男性向けの疑似性交用等身大人形、いわゆるダッチワイフ。いまだにビニール製のチープな人形をイメージする人も多いが、最近はラブドールと呼ばれるマネキン以上に人間らしい、シリコン製の高級品も販売されている。



 そんな高品質のラブドールをモデルにして写真集を自主制作しているのが、ラブドールオーナーのSAKITANという30代男性である。

 触れて使ってこそ価値のあるラブドールという性の道具で、なぜSAKITANは写真集を作ろうと思ったのだろうか? そこで彼の住む大阪にて、話を聞いてきた。

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――まず、SAKITANという名前の由来から教えてください。

「古い話なんですけど、『ときめきメモリアル』という恋愛シミュレーションゲームに出てくる虹野沙希がものすごい好きで、学生時代はそのグッズを集めることに夢中になってたんです。そこから『サキタン』って呼ばれるようになって、今もそのままなんですよ」

――なるほど。じゃあ、もともとは二次元のゲームキャラが好きだったんですか?

「それがこの道に入った始まりですね。
たまたま読んだ『ホビージャパン』という模型雑誌でガレージキットという分野を知って、ときメモのフィギュアがあるぞと。それで20歳のときにワンダーフェスティバルというイベントで、立体の虹野沙希を手に入れました」

――それがドールとの出逢いなんですね。

「これはハマりましたね。数年後には原型を作ってフィギュアを販売する側になってました。そしてちょうどその頃、ラブドール業界に革命が起こったんです。1999~2000年頃、それまではラテックス製の見かけ20~30代の商品が主流で30万円くらいしたのですが、オリエント工業からソフトビニール製で幼いイメージの『アリス』という伝説となるドールが発売されました。
いわゆる、オリエントアリス時代の到来です」

――そんな時代があったとは、まったく知りませんでした。

「今までは人妻をイメージさせるドールしかなかったので、アリスの登場は衝撃的でした。これが13万円くらいで、学生でも頑張れば買える値段だったんですよ!」

――そ、そりゃ買うしかないですね!

「実家暮らしでしたけどね! それから社会人になって買い足したりはしてたんですが、まだその頃は等身大の人形として、部屋に飾って眺めて満足しているだけでした」

――そこから写真を撮り始めたきっかけは?

「2010年に、ドール好きの女友達が、オリエント工業の創業35周年記念のフォトコンテストに誘ってくれたんです。ただ当時自分は写真に全然興味がなかったので、自分が撮る代わりにドールをお貸ししました」

――最初は撮るのではなく、貸す側だった……と。

「撮った写真を見せてもらうと、かわいく撮れてはいるんだけど、自分の中で納得いかないものがあったんです。自分なら、こう撮影するかな~みたいな……。
それを踏まえた上で、やっぱり自分で撮ってみようかと、中古で3万円くらいの一眼レフを買って応募しました」

――とうとうモンスターが目覚めましたか。

「IT関係の会社で仕事をしてたので、画像加工ソフトはある程度使えましたが、写真に関する知識はまったくありませんでした。ただ直観的に撮影したものだったのですが、ありがたいことにグランプリを頂けました。ちなみに審査員は、山本晋也さん、高橋源一郎さん、都築響一さんと豪華でした」

――SAKITANさんのラブドーラーとしてのこだわりを、サブカルの神様みたいな審査員たちがしっかりと受け止めてくれたんですね。

「自分が良いと思って撮影したものが評価されたのは、うれしかったですね。もともと自分で何か発信したいという願望があったので、これをきっかけに何か新しいことを始められるんじゃないかとホームページを立ち上げて、2013年夏のコミケで、ラブドールのデジタル写真集を初めて販売しました。
そして今までにデジタルで3冊、紙の印刷物で1冊出しています」

――ラブドールの写真集って、今までにないジャンルだと思いますが、どんな方が買われるんですか?

