【米大統領選2020】 トランプ政権が移民に与えた影響 7つの表で見る

エド・ロウサー、データ担当記者

A Mission Police Dept. officer (L) and a US Border Patrol agent watch over a group of Central American asylum seekers before taking them into custody in Texas.

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ドナルド・トランプ米大統領は2016年の大統領選で、移民対策強化を公約して当選した。違法移民を終わらせると約束したほか、出馬宣言の際にはメキシコからの違法移民が麻薬や犯罪をアメリカに持ち込んでいると発言して注目を集めた。あれから4年たって、その数々の発言は実際にどのような移民政策として形になったのだろう。

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アメリカで暮らす外国生まれの人の数は、トランプ氏当選の前年は4370万人だった。昨年は4500万人。約3%増えたことになる。

しかし、全体が増えたといっても、その中の最大集団(つまりメキシコからアメリカに移住した人)には大きい変化があった。もう何年もほぼ一定だったメキシコ出身者の人数は、トランプ氏の当選以降、一貫して減り続けている。

アメリカに住むメキシコ出身者の人数が減った分は、他の中南米地域から移住した人の増加で相殺されたものの、米国勢調査局よると、アメリカに転入する人と転出する人の差で計算する純移動の人数はここ10年間で最も少なくなった。

これは移民の人数そのものが少ないことに加え、アメリカ以外で生まれてアメリカに住んでいた人が前よりも国外に転出しているからだと、人口統計に詳しい国勢調査局のアンソニー・ナップ氏は言う。

この全体的な傾向のほかに、査証(ビザ)制度にも重要な変化があった。

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トランプ政権下では、就労目的の短期入国は容易になったが、アメリカ定住は困難になった。永住ビザの発給数は2016年に約120万だったものが、2019年には約100万人に減っている。雇用主がスポンサーとなる永住ビザの数はほとんど変わっていない。つまり影響を受けるのは、すでに市民権や永住権をもつ親族を頼ってアメリカに移住しようとする人たちだ。

大勢がこの政策の変化の影響を受けた。しかし、トランプ氏による移民政策の変更で最も影響が大きかったのは、難民受け入れの削減だ。

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アメリカが年間で受け入れる難民の数は、割り当て制で決まる。その規模を究極的に決めるのは、大統領だ。難民としてアメリカに入国を希望する人は、国外から難民認定を申請しなくてはならないし、自分は母国では迫害されていると米当局を説得しなくてはならない。

イスラム教徒が大多数を占める国からの移民全般に、トランプ氏が否定的な態度をとっていることは有名だ。2015年末には、すべてのイスラム教徒の入国を「すべて完全に」禁止すべきだと呼びかけた。大統領になった後には、イスラム教徒の入国全面禁止は法律的に色々な問題があり、数々の裁判沙汰になったため、難民の受け入れ枠を減らすほうが実施しやすかった。

その結果、イスラム教徒が多数を占める特定の国(イラク、ソマリア、イラン、シリアなど)からの難民受け入れは、トランプ政権発足から間もなくほとんどゼロになった。

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ビザ発行や難民受け入れ制限のほかにも、入国者を減らす方法はある。トランプ政権は、必要な書類がなければアメリカに移住するのも、住み続けるのも、難しくしようとした。

ただし、これは実は思われているより実際には難しい。トランプ政権で何が起きたかを理解するには、まず国外退去の正式統計の意味を理解しなくてはならない。

国外退去には2つのカテゴリーがある。「強制退去」というのは、裁判所命令で国外に連れ出されることを指す。「送還」というのは、国境を超えようとした時点で入国を拒否される場合は、裁判所命令なしに国外に出るよう要請されることを意味する。

強制退去させられると、法的影響は長引き、再入国はかなり難しくなる。しかし、メキシコとの国境を挟んでメキシコに送り返された人の多くは、後日あらためてアメリカに入ろうとしている。ジョージ・W・ブッシュ元大統領が強制退去を政策として開始し、バラク・オバマ前大統領が運用を拡大した。特に、犯罪歴のある人への適用が強化された。

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送還にしろ強制退去にしろ、トランプ政権ではそれほど大きい人数の変化はない。

ほとんどの国外退去を取り扱う米移民・関税執行局(ICE)は、現在の国外退去のペースを「きわめて低い」と呼んでいる。予算・人員不足や「司法・立法的な制約」など、をその理由に挙げている。

ICEはこのほか、メキシコ国境でもアメリカ入国を希望する人たちの対応に追われている。トランプ政権が難民政策を変更したことで、未処理案件が山積みになっている。親と子供が引き離され別々に収容されたり、難民認定を希望する人たちが、メキシコに送還されたりしている。

この国境での危機は大々的に報道されたものの、2019年統計を見ると、入国希望者への牽制(けんせい)効果は出ていないようだ。国境で拘束・収容された人数は前年から倍増している。その多くは、家族と一緒に国境を超えようとした人たちの急増による。

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トランプ政権による難民政策の変更により、2019年の送還の人数は大幅に上がる見通しだ。2019年の国外退去の統計は数カ月後に公表される。

移民に対するトランプ大統領の強硬姿勢が、今も支持者の間で大きな「売り」なのかどうかは、興味深いポイントだ。政権発足以降、「移民は良くない」と世論調査に答える人の数はかなり減少しており、かつて移民受け入れに反対していた大勢が今では、移民受け入れはアメリカにとっておおむね良いことだと答えている。

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この件について民主党支持者と共和党支持者の間には今も溝が開いており、共和党支持者の方が移民に否定的で、違法移民の取り締まり強化を支持しがちだ。それでも、移民についての態度は、党派の違いとは無関係に、ほぼ同じような傾向で推移している。

再選を目指すトランプ氏は、自分と同じ考えの共和党支持者が今も十分いることを期待して、11月3日の投開票日を迎えることになる。