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将来から逆算した「事業戦略」と「戦略アクション」

最初にやるべき「事業の勝ち筋」の言語化

事業責任者になったら、まず最初に取り組むことを強くオススメするのが「事業の勝ち筋」の言語化です。事業責任者になるまで、「事業戦略」を「中長期」の時間軸でじっくり考える機会はあまりなかった方の方が多いと思いますので、ぜひ最初に時間を取って取り組みましょう。

勝ち筋は事業戦略のコアであり、ロジカルな購買決定が行われるBtoBエンプラ事業において、「なぜ自社を選んでもらえるか?」は絶対に言語化しておく必要があります。

事業の勝ち筋とは具体的に以下と定義しています。

目指す事業目標と達成するために、選択した市場で、自社がどんな顧客から、どういった商品・サービスで、どういった強みをウリに、事業を伸ばしていくかを言語化したもの

この事業の勝ち筋は、抽象度が高く・考える要素も多く・考える時間軸も長いため、ポイントをしっかり押さえた上で考えていく必要があります。


本章のサマリー

スタートアップで事業戦略を考えるとは

  • 3年後の「市場・競合環境と、顧客課題・ニーズ」の変化を見極めて

  • 自社の「勝ち筋・バリュープロポジション」を定義して

  • それらを実現する「未来の組織図とキーポジション」を言語化し

  • 3年後に向けた「今後1年間の戦略アクション」を決定すること

です。事業成長を実現するための「戦略」と「実行」を両面で検討し、具体的なアクションにまで落とし込んでいきます。

本章では、具体的な検討の進め方を詳細に解説しつつ、最後には皆さんが「自社の事業戦略」を言語化するためのフォーマットも共有しています。ぜひ最後まで読み進めていただけたら嬉しいです。

そもそも「事業戦略」「事業の勝ち筋」を構成する要素とは?

「戦略」という言葉はあらゆるビジネスシーンで使われていますが、具体的に「事業戦略」「事業の勝ち筋」を考えるとは、何を考えることなのでしょうか。個人的にもっとも腹落ちしたのは、戦略の大家である安宅さんのこの「戦略の三要件」です。

ポイントは①事業環境の「将来」を先読みすること、②対競合優位を「維持」し得る勝ちパターンを探すこと、③戦略だけでなく「実行」までプランニングすることです。

①VUCAの時代に「事業環境と競争環境」を見通すことも、②テクノロジーの進化であらゆる方面から新規参入がありうる中で「勝ちパターン」を見極めることも、③実行の鍵を握る人材の流動性が高まる中で「総合的なアクション」を設計することも、どれも劇的に難易度が上がっていると思います。

それでもこれらを考え抜く・考え続けることが、「事業戦略」を立案し、「事業の勝ち筋」を探し続けなければいけない事業責任者にとって、もっとも重要な仕事だと思います。

「事業の勝ち筋」を考えるステップ

では具体的に、どうやって「事業の勝ち筋」を言語化していくかを見ていきましょう。

既に経営者や前任者が整理しているものがあるかもしれませんが、それでも事業責任者である自分自身が、心から腹落ちし、自分の言葉で語れることが重要です。そのため、結論は大きく変わらなくても、改めて以下のステップで考え、言語化してみることを強くおすすめします。

BtoBエンプラ向け事業で「事業の勝ち筋」を考えるステップは以下の6つです。

💡「事業の勝ち筋」を考える6ステップ
ステップ❶ 3年後に目指す「事業規模」を定める
ステップ❷ 3年後の市場環境・競争環境を見通して「戦う市場」を選択する
ステップ❸ 戦う市場での「バリュープロポジション」を言語化する
ステップ❹ 事業の「スケーラビリティ」をチェックする
ステップ❺ 戦略を実現するための「組織」を設計する
ステップ❻ 1年後までの「戦略アクション」を決定する

ステップ❶ | 3年後に目指す事業規模を定める

最初のステップは、目指す事業規模を定めることです。
3年後という時間軸は、各社で事業特性に合わせて決めてOKですが、ステップ❽で1年間のアクションを決めるため、3年後が見通す期間としてはちょうどいいと考えています。

このツイートでも記載がある通り、VISONAL南さんも「未来」を見通して、そこから「逆算」していくプロセスを重視しています。足元ではなく「将来の行きたい先」を明確にするからこそ、現状とのギャップが認識でき、日々理想に向けて事業を引っ張っていくことができます。