「コミケで購入されたお客さんは男女半々くらいで、全年齢対象(乳首が出ていない)のものよりも、R-18のほうが買っていただけています。普通の写真集って、モデルに対してファンがいてこそ成立すると思うのですが、ラブドールなので、そこが難しいですね。たまに自分が持っているドールと同じ子をかわいく撮ってくれているからということで、買っていかれる方もいらっしゃいますが」

――それはまれですよね。

「どちらかといえばダムや廃墟の写真集に近いかもしれませんが、そこまで広く趣味として認知されているわけでもなく、エロといっても、ヌキのための本というわけでもない。たまたま知った人が、興味本位で買ってくれたという感じですかね。世の中にないジャンルの本なので、今後はどんなコンセプトで誰に向けてどう作っていくべきか、そこを考えるのがまた面白いんです」

――まさに、ラブドール写真集の開拓者ですね。
そこまでラブドールにのめり込んだ理由は?

「等身大三次元立体造形の極み、ですよね。性行為という要素を抜きにしても勝負できるクオリティがすごい。人形の命は目だと思っていますが、シリコンラブドールは職人の手作業で丁寧に描かれています。 だから同じ型番でも、メイクさん次第でまつげの位置関係などが微妙に違うため、表情が全然違うんです!」

――そうなると、たくさん欲しくなっちゃいますよね。

「これまでトータルで18体くらい買っています。ボディとヘッドは別売りされているんですけど、今はボディが6体にヘッドが13個かな。
ひとつのボディに対してヘッドを替えて楽しむことができるのが、ラブドールの魅力ですね。ちなみにヘッドは、カメラ用の防湿庫で大切に保管しています。並んでいる姿が、ちょっと怖いですけど」

――なるほど、ボディとヘッドを組み合わせられるのは楽しそうです。カメラマニアがレンズを交換するようなイメージでしょうか。でも、お高いんでしょう?

「私の所有してるモデルだと、ボディが40~60万円、ヘッドが10万円くらいと、決して安くはないです。海外製にも良いものがありますが、どうしても値段を安くするために品質やサポートが十分でない部分があり、メイクが薄くなったりした際に対処できないことがあります」

――ラブドールは、人間を撮影するのと違いますか?

「人間と違って、こっちで全部動かさないといけない。一番良い表情を引き出せる構図に合わせて、指の角度から髪の動きまですべてにこだわって決めていくので、ワンカット撮るのに1~2時間かかる場合もあります。もちろん大変ですが、全部をこちらでコントロールできるし、まったく動かないからシャッタースピードを気にしなくても撮影できるなどの利点もあります。何時間撮影しても文句を言わないし、数秒露光しても一切ブレない。人間の撮影というよりは、ブツ撮りに近いと思ってます」

――衣装とかは人間用ですよね。

「基本的に実物大なので、服もウィッグも人間用ですね。普通に店や通販で買えるので、そこもまた楽しい。ただ胸が人間に比べると硬いので、ブラジャーはぴったり合うカップを探すのが難しいです」

――なかなか試着も、しづらそうですしね。

***

 実物を見せていただくため、SAKITANさん宅へと移動。

 私もちょっと撮らせてもらったが、確かにこの被写体には、無限にこだわりたくなる魅力がある。

――最後に、すっごい下世話な話ですけど、ラブドールを本来の使用目的でも使いますか?

「昔はありましたけど、後始末が面倒臭いので、ほぼないです。でも、撮影中にムラムラすることは今でもあります。競泳水着とかを着せて水で濡らしたりしていたら、ねぇ? それでグッとこない男はいませんよ。自分が意図してない構図でドキッとして、あーこれええわーって興奮したり。撮影してて一番楽しい時間ですね」

――はぁ。ラブドールの世界も奥が深いですね。

「知り合いのオーナーさんは、ドールの髪の毛に好きな匂いの香水をつけておいて、後ろからハグして胸を揉みながら自分で処理するのが一番興奮するって言ってましたよ。あとはスカートをはかせて立たせ、そこに潜り込んでペロペロするのが最高だっていう人も。ラブドールの楽しみ方は無限大ですから」

――最後に、とってもクリエイティブなお話まで、ありがとうございました!

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