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GIAの研究員、ブラックダイヤモンドの内部を探る


中心にブラックダイヤモンドが波のように曲がった帯状の線を成し、その両側に無色のダイヤモンドがフリルのように縁取りしてセットされているリング。イヤリングは、内側にブラックダイヤモンドがあり、三日月の形をしており、両側に無色のダイヤモンドがフリルのように縁取りしてセットされている。
黒と白のコントラストはファッションで人気があり、ジュエリーにおいても同様である。左のリングには、1.5カラットのブラックダイヤモンドと1.5カラットの無色のダイヤモンドが飾られている。イヤリングは、1.69カラットのブラックダイヤモンドと1.76カラットの無色のダイヤモンドを特徴とする。これら3つの作品はすべて18Kゴールドにセットされている。提供:Nanci Knott & Co.(ナンシー・ノットアンド・カンパニー) 写真撮影:Robert Weldon/GIA

ブラックダイヤモンドの歴然とした美しさは、何十年もの間、ジュエリーデザイナーを魅了しており、リング、ネックレス、ブレスレットで無色のダイヤモンドと組み合わせることにより印象的なコントラストを生み出します。しかし、真っ黒の天然ダイヤモンドは通常あまり発見されないため、市場で出回っている大半のものは均一な黒色を出すために処理が施されています。

天然および処理済み両方のどちらにおいても、ブラックダイヤモンドの重要な原産地はジンバブエ東部のMarange(マランジェ)鉱床です。この鉱床は比較的新しく、論争の的となっているダイヤモンド産地であり、ここから大量に産出されるダイヤモンドは、放射線による茶色の染みとグラファイトのインクルージョンが組み合わさることで黒く見えたり、黒い色を達成するために処理することができます。デビアスがこの鉱床を2001年に発見しましたが、2006年まで稼働していませんでした。GIAの研究員であるKaren V. Smit、Elina Myagkaya、Stephanie Persaud、Wuyi Wangが2018年に行った研究は、ジンバブエ産ブラックダイヤモンドの色の起源を識別するために使用されるユニークな特性および可能な処理を鑑別する方法について詳しく報告します。

8列に並んでいるブラックダイヤモンドが5行ある。
この研究で分析した40のファンシーダークブラウンからファンシーブラックの天然Marange(マランジェ)ダイヤモンドのテーブルアップの画像。ダイヤモンドの重量は 0.39~3.11ct、直径は4.47~8.75mm (表1参照)。すべてのダイヤモンドは、微小なグラファイトインクルージョンで構成されている暗い雲を持つ4つを除いて、グラファイトのニードルおよび放射線による数多くの染みがあるために外観が暗くなっている。写真撮影:Jian Xin (Jae) Liao

GIAの研究員は、重量が0.39カラット~3.11カラットの天然ファンシーダークブラウンやファンシーブラックダイヤモンド40粒を分析し、この研究結果をGIAの季刊専門誌Gems & Gemology(宝石&宝石学)2018年夏号で発表しました。  ラウンドカットダイヤモンドのすべてが、研磨された未処理のものでした。ほとんどのダイヤモンドの色が均一でなく、ジュエリーにはあまりふさわしくない、または不適切であることが写真で確認できます。

研究員は、ダイヤモンドの結晶格子内の不純物や欠陥を識別するために、いくつかの異なる分光分析法など様々な検査を行いました。インクルージョン(グラファイトなど)は、通常、照射に関連した欠陥であるGR1(研究論文で検査結果の報告済み)などの欠陥と区別されます。DiamondView(ダイヤモンドビュー)で撮影した画像を使用して、成長ゾーニングがマッピングされました。

DiamondViewおよび可視光線で観察したブラックダイヤモンドの2つの画像。
2つのダイヤモンドのDiamondViewおよび可視光の画像。ダイヤモンドにあるフラクチャー内で放射線による染みが観察される。DiamondViewによる画像で発光がない部分は、ダイヤモンドのフラクチャーに沿って放射線による損傷が多大であることに関連している。写真撮影および画像:Karen Smit

自然に着色された多くのダイヤモンドの黒い色相は、放射線へさらされたか、もしくは硫化物、グラファイト、マグネタイト、ヘマタイトまたは含鉄素材のインクルージョンがあるのが原因で生じます。多くの処理されたブラックダイヤモンドは非常に強く照射処理されているため黒く見えますが、むしろ非常に濃い緑色となります。ジンバブエ産の試料に見られる暗い色は、グラファイト、メタンまたは他の暗い鉱物のインクルージョンによって生じており、これらのインクルージョンが石の中であまりにも大きく広がっているため、ダイヤモンドのすべてまたはほとんどがその色になります。また、これらの試料の多くが、フラクチャーを中心として茶色に着色された放射線による染みを含んでいました。

GIAの研究員は、マランジェ鉱山から産出された試料のほとんどで、グラファイトのニードルが豊富にあり、表面に達する大きなフラクチャーに放射線による茶色の染みがあるため暗い色が生じていることを発見しました。この茶色の染みは、ダイヤモンドが地表に少なくとも10億年の間存在しているため起こり、放射性物質や鉱物にさらされているため生じた可能性があります。放射線にさらされたほとんどのダイヤモンドは緑色に変色しますが、約500~600°Cに加熱した後、これらの染みは茶色に変色します。フラクチャーのあるダイヤモンドは、おそらくHPHT処理の過程に対して耐久性はありませんが、宝石質のブラックダイヤモンドにするための低圧高温処理には耐えることができます。

