写真右から、「HORIE MOBILE」の記者会見に登壇した堀江貴文氏と、エックスモバイル代表取締役の木野将徳氏。
出典:エックスモバイル
実業家である堀江貴文氏による通信サービス「HORIE MOBILE(ホリエ モバイル)」が3月16日からスタートする。「HORIE MOBILE」はすでにMVNO事業「X-mobile」を展開するエックスモバイルとタッグを組んで実現した。
ahamoより高いが「特典」がつく
3月9日に開催されたサービス発表化での堀江氏のプレゼンテーションの様子。
出典:エックスモバイル
格安SIMなどで名前を聞くことがある「MVNO」とはNTTドコモやKDDI、ソフトバンクから回線を借りて通信サービスを提供する会社のことを指す。ちなみに、回線を貸す側、一定の自社設備を持つ事業者は「MNO」と呼ばれている。
通信プランはデータ容量が月間20GB・毎回5分の国内通話かけ放題がついて月額3030円(税込)。
NTTドコモのオンライン専用プラン「ahamo(アハモ)」は、データ容量が月間20GB・毎回5分の国内通話かけ放題がついて2970円(税込)なので、ここだけを見るとHORIE MOBILEはahamoよりも高いことになる。
HORIE MOBILEは月額3030円(税込)。堀江氏に関する特典がつく。
出典:ホリエモンチャンネル
HORIE MOBILEの最大の特徴は、堀江氏が発信する「オリジナルコンテンツ」が特典として用意されている点にある。
同氏が展開するパン屋で、カレーパンが毎月1個もらえたり、他社でありがちなポイントではなく「トークン」をユーザーに付与する特典なども計画しているという。
今更の通信業参入はなぜなのか
堀江氏が通信サービスに参入するという話を聞いて、筆者は正直、ガッカリしてしまった。
堀江氏のYouTubeは個人的に結構な頻度で視聴している。その時々のニュースや話題についての解説動画はタイムリーでわかりやすく、感心させられるほどだ。
個人的に大好物なのが、堀江氏が楽天モバイルや三木谷浩史会長の苦境を、表向きは心配しつつ、どことなく、からかっている感のある動画だ。
楽天モバイルの問題点、課題を的確に指摘。通信業界の事情にも精通しており「さすが」と、うなるほどだ。
しかし、こうした楽天モバイルや三木谷会長に対する「上から目線」のメッセージも、堀江氏が通信業界の「蚊帳の外」にいるから、好き勝手なことが言えるはずだ。
今回、HORIE MOBILEを始めてしまったことで、堀江氏は三木谷会長と同じ土俵に立ってしまった。
MNOである「楽天モバイル」。
出典:楽天モバイル
HORIE MOBILEと楽天モバイルは、「MVNOが提供する新ブランドサービス」と「MNO」という違いはあれど、同じモバイル通信を提供する会社として、ユーザーを奪い合う「対等な関係」となる。
これから、堀江氏が「楽天モバイルは厳しい」と語れば、三木谷氏から「じゃあ、HORIE MOBILEはどうなんだ」としっぺ返しを食らうことになる。
ちなみに、楽天モバイルはかつてNTTドコモの回線を借りてサービスを提供するMVNOだったが、その後、自社で周波数を割り当てられ、全国にネットワーク設備を展開するMNOになった。
楽天グループの三木谷浩史会長。
撮影:小林優多郎
三木谷会長にかつて「なぜ、MVNOからMNOになるのか」という筆者の質問に「MVNOはドコモの奴隷でしかないからだ」と即答していた。
MVNOはMNOから回線を間借りしてサービスを提供するだけに、自由度がかなり低い。MVNOが創意工夫してサービス開発したくても、制限があり、結局、NTTドコモの回線を売っているだけに過ぎなくなってしまうのだ。
当時に比べ、MVNOでも電話番号を発行できるようになるなど、自由度は増しているが、それでもMVNOが自由にサービスを開発できる範囲は限られている。
三木谷氏からすれば「堀江氏はなぜ今さらドコモの奴隷になるのか」と不思議がっているかも知れない。
「ファン向けMVNOは上手くいかない」説
「Web3.0」や「トークン」も今後展開すると話す堀江氏。
出典:エックスモバイル
市場を俯瞰するとNTTドコモ「ahamo」やKDDI「UQ mobile」、ソフトバンク「ワイモバイル」といったオンライン専用プランやサブブランドなどが強く、「MVNOは厳しい」と見られがちだ。
しかし、実際はそんなことはない。
MVNO最大手のIIJは契約者数を伸ばしているし、ソニー系MVNO「NUROモバイル」も累計加入者数が2021年1月以降、2倍となっている。
HORIE MOBILEもやりようによっては、ユーザーの獲得は十分に可能なはずだ。
HORIE MOBILEはおそらく、堀江氏のYouTubeチャンネルを登録している161万人のユーザーやメルマガ会員、毎月1万1000円を支払っている702人のオンラインサロン会員のファンなどが主に契約するのだろう。
こうしたファン層に向けたMVNOというのは、日本でも過去になかったというわけではない。
2010年6月に登場した「GIANTSケータイ」。
出典:KDDI
例えば、2010年には「Tigersケータイ」「GIANTSケータイ」というのが発売されたことがある。
同端末は文字通り、プロ野球の阪神タイガースと読売ジャイアンツのファンに向け、KDDI回線を使ったMVNOだった。オリジナルコンテンツや、チームと選手のニュース、さらにはチケットの優先販売など、ファン向けサービスが提供された。ただ、わずか3年でサービスが終了した。
2016年にはANA(全日本空輸)が、ソフトバンク回線のMVNOとして「ANA Phone」を提供。
「マイルが貯まるスマートフォン」という触れ込みで、第4弾の端末まで発表したが、2021年にサービスを終了した。
ANAには根強いファンも多く、また「陸マイラー」として、飛行機にはあまり乗らなくても、マイルを熱心に貯める層もいるのだが、MVNOとの相性はあまりいいとは言えないようだ。
通信業界では「ファン向けのMVNOは意外と上手くいかない」というのが定説となっているだけに、HORIE MOBILEがその常識を覆せるかに注目が集まりそうだ。
ただ、堀江氏は通信サービスなんかに首を突っ込まずに、通信業界の外から楽天モバイルのことを好き勝手に論評している方が、よっぽど生き生きするのではないかと思う。