イベント・舞台挨拶

『あの子の夢を水に流して』初日舞台挨拶

©「あの⼦の夢を⽔に流して」製作委員会

 5月20日(土)、本作の東京公開の初日を記念して、渋谷のユーロスペースで舞台挨拶が行われた。主人公の瑞波を演じた内田 慈、瑞波の幼馴染である恵介を演じた玉置玲央、良太を演じた山崎皓司、そして遠山昇司監督の4人が登壇した。

 はじめに、遠山監督より2021年の10月に撮影が行われたこの映画を撮るに至った経緯が語られた。令和2年(2020年)7月に、遠山監督の出身地であり、本作の舞台となった熊本県の八代を流れる球磨川流域で、熊本豪雨と呼ばれる大きな災害が発生した。
 「東京の自宅で、ニュース映像で目の当たりにしました。半年くらい経ってから現地を巡り、それから脚本を書き始めました。物をつくる人間にとっては、何かこれだけはつくりあげなければ自分自身が前に進めないというときがあると思うのですけれど、僕にとってはそんな作品です。自分でも言葉にするのが難しく台詞も少ない映画ですが、形容し難い何かが映し出されていると感じています。出演者たちの演技とその背景に広がる風景によって、新しい形容詞のようなものをつくれたらと思っています」。

 2022年1月の試写のあと、追加の撮影が行われた。追加の映像が加わったものを本日初めて見た玉置は、「全然違う印象でした。風景描写が増えたのですよね。恵介という自分の役にからむ追加が多く、強烈な絵が増えていたのでドキッとしました」と。「追加撮影によって、川の表情や、登場人物の心象をより深め、この映画を再構築したところがありました」(遠山監督)。
 山崎は、「試写のときは、自分の演技に気が気じゃなかったのもありますが、感じたことは全然違った。どこが変わったか明確には分かりませんが、遠山さんは、すごく誠実な方だなと思いました」と。「今までは!?」と玉置さんが突っ込み、和やかな雰囲気で話は進む。「すごく誠実に風景を撮っていることが映画から伝わり、グッと来ました」と言葉を続けた。
 内田は、劇場で観るということが、映画にとってやはり大切だなということを思ったそう。「観る人が一緒に川を眺め、川べりを歩いているような、こんなに没頭させてくれる作品なんだなと感じました」。

 本日の登壇者4人はほぼ同世代。3人がロードムービーのように旅をしていくという脚本で、遠山監督は、あえて自分と年齢が近い設定をしたと言う。演劇の分野でそれぞれに活躍している3人が本作を通して再会し、自身の人生や登場人物の人生と重なっていくことに監督も感動を覚えたそうだ。「同級生の雰囲気は、このメンバーだからこそ出せた感覚でした」という内田の言葉には、玉置も山崎も大きく共感していた。

 「よく、撮影が終わったときに『またこのメンバーでやりましょう』と言われたりしますが、僕はこのメンバーでこの風景を二度と見ることはできない、という自覚は常に持っていました。二度とないと断言できる。でもこのスクリーンの中では皆さんが生きていて、この物語の中での人生が確かにあったんですよね」(遠山監督)。

 特に印象的だったことについて、さらに遠山監督が振り返る。「劇中にも出てくる球磨焼酎『極楽』の蔵元・林酒造場の近くのきれいな川に玉置さんがずっと佇んでいたのを見たとき、恵介の人生を玉置さんがあの場で生きていることにとても感動しました」。堤防で3人が階段を降りながら瑞波が告白するシーンでは、「この太陽じゃないと撮れないとみんなでかなり待った時間がありましたよね。あの時間もすごく好きでした」。3人が乗った車を山崎が運転するシーンは「良太の必要性も感じましたし、僕も輪の中に入っているような感覚で、3人の仲の良さがうらやましくなるほどでした」。

 遠山監督から印象に残ったシーンについて尋ねられると、「夕日のシーンは私も印象的で、もう一回撮り直したいと言われたんです。時間は限られていたんですが、私たちはそれがすごく嬉しかったんです。一緒に作っている感覚や、いいものをつくるために挑戦しようという感覚を持ちながら、より信頼が深まった印象的な出来事でした」(内田)。また、「私がとても大切な人を亡くしたタイミングだったので、実人生と重なる部分があり、今しかできないことをやらせてもらっていると思いました。この映画をやることで救われたところがあった」と言葉を加えた。


 玉置は、プロデューサーが淹れてくれたコーヒーを飲んだり、監督のお母様がつくった熊本の郷土料理「だご汁」を食べたこと、山崎が滑り台を滑る練習をしすぎて服に穴が空いたエピソードなどを挙げながら、「この作品で描かれている風景は、災害の様子も全部実際の風景なんです。例えば僕らが線路沿いを歩いているシーンで、いまだに植物や衣類、ビニールなどが杭にからみついていましたが、あの光景を目の当たりにして、自分の中に取り込んで、芝居として出していく日々だったんです。現地へ行って、その場で取り込んで、手にした嘘じゃないものをとにかく出していくという時間にとにかく強烈な印象があります」。


 「時間と風景と想いを皆さんと共有できたことが、この映画につながっています。ここで描かれている風景は、失われた風景でもあるし、新たに生まれた風景がそこに広がっているし、あのときにしか撮れなかったと思っています」(遠山監督)。

 終わりに一言ずつ求められると、「劇場に足を運んでいただいた皆さんともお会いできた貴重な機会がとてもうれしいです。今日は住んでいる静岡の掛川から舞台挨拶のために来たので、このあと時間があります」と、山崎は最後まで会場の笑いをとっていた。

 「人間と自然が同等に扱われている映画なので、びっくりした方もいるかもしれないですが、その中から何かを感じていただけたらうれしいです」(内田)。「劇場や日が変わると感じ方も変わるので、二度三度とその日の気持ちで観ていただきたいです」(玉置)。遠山監督は「『野生のアイリス』という詩集の中に「苦しみの果てに 扉があった」という一節があり、ラストの冷蔵庫を開けるシーンもそういった言葉や風景から引用して積み重ねた映像です。この映画を観て皆さんの各々の言葉で紡いでいただけたら」と締め括った。

『あの子の夢を水に流して』は、全国順次公開中。

 登壇者:内田 慈、玉置玲央、山崎皓司、遠山昇司監督

公開表記

 配給:bench
 渋⾕ユーロスペースほか全国順次公開中

(オフィシャル素材提供)

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