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安全配慮義務とは?義務の範囲や罰則、具体的な解決策をわかりやすく解説

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「勤務する従業員が安全に働けるように配慮しなければならない」という考えは、企業や組織が負う「安全配慮義務」としてよく知られています。しかし、詳しい内容や違反した場合の罰則まで理解して対策を徹底している企業は少ないのではないでしょうか。

最近は、海外出張や海外赴任、さらにテレワークなど、働く場所も多様化しています。また、安全配慮義務の実行をサポートするツールも提供されるようになりました。それに伴って、企業ごとの安全配慮義務規程の見直しも行われています。

本記事では、安全配慮義務の概要と規定した法律や違反時の罰則、義務の範囲、さらに具体的な対策、特に出張や海外赴任のときに必要な手配について、わかりやすく解説します。

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安全配慮義務とは

安全配慮義務とは、企業が従業員の健康と安全に配慮する義務のことです。労働契約法や労働安全衛生法で定められています。

  • 労働契約法

「第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」

引用元:労働契約法 | e-Gov法令検索

労働契約法は企業と従業員との労働契約について定めた法律です。厚生労働省の所管で、2008年に施行されています。労働契約法では企業に対して、従業員の作業環境を整え、心身の健康管理を行うことを求めています。

  • 労働安全衛生法

「第三条 事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。」

引用元:労働安全衛生法 | e-Gov法令検索

労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成するための法律です。厚生労働省の所管で、1972年に施行されています。

労働安全衛生法は、企業に対して従業員の安全を確保するために最低限必要な基準を定めたものです。そのため、労働安全衛生法を満たしただけでは安全配慮義務を十分に満たしているとは言えません。下図のように、身体・生命に対する安全配慮義務のみならず、事前に災害の危険を予知し、危険を回避するための措置を講ずる義務も生じるのです。
安全配慮義務
引用元:労働災害の発生と企業の責任について|厚生労働省

安全配慮義務の目的と背景

安全配慮義務の目的は、従業員が生命・身体等の安全を確保しつつ働けるようにすることです。この目的を実現するためには、労働安全衛生法や労働契約法で規定されている最低限の義務を果たすだけではなく、法定基準以外の労働災害発生に対する危険防止も必要です。

企業において安全配慮義務が必要とされるようになったことには、「陸上自衛隊事件」や「川義事件」の影響があります。「陸上自衛隊事件」とは、1人の陸上自衛隊員が自動車整備作業中に事故に遭って亡くなったというもので、「川義事件」は従業員が宿直勤務中に、強盗に殺害された事例です。

これらの事件の判例では、雇用する側が従業員を危険から保護し、安全に勤務できるよう配慮すべき「安全配慮義務」を負うとされました。これは従来の民法や労働契約法では規定されていなかった部分です。これらを背景に、労働契約法において企業の安全配慮義務が規定されたのです。

安全配慮義務に違反した場合の罰則

安全配慮義務違反そのものには、罰則は特に定められていません。しかし安全配慮義務違反によって従業員になんらかの被害が生じた場合、損害賠償請求が発生する場合があります。例えば、次のような法的根拠による請求が行われます。

  • 債務不履行(民法415条)

従業員の安全に配慮することは企業の義務(債務)です。つまり、企業が安全配慮義務を満たさないこと自体が、企業の従業員に対する「債務不履行」に当たります。

  • 不法行為責任(民法709条)

安全配慮義務によれば、例えば事故の起こりやすい状況を放置することは、職場環境に問題がある状況を作成し放置したということになります。これは不法行為に当たるため、安全配慮義務に違反すること自体が「不法行為責任」に当たります。

  • 使用者責任(民法715条)

仮に、従業員Aが職務中に従業員Bにけがをさせた場合、従業員Aは従業員Bに対する賠償責任を負います。それだけでなく、従業員Aの使用者である企業自身も賠償責任を負い、損害賠償を求められるのです。これが「使用者責任」です。

安全配慮義務の範囲

安全配慮義務で配慮すべき内容と、対象となる従業員の範囲を説明します。

安全を配慮する内容の範囲

安全配慮義務には、健康配慮義務と職場環境配慮義務があります。

  • 健康配慮義務

従業員の心身の健康に配慮する義務です。身体的な健康だけでなく、精神的な健康(メンタルヘルス)への配慮も重視されます。そこで、次のような対策が行われています。

・健康診断の実施

・ストレスチェック

・産業医やカウンセラーなどの配置

・労働時間の管理

  • 職場環境配慮義務

従業員が安全に働けるような労働環境を形成し、維持するよう配慮する義務です。次のような対策が行われています。

・機器の導入やメンテナンス、操作方法の指導

・施設の管理

・ハラスメント対策

安全配慮義務の対象となる従業員

安全配慮義務の対象となるのは、正社員だけではありません。次のように、働いている従業員のすべてです。

  • 直接労働契約を結んでいる社員
  • 自社で働く下請け企業の従業員
  • 派遣社員
  • 海外出張・赴任している社員

安全配慮義務で気を付けるべき項目とその対策

安全配慮義務で気を付けるべき項目とその対策を見ていきます。

長時間労働

健康配慮義務として、過労死ラインを超える時間外労働を避けなければなりません。過労死ラインの目安は次のとおりです。

  • 半年間の時間外労働の月の平均がおおむね80時間を超える
  • 直近1カ月で時間外労働が100時間を超える

これらのどちらかを超えてしまうと過労死の危険性が高まるため、労働時間を管理して長時間労働を防止することが重要です。具体的な対策としては、上司のマネジメント体制を整えることで、適正な割り振りとフォローを確実に行うという方法があります。また、労働時間の管理をデジタル化して、長時間労働の従業員がいる場合に人事部や上司へ通知が来るようにする方法もあります。

