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指値オペで長期金利抑制に動く

~その先はどう動くのか?~

熊野 英生

要旨

2月14日に日銀は、指値オペを実施して、長期金利水準を上限0.25%に抑え込む方針を強くアピールした。米長期金利が2%まで上がり、日本でも長期金利が上がりやすい流れに対して、日銀は歯止めをかけたいのだ。この対応は、内外金利差を広げて、さらなる円安を促すことになるのだろう。

目次

抜かれた伝家の宝刀

日銀は、長期金利を上限0.25%に抑え込むために、指値オペに動いた。2月10日夕刻に予告したオペ実施の概要では、長期金利水準が0.25%のところで、無制限に買うということだ。指値オペとは、固定金利で買い入れ額を決めずに、資金供給に応じるオペを指す。

このオペが予告される直前、10日の長期金利は0.23%まで上昇していた(図表)。日銀は、そこから長期金利が0.25%を超えないように、長期国債が0.25%になる価格で買うと宣言している。そうすることで、長期国債の価格がそれ以上に安くならないように、買い支える理屈だ(=長期金利は0.25%以上に上昇しない)。

長期金利の推移
長期金利の推移

これは、2021年3月に点検を実施して、長期金利0%を基準にして、上下0.25%程度の変動幅を認めるとした方針に沿うものだ。この3月のときに日銀は、連続指値オペを導入し、特定年限の国債を固定金利で無制限に買い入れるオペレーションを実施すると明らかにしている。価格形成に大きな影響を与える強力な市場介入策である。

一因としては、米国の長期金利上昇が進んでいたこともある。2月10日夜に1月の米CPIが労働省から発表され、前年比7.5%という高い伸びであった。これは事前予想を上回るものであった。季節調整済み前月比の伸び率が0.6%と、前月12月の同0.6%と同じ高いペースで伸びていた(全品目、除く食品・エネルギーとも12月・1月とも同じ伸び率)。もともと予想されていたインフレ圧力が再確認されたかたちだ。米長期金利は2.0%に乗ったことを受けて、為替レートも1ドル116円をつけた。

日本にとっては、11日からの三連休を挟んで、14日には長期金利がさらに上昇する可能性もあった。だから、連休前の10日に指値オペを予告して、日銀が積極的に金利上昇を止めようという意思表示を行ったのである。

指値オペを使う理由

なぜ、日銀が急いで金利上昇を止めにかかったかという理由には、日本のCPIに事情がある。2月18日には1月のCPIが発表されるが、そこでの発表にはマーケットは一喜一憂することはない。米国の場合は、目先の1月と2月のCPIをみてFRBが3月16日に政策金利引き上げを開始する公算が高いということがある。もしかすると、3月の利上げは2回分の+0.50%の大幅利上げもあり得ると警戒する人もいる。

日本では、1・2月ではなく、4月のCPIが重要だ。昨年4月の携帯電話料金プランの引き下げが一巡して、前年比1.5%前後まで上昇率は跳ね上がるだろう。ウクライナ情勢次第では、ガソリン・灯油もさらに上がる。政府は、価格抑制の補助金を支給し、それを止めにかかっているが、完全に価格統制ができるとは考えにくい。

日銀の立場からすれば、消費者物価が2%に達したときは、金融緩和解除に向けた軌道修正を勘ぐられる。黒田総裁はそれを徹底的に否定するが、そうした観測は消えにくい。そこで、指値オペを使って、緩和姿勢をことさらに強調する必要があるという訳だ。

くすぶる修正観測

FRBは3月利上げ開始、ECBは年内利上げ開始が予想される。BOEは2月までに2回利上げを実施している。そうなると、否応なく日銀も何かしら緩和修正に動くだろうと疑われる。黒田総裁からすれば、ここはピンチでもあるが、チャンスでもあると考えるはずだ。長期金利を徹底的に0.25%以下に抑え込み続ければ、内外金利差が拡大して、円安が進む。輸入物価が上昇することを促して、国内の消費者物価を2%まで上げられる。これがチャンスだ。一方、海外中銀からみれば、主要中銀のうち日銀だけが緩和強化をすると、世界的なインフレ圧力が弱まりにくいと目に映るだろう。円キャリートレードで資金調達を増やそうとする動きも起こるだろう。日銀の緩和継続は批判されやすくなる。こちらはリスクだ。

国内的にも、日銀のインフレ容認姿勢は敵視されるだろう。現在でも、経済産業省はガソリン・灯油価格を抑えようと力を注いでいる。価格抑制には税金が投入される。日銀が長期金利抑制に動くと、円安が促されて、価格抑制のための税金投入額が増えるという矛盾が起こる。

しかし、2023年4月8日までの任期と決まっている黒田総裁にとっては、これが2%達成に向けた最後のチャンスである。批判を我慢して、できるだけ長く物価上昇を後押しするだろう。

次なる注目点

今後、日銀がどう動くのかを考えたい。FRBの3月利上げまで、日本の長期金利には断続的に長期金利上昇圧力はかかるだろう。そのとき、日銀は長期金利を0.25%に釘付けにするように行動するだろう。

しかし、日銀は保険をかけることも忘れないだろう。円安容認のリスクは、国内物価上昇圧力を高め過ぎることだ。岸田政権は、7月10日に参議院選挙を控えている。インフレ圧力が強す過ぎると、さすがに岸田首相も不快感を示すだろう。バイデン大統領も、中間選挙を前にインフレを嫌がる姿勢になった。

日銀の場合、批判を和らげるために、長期金利の変動幅を0.25%程度から、0.30~0.40%程度へと再々拡大する選択肢もあるだろう。これで、いくらか緩和拡大にブレーキを踏む。こちらが保険の意味だ。2018年7月のときは、指値オペを7月23・27・30日と実施した直後の記者会見(7月31日)で、上下0.1%の変動幅を2倍程度まで拡大することを表明した。

日銀は、円安を人為的に誘導しているという観測を打ち消すために、3度目の変動幅拡大を行って、緩和のペースを緩めていく可能性もある。今後の円安動向によって、日銀の緩和姿勢も微調整されると筆者はみている。

熊野 英生


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