リングの大きな中心部には、複数のブラックダイヤモンドがセットされ、無色のダイヤモンドが列を成して囲んでいる。
このリングは、1.13カラットのブラックダイヤモンドがセンターストーンとしてあしらわれ、0.56カラットの無色のダイヤモンドが周りに散りばめられているのを特徴とする。提供:Four Seasons Jewelry Corporation(フォー・シーズンズ・ジュエリー社) 写真撮影:Valerie Power/GIA

試料のうちの4つには珍しい内部構造が観察されました。これらのダイヤモンドは八面体と立方体の2つの異なる成長構造(mixed-habitダイヤモンドと呼ばれる)を含んでいました。ダイヤモンドの立方体の部分には、暗い雲のように見える微小なグラファイトインクルージョンが集まっていました。しかし、GIAが行った別の研究では、1200°C以上で加熱すると、グラファイトインクルージョンが元のサイズの10~16倍に拡大し、均一な不透明の黒色を作り出すことが確認されています。このため、マランジェ鉱山は処理が施されるファンシーブラックダイヤモンドにとって重要な原産地となる可能性があります。

本研究の目的は、マランジェ鉱山から産出されるブラックダイヤモンドの特性を記録し、そのような珍しいダイヤモンドがどのように形成されたかについて理解を深めることでした。マランジェ鉱山は年間数百万カラットの大量のダイヤモンドを生産しているため、グラファイトを含むこれらの低品質のダイヤモンドは、粗鉱より産出される平均的なダイヤモンドよりサイズが大きくなる(5~7カラット)傾向があるため、処理および未処理のブラックダイヤモンドの主要な産出地となることを示します。

ブラックダイヤモンドでできた3列のバンドの上にある無色のダイヤモンドの花びらがセンターストーンのブラックダイヤモンドの周りを飾るひまわりのモチーフのリング。イヤリングでは、リングと同じひまわりのモチーフが、列を成したブラックダイヤモンドの先端に見られる。
Le Vian(レヴィアン)の「ひまわりコレクション」は、Blackberry Diamonds®と呼ばれるブラックダイヤモンドとVanilla Diamonds®と呼ばれる無色のダイヤモンドを特徴とする。左のリングには、0.625カラットのブラックダイヤモンドと0.375カラットの無色のダイヤモンドがセットされている。イヤリングは、0.25カラットのブラックダイヤモンドと0.625カラットの無色のダイヤモンドが飾られているのを特徴とする。写真提供:レヴィアン

筆頭著者のKaren V. Smitと別のチームの研究員は、ダイヤモンドの成長過程をよりよく理解するために、同じ鉱床から産出された別のグループのmixed-habitダイヤモンドを検査しました。これらのmixed-habitダイヤモンドは、古代のメタン(1個の炭素原子に4個の水素原子が結合した分子)の流体インクルージョンを含んでいました。Smit、Steven B. Shirey、Richard A. Stern、Andrew Steele、Wuyi Wangが行った研究は、科学誌Lithos(リソス)の2016年4月号に掲載されました。興味深いことに、これらのメタンの流体は、ダイヤモンドの立方体の部分のみにありましたが、立方体の成長率が八面体に比べてより速いため、八面体の部分にはメタンの流体はありませんでした。これらのマランジェ産ダイヤモンドは、メタンが記述された最初のダイヤモンドであり、地球の深部でダイヤモンドがどのように形成されるかに関して重要な制限事項を提供しました。

Russell Shor は、GIA カールスバッドのシニア業界アナリストです。

Gems & Gemology(宝石と宝石学)に掲載された記事の著者は以下のとおりです。

筆頭著者Karen Smitは、ニューヨークのGIAで研究科学者を務めています。2013年にUniversity of Alberta(アルバータ大学)で地質学の博士号を取得し、2014年~2016年にGIAで博士研究員として活躍していました。彼女が専門とする研究分野は、ダイヤモンド地質学と地球化学です。これまでに数多くの記事を発表しており、その中でもGems & Gemology(宝石と宝石学)や他の専門誌に多数の記事が掲載されています。最近では、カナダのビクター鉱山から産出される新原生代のレルゾライトに関する最新の研究記事が、Minerals and Petrology(鉱物と岩石学)に掲載されました。

Stephanie Persaudは、ニューヨークのGIAで分析技術者として活躍しており、UV-Vis、FTIR、フォトルミネッセンスおよびラマン分光分析法、ダイヤモンドの色の起源を専門としています。Gems & Gemology(宝石と宝石学)に掲載された裸石のメレーの選別およびGIA のiD100の使用に関する記事に寄稿しました。

Elina Myagkayaは、ニューヨークのGIAラボで技術者として活躍しており、UV-Vis、赤外線、ラマン、フォトルミネッセンススペクトルなどを用いたデータ収集およびラボにある装置の計測メンテナンスを担当しています。Gems & Gemology(宝石と宝石学)に掲載されたラボで製造されるグリーンダイヤモンドに関する記事および 2018 GSA Conference(2018年GSA会議)で発表された淡水養殖真珠に関する論文に寄稿しました。

Wuyi Wangは、GIAの研究開発部門副社長です。筑波大学より地質学の博士号を取得し、ダイヤモンド地質学と地球化学、HPHTの実験、ダイヤモンドの処理と合成の鑑別、カラーストーンの宝石学および鉱物学などに関する研究結果を発表しました。