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幼児教育の種類とは?目的や特徴、主な教育内容について紹介

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近年盛り上がりをみせる「幼児教育」。目的や特徴もさまざまで、我が子には何が合うのか、取り入れやすいものはないかと検討中のお父さん・お母さんも多いことでしょう。
この記事では、幼児教育の意義や役割をあらためて振り返るとともに、ここ数年で注目されている幼児教育の種類と、その特徴や主な教育内容について紹介します。

幼児教育は「生きる力」を育むこと

幼児教育とは、小学校就学前の子どもを対象にした、家庭や地域、幼稚園・保育園で行う教育のことです。「教育」と聞くと、受験などのために低年齢のうちから多くの知識やスキルを身につけさせることを目的とした「早期教育」をイメージしがちですが、文部科学省は幼児教育について次のように定義しています。

“受験などを念頭に置き、専ら知識のみを獲得することを先取りするような、いわゆる早期教育とは本質的に異なる。幼児教育は、目先の結果のみを期待しているのではなく、生涯にわたる学習の基礎を作ること、「後伸びする力」を培うことを重視している”※1

基本的な生活習慣や生活に必要な技能を育て、道徳性のめばえを培い、学習意欲や学習態度の土台となる好奇心・探究心を養うことが、幼児教育の意義であり役割であるといえます。それは、小学校入学以降の「生きる力」をつけ、子どもが生涯にわたって学びつづける「生涯学習者」となるために必要な学びと考えられています。

では、幼児教育にはどのような種類があるのでしょうか。以降では、それぞれの概要と目的、どのようなご家庭におすすめかを紹介します。

シュタイナー教育

シュタイナー教育は、オーストリアの哲学者ルドルフ・シュタイナー(1861~1925)が提唱した、「すべての子どもはユニークな個性をもって生まれてくる」という理念を基にした教育法です。1919年に、シュタイナーがドイツに「自由ヴァルドルフ学校」を設立した後、世界中に広まり、現在は世界70か国に1,200以上の学校と、59か国に1,900以上の幼稚園があります※2。

シュタイナー教育の目的は、試験で高得点を取れる知識を身につけさせることではなく、“全人(ぜんじん)”としての人間を育むことです。※3
学年ではなく7年周期で区切られるのが特徴で、0〜7歳では「からだ」や「意志」、7〜14歳では「こころ」や「感情」、14〜21歳では「あたま」や「思考」を育てることを重視します。※4
また、シュタイナー学校のカリキュラムには、国語や算数のほか「オイリュトミー」や「フォルメン線描(せんびょう)」といった独自の科目があり、音楽やアート、数学の基礎などを身につけることができます。※5

7歳まで知的教育をしない、学校でテストがないなど、日本の一般的な教育とは方向性が異なります。一方でシュタイナー学校の卒業生は学力が高く、他者への共感に優れ、コミュニケーション力のある大人へと成長していることもわかっています。※5
自ら道を切り拓く意志と「学ぶ意欲」が土台にあるため、結果的に学力の高いお子さまに育つ可能性があるのです。

日本においては、現在、全国に7つのシュタイナー学校と60のシュタイナー園(日本シュタイナー幼児教育協会の加盟園)があります。7校のうち学校法人は2校で、ほかはフリースクールかNPO法人となっており、日本にシュタイナー教育が広く浸透しているとまではいえないのが現状です。※2

一度シュタイナー学校へ入学すると、引っ越しや転勤で一般的な学校へ移った際に、お子さまが馴染むのに時間がかかるかもしれません。幼児期や学童期に思う存分お子さまの感性を育てたい方や、知識面よりも芸術性や数学力を重視したいご家庭におすすめです。

関連記事:シュタイナー教育とは?特徴やメリット、デメリット、おすすめの教材を紹介

モンテッソーリ教育

モンテッソーリ教育は、イタリア初の女性医学博士であるマリア・モンテッソーリが考案した教育法です。1900年代の初めにブームが起こり、100年以上経った現在でも、世界110か国以上、日本で120以上の幼稚園・保育園でモンテッソーリ教育が実践されています。※7

モンテッソーリ教育では、「子どもは本来自己を教育する力をもっていて、発達段階にふさわしい環境を整えることで、その潜在能力が開花するのを援助すること」を理念として掲げています。日本の教育では大人が教える内容を決めるのが一般的ですが、モンテッソーリ教育における大人の役目は、子どもが本来もつ「自己教育力」を理解しサポートすることに尽きます。※8

モンテッソーリ教育の目的は、自立し、有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢を持った人間を育てることです。※9
特に、3〜6歳の「敏感期」に五感をよく使うことが、将来の専門性や芸術性、道徳性の土台になると考えられています。

また、大人が生きるために働くことと子どもの発達のための活動は同じであるという考えに基づき、「教具」に触れる時間を「お仕事」と呼びます。教具とはモンテッソーリ教育のなかで“教材”のような立ち位置で、「お仕事」には、次の5つの領域(分野)があります。

  • 日常生活の練習(運動)の領域
  • 感覚教育の領域
  • 言語教育の領域
  • 算数教育の領域
  • 文化の領域

上記のなかでも「日常生活の練習(運動)の領域」は、モンテッソーリ教育の土台です。料理や洗濯といった日常的な家事が教具になるため、自宅で取り入れることも可能です。

モンテッソーリ教育を受けた子どもは、自分の考えをもち、他人の意見に流されず、善悪の判断がきちんとできる、礼儀正しい子に育つといわれています。これらは近年注目されている「非認知能力」というスキルにも共通しています。非認知能力は、成績や学歴、社会人になってからの雇用形態や年収に比例するともいわれています。※10

