【学科】宮代町立笠原小学校
前回からの続きです.
平成5年の一級建築士「学科」試験で問われた知識です.
【解説】
「宮代町立笠原小学校(象設計集団,1982,埼玉県宮代町)」は,子どもの遊び心をふんだんに取り入れたユニークな設計で知られ,クラスルーム(教室)を独立させ,家庭的な雰囲気をもたせている.
クラスルームの床面積を通常(60㎡程度)の約1.5倍(90㎡程度)とし,クラスルーム内に畳コーナー,ベンチ等のあるアルコーブ(居室や廊下の壁の一部を後退させてつくったくぼみのようなスペース)を設けている.したがって,問題文の記述は誤り.教室間の壁を取り払ったオープンスペースによる施設計画がなされているのは,東浦町立緒川小学校(愛知県)である↓
建築デザインの歴史は,「画一性(合理的で無駄をなくす)」と「多様性(非合理的で無駄のような要素が増える)」を振り子のようにいったり,きたりを繰り返してきた.ゴシックとバロック,モダニズムとポストモダニズム(コチラ)といったように.
「画一性」,「多様性」のいずれのデザインも様々な名作建築をこの世に誕生させている.
また,「画一性」のデザイン(=合理的でシンプルな美しさ)が盛り上がる時,時代は画一化へと向かい,無駄が消え,社会全体が最適化されていくため,経済は活性化する.人口集中による大都市化が進み,国家的プロジェクトも数多く生まれ,建物は巨大化していく傾向にある.
逆に,「多様性」のデザイン(=演出的で心を揺さぶる美しさ)が盛り上がる時,時代は多様化する.様々な分野で無駄が増えるため,経済は停滞し,地方回帰(人口分散)が進み,味気のない画一化された都会暮らしよりも,田舎ならではの地域性が求められるようになる.今の日本社会がまさにこの状況ではないだろうか.
日本の「多様性」デザインの代表作の一つが,象設計集団が設計したこの「宮代町立笠原小学校」だろう.1970年代の高度経済成長がひと段落し,日本経済が低迷しだした1980年代初頭にこの建築は誕生する(ちなみにバブル経済は1980年代後半に起こる).
この校舎の主動線(廊下)は町の軸線に合わせる形で計画されている他,藤棚や稲の乾燥にも使える2階の手摺など,「多様性」の代名詞とも言われる「地域性」がふんだんに建築計画へ取り込まれている.
淡いピンクの顔料を予め混ぜて打設されたRC躯体は,校舎全体を包み込む,周辺の木々の緑と相まって,生命の息吹を肌で感じる.教室群ごとにアプローチでき(アプローチを1ヶ所に集中させず分散),校舎内を子ども達は裸足で歩き回る.
内部空間は自然の中に分散配置され,外壁が多くなるがその分,外部の自然との繋がりが濃い.自然の森の中に,教室等をポンポンと置かれたような感覚だ.学校建築特有の閉鎖感が全くない.どこにいても常に自然(外部)へ向かって開かれているのだ.
子ども達は,森の中を上下左右に動きまわりながら,自然と向き合いながら学校生活を過ごす.暑い,寒いよりもこの解放感にこそ価値がある.どこにいても「多様性」に満ち溢れ,死界がない.内と外が何かしらの形で繋がっていて,そして,必ず,どこかに何かがある.この学校の卒業生たちは,地域の「稼ぐ力」を引き出せる人材へと成長しやすいだろう.空と音,風と空気の調和が本当に心地いい.世界中の子ども達に体感して欲しい空間でした.学校案内はコチラ.GoogleEarthはコチラ.
【解答】×
「宮代町立笠原小学校」は,平成18年にも出題されています.
【解説】
問題文の記述の通り.
【解答】〇
続く
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