ストレス

ストレスは、一時的な集中力の低下やミスを誘発するだけでなく、心身の健康をむしばんで従業員を長期休業や退職に至らしめるかもしれないものです。また、最悪の場合、自殺につながる可能性があります。過去の裁判では、過酷な労働とうつ病による自殺の因果関係が認められた例もあります。そうなった場合、企業が遺族に対して損害賠償を支払うことになるでしょう。

そのような事態を防止するための対策のひとつが、ストレスチェック制度です。ストレスチェック制度は2015年12月から、一部の事業所を除いて職場での実施が義務化されました。

ストレスチェック制度とは、定期的に従業員へのストレスチェックを実施し、必要に応じて健康管理や健康相談、精神的なケアを行う専門家への相談を促すというものです。ストレスチェックの結果によっては、健康配慮義務だけでなく職場環境配慮義務として職場改善を検討する必要があります。ストレスチェックをしっかりと行うことで、従業員の心身の健康が損なわれるのを防止します。

ハラスメント

安心して働ける職場であるためには、ハラスメントにも留意しなければなりません。ハラスメントはメンタルヘルスにも大きな影響を与えます。そのため、職場環境配慮義務だけでなく健康配慮義務の面からも、ハラスメントへの配慮が必要です。

2022年4月から、パワーハラスメント防止措置が全企業に義務化されました。これにより、職場環境配慮義務としてパワーハラスメント防止のための対策が必要とされています。具体的には、次のような対応です。

  • マネジメント層のパワハラへの理解促進
  • パワハラに関する知識の社内周知
  • パワーハラスメントが起こってしまった際の相談窓口や調査委員会の設置

ハラスメントを発生させないことも重要ですが、発生してしまったあとの体制を整えておくことも必要です。

出張や赴任時の手配

出張や赴任の手配時には、安全配慮義務を考慮する必要があります。出張や赴任先で想定外の事態が発生する可能性があるからです。原則として、国内外問わず、すべての出張や赴任時において安全配慮義務は考慮すべきです。当初は安全だと想定されていた出張先や赴任先が急にリスクの高い地域になったり、突発的な事故が起きたりすることもあります。

安全配慮義務の一環として、出張や赴任については次のような手配が求められます。ここでは一例として、特にリスクが高い海外出張の場合を挙げます。

  • 渡航先周辺の情報確認

企業が、外務省の危険情報レベルやカントリーリスクなど、渡航先について基本情報や危険情報を収集し、従業員に伝えます。

  • 保険加入や必要な手続きのリストアップ、代行

在留届、外務省海外旅行登録(たびレジ)、保険加入など、渡航前に必要な手続きをリストアップし、必要に応じて代行します。

  • 必要な予防接種のリストアップ

渡航に必要な予防接種をリストアップし、渡航する従業員に接種経験を確認します。必要であれば接種を促しましょう。

  • 緊急事態対策マニュアルの作成

犯罪、災害、テロなどに対応できるよう自社独自の緊急事態対策マニュアルを作成し、トラブル発生時の対応について従業員に伝えます。

  • 現地での緊急時における連絡先の確認と周知

現地大使館、支社、警察、保険会社など、緊急時の連絡先をリストアップし、従業員に伝えます。緊急通信用の例文、メールのテンプレートなども用意します。

  • 通信手段の確保

緊急時にもつながる通信手段を確保し、従業員に伝えておきます。

  • 安否確認サービスの導入や、出張者をトラッキングできる仕組みの整備

警備会社の安否確認サービスの導入や、従業員の所在を確認して、近隣で緊急事態が発生したときに通知するような仕組みの整備を行います。

  • 医療サポートサービスとの連携

現地での医療サポートサービスと連携し、滞在中のけがや病気への対応、必要に応じて健康診断やメンタルヘルスへの対応を行います。現地の医療費をある程度カバーできる保険も用意しましょう。

  • 出張者への事前教育

渡航する従業員には、必要な情報を伝え、緊急時にも対応できるようなレクチャーを行います。

  • 日本側担当者の決定

トラブル発生時には、必要に応じて日本側でも対応が必要です。24時間対応できるようなシフトを作成します。

海外出張での安全確保については、次の記事も参考にしてください。

社員の海外出張時の安全をどう確保するか 前編「聞こえてくる危機管理担当者の嘆き

インターネットやスマートフォンの普及により、国内外を問わず、出張先や赴任先での従業員の労働に対する安全配慮義務対策が取りやすくなりました。さまざまなクラウドサービスを利用することで情報収集が効率的になり、出張時にも連絡を取りやすくなっています。

安全配慮義務は従業員だけでなく企業にとっても重要

安全配慮義務は、従業員が健康かつ安全に労働できるように、企業に求められる配慮です。一見、企業にとっては煩わしいものに思えるかもしれません。しかし従業員の安全を確保することで、より安定した労働が可能になります。安定した労働は従業員のモチベーションや人材の定着に貢献し、企業にとっても有益な効果をもたらすでしょう。

また、安全配慮義務違反に直接的な罰則はありませんが、配慮を怠ることでトラブルが発生すると、企業が従業員およびその家族から損害賠償を請求されることもあります。その場合、企業の営業活動や信用度にも大きな影響を与えると考えられます。

安全配慮義務が必要なのは、オフィス内だけではありません。出張時にも必要です。しかし、遠隔地での安全配慮は難しいものです。現地の状況確認や情報収集には手間がかかり、危機管理担当者としてもリスク判断が難しいでしょう。

そこで、コンカーの出張管理システム「Concur Travel」の導入をおすすめします。出張管理システムがあれば、出張の手配や経費精算が容易になるだけでなく、現地の従業員について素早い状況確認と迅速な判断が可能となります。これは危険地域での安全配慮義務履行にも役立つでしょう。

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