日本においては現在、モンテッソーリ教育実践園は全国にありますが、学校教育の受け皿はほとんどありません。その一方で、モンテッソーリ教具は比較的手に入れやすく、「おうちモンテッソーリ」としても取り入れやすいのも特徴です。ゴミをゴミ箱に入れる、花瓶に花を生ける、お茶を注ぐなど、「日常生活の練習(運動)の領域」から実践することで、子どもが「自分は自立したひとりの人間なのだ」と自信をもつことにつながります。自宅で継続的に取り入れたい方や、お子さまの感性を育む教材(教具)をお探しのご家庭におすすめです。

関連記事:モンテッソーリ教育とは?メリットや「おうちモンテッソーリ」、おすすめ教具4選を紹介

レッジョ・エミリア・アプローチ

レッジョ・エミリア・アプローチは、第二次世界大戦後にイタリア北部にあるレッジョ・エミリア市で始まった幼児教育です。教育心理学者であるローリス・マラグッツィ氏の功績により大きく発展し、今や世界中で注目されています。※11

マラグッツィ氏の詩「子どもたちの100の言葉(Invece il cento c’e)」に象徴されているように、レッジョ・エミリア・アプローチは「子どもたちには教育や社会に主体的に参加する権利がある」と表明しています。※11

レッジョ・エミリア・アプローチには、「プロジェクト」「ドキュメンテーション」「芸術教育」「環境」という4つの特徴があります。明確なカリキュラムがあらかじめ作られることはなく、子どもたちの興味関心や対話を通して生み出され、「プロジェクト」へと発展します。人と人との関係性や対話を重視し、グループ単位での活動が多いのも特徴といえます。※12
人的環境の一環として特徴的なのが、子どもの創造的活動を支援する「アトリエリスタ」の存在です。施設にはアトリエやミニアトリエといった環境が整備されていることからも、芸術教育を重視していることがよくわかります。※13

レッジョ・エミリア・アプローチには、好奇心や協同性、創造性など、「非認知能力」を育む効果があります。レッジョ・エミリア・アプローチでは、子ども、保育者、保護者がお互いに協力し合っている関係が特に重要であるとされており、ご家庭に取り入れる価値があるといえます。※14

関連記事:レッジョ・エミリア・アプローチとは?世界が注目する幼児教育の特徴や効果、家庭での取り組む方法を紹介

気になる幼児教育は、まず情報収集を

ここでご紹介した幼児教育のうち、どれがお子さまに合うのかは、各ご家庭の方針やお子さまの性格によっても異なります。文部科学省が述べているように、幼児教育で大切なのは、目先の結果のみに期待しないことです。お子さまの才能をのびのびと開花させるためにも、気になる教育法を見つけたら、まずはお父さん・お母さんが書籍やインターネットで情報を集めることをおすすめします。メリットだけではなく、デメリットや経験者の声も参考にしながら、ご家庭に取り入れたり、幼稚園・保育園や小学校探しに役立てたりしましょう。

参考資料

※1 文部科学省 第1章 子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の方向性
※2 Waldorf World List – Directory of Waldorf and Rudolf Steiner Schools, Kindergartens and Teacher Training Centers worldwide 2021 May
※3 学校法人シュタイナー学園 よくある質問
※4 一般社団法人日本シュタイナー幼児教育協会 シュタイナー幼児教育とは
※5 学校法人シュタイナー学園 カリキュラム
※6 今井重孝. (2018). イマイ シゲタカ 教育方法に関する一考察 : シュタイナー教育を中心として. 川口短大紀要, 32, 135-147.
※7 竹田康子. (2014). モンテッソーリ教具の歴史的変遷. 大阪大学教育学年報, 19, 31-48.
※8 長田勇, 立田佐武朗, 小松広子, 立田千陽子, 山根悦子, 堀澤理恵, 岩崎桂子. (2014). モンテッソーリ教育の核心 小池学園研究紀要, 12, 63-80.
※9 相良敦子. (2007). お母さんの「敏感期」 モンテッソーリ教育は子を育てる、親を育てる. 文藝春秋.
※10 西坂小百合, 岩立京子, 松井智子. (2017). 幼児の非認知能力と認知能力、家庭でのかかわりの関係. 共立女子大学家政学部紀要, 63, 135-142.
※11 中坪史典. (2018). レッジョ・エミリアの視点から読み解く日本の幼児教育 : 子どもの主体性と保育者のかかわりに着目して. 広島大学大学院教育学研究科紀要, 67, 9-16.
※12 アレッサンドラ・ミラーニ (著) 水沢透(訳). (2017). レッジョ・アプローチ 世界で最も注目される幼児教育. 文藝春秋.
※13 高野牧子. (2017). レッジョ・エミリアの幼児教育における身体表現性. 山梨県立大学人間福祉学部紀要, 12, 83-94.
※14 Sydney Gurewitz Clemens, 加藤正一(翻訳). レッジョ・エミリア・アプローチ入門—世界の最先端を行く幼児教育から学ぶ (研究所プロジェクト報告)

原 由希奈

原 由希奈

1986年生まれ、札幌市在住。北海道武蔵女子短期大学英文科卒、在学中に英国Solihull Collegeへ留学。幼児教育、小学校教育、ICT教育やプログラミング、オルタナティブ教育、絵本などのジャンルで執筆するインタビュー・コラムライター。ダイヤモンド・オンラインなどのWebメディアで執筆。2016年生まれ・2018年生まれの男児を育てる2児の母。

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