブリティたちによって、その要求を一般に広めたという意見に賛成する。
しかしどのようにそれをワードローブに取り入れるのか? 消費者は彼らをフォローする(またはすでにしている)?
ヴェスティア・コレクティブのファッションディレクターで共同設立者のソフィー・ハーサンは、消費者も同じだと主張する。それはサステナビリティへの反応であるのと同じくらいとてもノスタルジアだ。
「私はそれが両者とも少しあると思います。環境は現代において現実的なトピックです。そして人々はセカンドハンドマーケットを好み、アイコニックなブランドに投資します。ますます多くの消費者は、エシカル消費、循環可能でサステナブルなファッションを選んでいます。しかしもちろん私たちは、歴史を形作ったファッションとデザイナーのアイコン領域に対する情熱を無視することはできません」
いくつかのデータには確かに消費者はヴィンテージを買うセレブリティの足跡を追うという結果が出ている。グローバルファッション検索エンジンのリスト――12,000に及ぶデザイナーとストアオンラインのショッピングの動向を分析する――は、私たちに12月からファッション検索で“ヴィンテージ”という単語が28パーセント上昇したと答えた。
顧客ベースの統計は以前よりもニッチではなくなってきている
その間、イギリスの高級デパートのリバティ ロンドンは、先シーズンのウェブサイトの検索エンジンで“ヴィンテージ”という単語が193パーセント上昇し、実際にセールスも66%上昇したという。オンラインショッピングのマッチズファッションでも、ウィリアム・ヴィンテージとの協力による、ユニークで一点もののアーカイブの服に同じような需要が見られた。
ヴィンテージストアも興味が高い。ニューヨークのワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドではビジネスは成長し、リンドグレンのノルディック・ポエトリーでもヴィンテージの買い物客の変化の統計が見られた。
「私は人々がやがてカーボンフットプリントを減少させるような意識の高い消費者となると信じています。リサイクリング、ヴィーガニズム、飛行機での旅行の減少、そしてエシカルなショッピングなど、過去には進歩的なトピックだったものはやがて主流になりつつあります。要求は高まり、私たちの顧客ベースの統計は以前よりもニッチではなくなってきています」
これはウィリアム・ヴィンテージのブランシェットも気付いた傾向である――もしかしたら、かつてはただのファッション中毒だけのものであったが、今ではアーカイブピースが主流になり始めている。「それはイギリスだけではなく、世界的なもので驚くばかりです。その範囲はすべての社会階級や世界中の人まで広がっています」
ヴェスティア・コレクティヴでは、セレブリティカルチャーの影響によるセールスがさらに強いとハーサンは語る。
「 ヴェスティア・コレクティヴのコミュニティはいつもヴィンテージ製品から影響を受けています。しかし、昨年はヴィンテージが売り上げトップ3のカテゴリーに移りました。かつてないほど、個性的なものやヘリテージデザイナーの製品への要望が増えています」
「例えばキム・カーダシアンが昨年ジャン=ポール・ゴルチエを着た後、ゴルチエのヴィンテージへの関心が高まるなど、 コミュニティがソーシャルメディアと有名人の影響を受けるのを見ることができます。私たちのノンブランドのヴィンテージのセレクションは、またウエディングシーズンにも動きが活発になります。ユニークな服に対する要望もあります」
セレブリティたちは、文字通り何を着るべきか終わりのない選択ができる女性たち。そのため彼らはパワフルなメッセージを送るためにヴィンテージの服を選ぶ、とワトニックは主張する。
「人々がこれらの注目度の高い人物(彼らは基本的に望むものは何でも手に入れることができる。無料で)が何かを着ているのを見た時、消費者習慣に多くの影響を与えます」
ヴィンテージドレスをレッドカーペットで着ることで、新たな消費の強いメッセージを取り継ぐ
「ヴィンテージドレスをレッドカーペットで着ることで、新たな消費の強いメッセージを伝えます。 今日のヴィンテージはトレンドというよりもライフスタイルなのです」とハーサンは加える。「この10年でこのムーブメントは今までにないほど大きくなっています。ヴィンテージはセレブリティをグラマラスに見せ、過去のファッション以上の何かを表した美しいデザインを表現し、さらにサステナビリティのために立ち上がるのです」
現在サステナブルファッションを促すアワードシーズンやメットガラのテーマ(「About Time: Fashion and Duration」)がこのトレンドに完璧にフィットするなかで、2020年にはレッドカーペットでのヴィンテージの増加は無限になるような気がする。それは実際、ただの一時的なトレンドよりはるかに大きなものになるのかもしれない。
Translation: Chise Taguchi From Harper's BAZAAR UK