「スーパーマリオブラザーズ ワンダー」のクリエイターが語る、遊び心に溢れた自由なゲームづくり

「スーパーマリオブラザーズ ワンダー」の開発期間には締め切りがなかった。スタッフたちに自由な環境を用意したことで、マリオシリーズに新鮮な風を吹き込む、“ワンダー”な新作が出来上がったのだ。
「スーパーマリオブラザーズ ワンダー」のクリエイターが語る、遊び心に溢れた自由なゲームづくり
©︎Nintendo

「スーパーマリオブラザーズ ワンダー」がプロトタイプの段階にあったとき、開発期間に締め切りが設けられていなかったという。これはゲーム開発の現場ではあまり聞かない話だ。

「スタッフたちが『締め切りに間に合わないから妥協しました。そんな時間はありません』と言うことのない環境をつくりたかったのです」と語るのは、プロデューサーの手塚卓志だ。これはディレクターの毛利志郎にとって、明快な指示であると同時に、とてもよい知らせだった。開発チームは納得がいくまでとことんゲーム制作に打ち込めることになったからだ。

10月20日に発売が予定されている「スーパーマリオブラザーズ ワンダー」は、マリオシリーズの原点である横スクロールアクションに回帰した作品だ。今回の舞台はおなじみのキノコ王国ではなくフラワー王国、しゃべる植物たちが住んでいて、まるでバッドトリップに陥ったかのように世界を変形させる特殊な花が咲いている国だ。

プレイヤーにもクリエイターにも自由を

横スクロールのマリオ作品が最後に発売されたのは、2012年の「New スーパーマリオブラザーズ U」で、それから10年以上が経っている。任天堂が初代「スーパーマリオブラザーズ」で横スクロールアクションというジャンルを世に広めたのは、それよりずっと昔のことだ。

「初代『スーパーマリオブラザーズ』はあらゆる面が新しかったので、ゲームのシステムについてや、何が特別なのかを説明する必要はありませんでした」と手塚は語る。「わたしたちはゲームを提供しただけで、プレイヤーたちが自分たちでプレイスタイルを編み出していったのです」

しかし現代のマリオ作品にはそれ以上のものが求められていると、手塚は言う。昔のマリオ作品はステージを完璧にクリアすることが醍醐味で、プレイヤーはクリアできるまで難しいステージに繰り返し挑み続けた。これに対して、最近のマリオ作品において任天堂が重視しているのは、プレイヤーが気の向くままにゲームを遊べる自由な環境をつくることだ。

「スーパーマリオブラザーズ ワンダー」の根幹にはふたつのデザイン方針があり、「自由であること」はそのうちのひとつだ。同作ではプレイヤーがステージの順序を自由に選ぶことができるほか、ワールドマップの一部では自由に歩き回ることができるため、決められた道筋に縛られることなくゲームを進められる。

©︎NINTENDO

加えて、プレイヤーは12種類のキャラクターから自分が操作するひとりを選ぶことができる。マリオ、ルイージ、ピーチといったおなじみの面々をはじめ、新たにデイジーなどもプレイアブルとなっている。ほとんどのキャラクターは同じ性能をしているが、4体のヨッシーとトッテンは初心者向けのキャラクターだ。ダメージを受けることがないほか、ヨッシーなら敵を食べてしまうこともできる。

新たなアクションとたくさんの隠し要素

「スーパーマリオブラザーズ ワンダー」には新たに、装備すると特別なアクションが使えるようになる「バッジ」が追加される。透明になったり穴に落ちても復帰できるようになったりと、バッジの効果はさまざまだ。バッジのなかには、上級者向けの効果をもったものもある。

開発段階では、一度にふたつや3つのバッジを使えるようにしたり、ステージの途中でバッジを切り替えられたりする仕様も試作されていたが、最終的にはボツになってしまった。「こういった仕様は『ゼルダの伝説』シリーズには向いているかもしれませんが、マリオ作品にはあまり向いていませんでした。マリオのゲームプレイはわかりやすくシンプルであるべきですから」と手塚は説明する。

