動物保護活動を続ける杉本彩さん。きっかけは約28年前に保護した子猫でした

私が動物保護活動を始めたのは約28年前。まだ20代半ばでした。東京都内の撮影所敷地内で生まれた、飼い主のいない猫(野良猫)の子をたまたま保護したことが始まりです。

子猫の顔は鼻水でぐちゃぐちゃ。眼球が見えないほど目の症状も悪化していました。まだ抵抗力のない子猫は放っておけば死んでしまいます。マネージャーに指示をしてキャリーケースを購入し撮影の待ち時間に保護に向かいました。「早く保護しないと!」という思いから心ここにあらずとなり、撮影に集中できなくて、そんな私のためにも一刻も早く保護しようと必死でした(笑)

私が行くと親猫はどこかに身を隠し、子猫は意外にもすんなりと保護できました。翌日、動物病院に入院させ1週間くらいで症状は回復。家に連れて帰って里親を見つけるまでお世話することにしました。

本来なら保護した私がそのまま飼い主になれればいいのですが、うちにはすでに2匹の猫がいて、家族として迎えてくれる方を探しました。芸能プロダクションから独立して会社を起業したばかりのまだまだ未熟な私が、3匹目を迎えるのは賢明ではないと思ったのです。

お世話している間、真っ白の子猫に「チロ」と名づけました。「シロ」が赤ちゃん言葉で訛って「チロ」です。動物と接していると、どうしてもこうなります(笑)

チロとどれくらい一緒だったでしょう。多分、1ヶ月くらいかと思います。情が移るのに時間はかかりませんね。保護して、治療して、お世話して、一緒に眠る、、、。

私の顔の横にぴたりと顔をひっ付けて眠る甘えん坊の子猫。

私を信頼して懐いてくれ、幸せなひとときをたくさん与えてくれた子猫。

「ずっと傍に置いておきたい」これが人間の心情です。

でもある日、里親希望の方が現れたと連絡を受けました。ほっとした気持ちと寂しい気持ちとが入り混じり、わかっていたことなのに、とても複雑な心境になりました。寂しさが増さないよう愛情をセーブするなんて、やっぱりできませんでした。

チロの譲渡の日、道中、私はずっと涙をこらえていました。
けれど、いざチロをお渡しする時には不覚にも涙が抑えきれず、止めどなく溢れてきました。 

「そんなに悲しいならいいんですよ、断ってもらっても」そう声をかけられました。先方も引くくらい泣いていたと思います(汗)

それでも自分の気持ちを優先して先方の言葉に甘え、チロを連れて帰ることはしませんでした。あの時なぜ、あんなに悲しかったのにチロを譲渡したのか、、、。

それは、また同じように救いの必要な猫と出会ったら、助けたいと思ったからです。寂しさや悲しさに耐えられず私の気持ちを優先するのは、何か違うような気がしたのです。

一番大切なのは、保護したその子が最も幸せになる選択をすること。動物保護のいろはもわかっていなかった28年前の私ですが、今となっては、動物保護の基本を心で理解していたのかもしれませんね(笑)

これをきっかけに猫の保護と譲渡活動、そしてTNR活動(外で暮らす猫の不妊・去勢をして元の場所にリリースする)を始めました。動物保護活動には、「動物が好き」「動物が可愛い」と思う感情以上に「動物の幸せを願い行動する」という強さと覚悟が必要です。それは、一般の飼い主さんにも言えることかもしれません。

日本人は動物愛護の精神が豊かだと感じます。動物が好きで可愛がる方が多いです。だから動物のテレビ番組やYouTubeも人気なのでしょう。でも、動物の幸せを考えるなら「可愛い」「好き」という感情だけではだめだと思います。

「動物愛護」という人間を軸にした感情だけではなく、「動物福祉」という動物の幸せを軸にした視点が必要です。動物がどんな行動欲求を持っているのか、心身の健康を守るための最低限の知識を得て人間の目線ではなく、動物の目線になって動物の気持ちを考える努力が必要です。私の動物に関する活動は、猫の保護と譲渡活動を経て現在に至ります。

そして、この活動の中で様々な問題や事件を知ることになりました。保護しているだけでは終わりのないことに気づかされます。動物に関する未熟な法律、ペットショップにおける子犬子猫の展示販売の実態、犬猫の殺処分問題、、、。こういう問題を知ってもらい、声を上げることが必要だと思いました。

それで、まずは個人で署名運動をしたり、啓発活動を始めたのです。また、犬猫だけではなく、動物の問題はあらゆるところにあると気づきます。人間の管理下にいる動物の多くが酷い扱いを受けている事実を知りました。実験動物、産業動物、動物園や水族館の展示動物などもそうです。動物福祉とは、人間が動物を利用することを認めた上で、その命を軽視せず、感受性ある存在として不快な思いをさせないことです。痛みや苦しみを与えないように配慮することが最低限必要なのです。

そんな動物福祉が、日本は世界水準よりはるかに劣っていることに憤りを感じます。最近メディアでもよく使われる「アニマルウェルフェア」という言葉は、「動物福祉」を意味するものです。耳にされた方も多いのではないでしょうか。

そして、動物問題を考えれば、環境問題にも目を向けずにいられません。人間が経済活動によって破壊してきた自然。それによって多くの動物たちが住処を奪われ命を落とし、苦しんでいる現実があります。こうやってさまざまな問題を知り、国や自治体への提言、企業への働きかけ、消費者への啓発が重要だと思いました。

多くの人と問題を共有し、その改善を求めていくためには、多くの声を集め、大きな力にすることが必要です。そのため、ついに組織にすることを決意。そして、2014年2月、現在私が代表理事を務める公益財団法人動物環境・福祉協会Evaを立ち上げました。

もちろん最初は一般法人でしたが、その活動が公益性の高いものと内閣府から認められ、おかげさまでわずか一年で公益法人となりました。一年で公益認定を受けられたことに私自身も驚きましたが、長年の活動の礎だけでなく、愛と情熱を持って共に活動をする同志であるEvaのスタッフ、そして設立当初から応援してくださっている皆さんのおかげだと心から感謝しています。

団体名に「環境」と「福祉」という言葉を入れたのは、動物を取り巻くさまざま問題を知り、その向上のために尽くしたいと思ったからです。これからもEvaとして何ができるのか、何をすべきかをしっかりと考え動物福祉の向上をめざして活動してまいります。

人と動物が幸せに共生できる社会の実現を願って!

今回、執筆の機会をいただきました福井新聞さんの記者も以前より動物に関する問題を熱心に発信してくださっているお一人です。そんなご縁から、このコラムを始めることになりました。私のコラムだけではなく、Evaのスタッフが担当する回も予定しています。これからもお読みいただけたら嬉しいです。(Eva代表理事 杉本彩)

※Eva公式ホームページやYoutubeのEvaチャンネルでも、さまざまな動物の話題を紹介しています。

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。