■大学受験の基礎知識
国立の工科系大学である「技術科学大学」。独自の教育プログラムを展開しているほか、就職に強いことでも知られ、企業からは「採用を増やしたい」と期待されています。実はあまり知られていない技科大の特色について紹介します。(写真=豊橋技術科学大学提供)
大学院博士前期課程までの一貫教育が最大の特徴
「技術科学大学」と名がつく国立大学は、全国に豊橋技術科学大学(愛知県)と長岡技術科学大学(新潟県)の2校しかありません。名前が似ている「科学技術大学」とは別で、文部省(当時)の新構想に基づき、1976年に設置されました。
設置の主な目的は、主に高等専門学校(高専)の卒業生を3年次に編入して受け入れることです。高専は技術者の養成を目的として、5年一貫教育を行っています。卒業後は半数以上が就職しますが、技術科学大学は、より研究を深めたい、高度な技術を身につけたいという高専卒業生のための受け皿となっています。
もちろん、普通高校を卒業したあと、1年次から入学することも可能です。豊橋技術科学大学の場合、課程・専攻には機械工学、電気・電子情報工学、情報・知能工学、応用化学・生命工学、建築・都市システム学があります。実験設備が充実しており、最先端の研究が可能です。
「大学名は『科学』よりも『技術』が前にあることからもわかるように、技術を究めることがメインの大学になります」と角田範義理事・副学長は言います。
教育プログラムの大きな特徴は、学部から大学院博士前期課程までの一貫教育です。通常は大学から大学院に進学する際に、定員がかなり少なくなりますが、技術科学大学の場合は学部と大学院の定員がほぼ同じです。つまり入学した時点で大学院への進学が前提となっていて、大学院での研究を見据えたカリキュラムが組まれています。
4年次に2カ月間の実務訓練 受け入れ企業側の反応は?
技術科学大学の魅力は何といっても、就職に強いことです。2023年6月に公表された、「企業の人事担当者から見た大学イメージ調査」(日本経済新聞社、日経HR)では、「採用を増やしたい大学ランキング」で豊橋技術科学大学が1位になりました。卒業生の企業入社後の活躍が評価された結果といえますが、角田理事・副学長は「大学での実務訓練の影響も大きいのではないか」と話します。
同大学では、4年次の1月から2月に企業で約2カ月間の実務訓練が必修になっています。受け入れ先の企業から「こんなプロジェクトに参画してほしい」「一緒に製品開発を進めてほしい」などと、さまざまなテーマで募集があり、学生の希望によって実習先が決まります。「ありがたいことに、本学の学生を受け入れたいという企業側のオファーが非常に多くきています」と角田理事・副学長。
「2カ月間あるので、企業側は学生が戦力として貢献することを期待しています。学生もお客様感覚ではなく、研究を通じて学んできたことが、実社会の仕事にどうつながっているのかを実務を通じてしっかり体感できます。大学院で何を学ぶべきか、どのような力を伸ばすべきかを考えるきっかけにもなり、より充実した大学院での研究にもつながります」
高専からの編入生や留学生と磨き合う力
同大学は学生の2割が1年次からの入学で、8割は高専卒業後に3年次からの編入となります。1年次入学の場合、入試は学校推薦型選抜と一般選抜があり、一般選抜の入試方法は共通テストに加えて数学の個別学力試験があります。普通高校から入学する場合、3年次で高専卒業生と合流することになりますが、専門的な技能を身につけた高専出身者についていけるのかが、気になるところです。
「1、2年次には一般的な基礎科目に加えて、高専と同じレベルの専門科目を学びます。さらに2年次には研究室に仮所属し、『プロジェクト研究』という高専生の卒業研究にあたる実践的な研究を体験します。私も研究室を主宰していましたが、3年次以上の学生を見ていて、出身高校による差を感じることはありませんでした」(角田理事・副学長)
一般的に高専出身者は専門的な知識や技能にすぐれ、高校出身者は英語力が高い傾向があると言い、互いに刺激を受けたり、得意分野を教え合ったりするメリットもあるそうです。
「さらに全学の約14%が留学生なので、異なる環境や背景を持つ学生と交流でき、多様な価値観を広げられます」(角田理事・副学長)
女子の割合が約14%に増加 ロボコンで2連覇
高専出身者が多い工学系の大学というと、男子ばかりという印象を持つ人もいるでしょうが、最近は高専生も女子が増えてきていることから、同大学でも女子の割合が増え、現在は約14%となっています。女子向けの宿舎や女性専用の休憩室など、女子を支援する環境も整えています。また、大学生活から就職などの進路まで女子をサポートするための進路選択支援サイトや、理系進学を考える女子の中高生に向けた動画「リケジョのススメ」などコンテンツも充実させています。
同大学は「NHK学生ロボコン2023」で2連覇を達成し、話題になっています。「教員はほとんど手伝わず、学生が主体となってロボットを製作しています」(角田理事・副学長)。高い技術力を持ち、主体性をもって活動できる学生は、企業側にとっても魅力的に映ります。
(文=中寺暁子)
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