同じステージを再度プレイしたければ、そこで新たなバッジを試してみることができる。「プレイヤーが1度クリアしたステージに戻ってこないというのは、悲しいことだと思っています」と手塚は語る。「プレイヤーには同じステージを繰り返し遊んでもらいたいのです」

開発チームが「スーパーマリオブラザーズ ワンダー」をつくるにあたって意識したもうひとつの点は、隠し要素を用意することだ。同作には、見つけたことを友達に自慢したくなるような秘密がたくさん用意されている。「わたしがチームに向けてよく言うのは『ステージを迷路にしない』ということです」と、毛利は同作の謎解き要素について語る。「迷路のように“感じられる”ことが重要なのです」

「スーパーマリオブラザーズ ワンダー」は、まず障害物やギミックの仕組みについて教えたあと、実際のステージでプレイヤーがそれを乗り越えられるようにデザインされている。

これは同作のパワーアップ要素によく表れている。「スーパーマリオブラザーズ ワンダー」では、水を振り撒く「ゾウマリオ」や、頭にドリルを載せる「ドリルマリオ」などが新たに追加される。どれも可愛らしくて愉快な見た目をしているが、ゲーム内の使い勝手も非常にいい。

例えば「ドリルマリオ」は、地中や天井に穴を掘ってその中を進むことができる。「穴を掘るパワーアップをつくるなら、なぜ『モグラマリオ』にしなかったのか? と思われるかもしれませんが、『ドリルマリオ』は頭上から降ってきた敵を倒すことができるのです。これはモグラではできません」と毛利は語る。大きな体でブロックを壊し、敵を踏みつけ、さらに水を振り撒くことのできるマリオをつくろうと思ったら? 「ゾウに変身させるのが当然の判断でした」と毛利は言う。

チーム総出でアイデアを出し合った

プレイヤーを変身させるのはパワーアップアイテムだけではない。「スーパーマリオブラザーズ ワンダー」には、タイトルのもとになっている不思議な花が用意されており、これに触れると“トリップ”することができる。「ワンダーフラワー」に触れると、マリオがとてつもなく巨大化したり、クリボーに変身したりするのだ。加えて、ワンダーフラワーのなかには、ステージそのものを変化させる効果をもっているものもある。土管が曲がったり伸び縮みしたりするようになるのだ。

マリオシリーズにはすでに多くの作品が存在しているので、プレイヤーを驚かせる新鮮な要素をつくることは毛利にとって大きな挑戦だった。

開発チームははじめのうち、別のエリアにワープできるアイテムを試作していた。しかしそれを見た手塚が「別のエリアにワープしたところで、何もおもしろいことが起こっていない。それだったら、いまいる場所を変化させたほうがいいのではないか?」と手痛い批判を加えたことで、ワンダーフラワーが生まれたのだ。

開発チームはワンダーフラワーを一部のステージにのみ設置するのではなく、それぞれ特別な効果をもったワンダーフラワーをすべてのメインステージに設置した。そのために毛利と手塚はチームの全員を動員してアイデアを捻出したのだ。「担当箇所や勤続年数に関係なく、全員の力を借りました。最終的に集まったアイデアの数は、1,000や2,000では足りません」と毛利は語る。集まった大量のアイデアのなかから候補を絞っていき、洗練させていった。

「スーパーマリオブラザーズ ワンダー」の根幹にあるのはアクションだと、手塚は語る。「とはいえ、アクションばかりに集中してしまうと、それそれでつまらないゲームだったでしょう。プレイヤーにとっても開発者にとっても」。だからこそ開発チームは、“驚き”を追求していったのだ。

「みなさんのなかには、『マリオはこうでなくてはいけない』という考えをもっている人もいるでしょう。頭のなかでマリオができることに限界を定めてしまっているのです」と手塚は語る。しかし手塚は開発チームに対して、そういった先入観は真っ先に捨てるように指示したという。「いいアイデアだと思うなら、やってみればいいのです。そうすればきっとおもしろいゲームが出来上がりますから」

WIRED US/Translation by Ryota Susaki/Edit by Mamiko Nakano)

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