実現できるかは一旦置いておいて、目指す事業規模を必ず最初に設定しましょう。

一方で絶対にやってはいけないのは「顧客インサイトの軽視」です。

LayerX福島さんがnoteで詳細に書かれていますが、Product Market Fit(PMF)前の新規事業を起こす場合に、「良い市場」でビジネスをやることを優先し、「シェアが〇〇%になったらこれくらいの売上になる」と皮算用するのは避けるべきです。

もちろん「良い市場」でビジネスができたら成長にとってプラス要素にはなりますが、目の前の顧客の課題から見える「インサイト」を出発的にしないと良い事業はできません。

本マニュアルは「0→1の新規事業ではなく、1→10→100とグロースさせていくフェーズの事業」責任者向けに作成しているため、目指す事業規模を定めて逆算で「勝ち筋」を見極めていきますが、私自身も0→1フェーズでは「顧客インサイト」を何よりも優先して事業立ち上げを行うべきという意見には100%賛成です。

ステップ❷ | 戦う市場を選択する

次に、3年後の「市場環境と競争環境」を見通して、どの市場で戦っていくかを選択していきます。

スタートアップの場合、成長市場で事業を展開していることが多いと思うので、その前提で以下の3つを把握・検討していきます。

  1. 3年間でざっくりどの程度、市場規模が大きくなっていくか

  2. その市場拡大はどのバイヤーによって牽引されるか

  3. 市場拡大の中で、サプライヤーの競争環境はどう変化するか

1. 市場規模の変化をざっくり把握

市場規模の変化を把握するためには、まずは「業界 市場規模 日本」といったキーワードでGoogle検索をしてみましょう。矢野経済研究所や富士キメラ総研などの調査会社が過去にリサーチをしていれば、簡単に市場規模を把握することができます(但し、リサーチの前提企業は必ず確認しましょう)。

「インフルエンサーマーケティング」を例にすると、株式会社サイバー・バズがソーシャルメディアマーケティング市場規模を調査をしているため、すぐにどの程度市場が拡大するかを把握することができます。

また、「会社四季報 業界地図」や「日経 業界地図」といった書籍も活用できます。市場規模が解説されている業界も多いですし、業界大手企業の売上や支出費目から、ざっくりでも市場規模が算定できると思います。業界大手企業について詳細にリサーチする場合は、各社のIR情報(決算説明資料など)を見てみるのがおすすめです。

2. 市場拡大はどのバイヤーによって牽引されるか

BtoB領域で拡大している市場では、その市場拡大がどのバイヤーによって牽引されているかを把握することが重要です。具体的には❶既存バイヤーの支出が増える or ❷新規バイヤーの新たな支出が生まれる or ❸その両方の3パターンの何れかを判断していきます。

特に、①現在のトップ顧客からの獲得予算を増やしていくのか・②今後予算を増やしていく別の顧客(新規顧客を含め)から予算を獲得していくのかは、顧客数が多くないエンプラ向けBtoB事業において重要な論点です。

加えて市場が拡大した状態のとき、既存・新規バイヤーがそれぞれどんなソリューションを購買しているかを検討しましょう。1) 現状のソリューションへの支出を増やしているのか、2) 新しいソリューションでないとニーズにマッチしなくなっていそうかを、競合サプライヤーの動きも踏まえて考えていきます。

例えば「経理向けSaaS」であれば、エンプラ企業でもSaaSへの切り替えが進んでいるタイミングであることから、3年後には特に②の新たな顧客からの予算獲得が鍵になると思います。一方で、「バックオフィスSaaS」で捉えると、LayerXを中心に「コンパウンド化」「All-in-One化」のトレンドが強いため、経理向けSaaSにとって①のトップ顧客からの獲得予算を増やしていく=ウォレットシェアを高めていく動きも重要になるはずです。

このように「バイヤー=顧客の支出側」から見て、今後3年間の変化を見通していきます。

3. 市場拡大の中で、サプライヤーの競争環境はどう変化するか

バイヤー側から市場を見通した後は、サプライヤー側の競争環境の変化を見極めていきます。具体的には、市場が拡大していく中で、❶既存サプライヤーの競争はどうなっていくか・❷どんな新規サプライヤーが参入してくるか・❸その中のどのカテゴリーのプレイヤーがもっとも脅威かを考えていきましょう。

まずは「現在の競合他社との競争がどうなっていくのか」を、バイヤーの変化に照らして検討していきます。現在のサプライヤー各社が何を強みにしているかを考えた上で、バイヤーの課題・ニーズがどう変化していくかを捉えて、そのときの各サプライヤーの動き方を想定していきます。

成長市場で特に重要なのが「隣接領域からの強者の本格参入」を考慮することです。市場が小さいうちは様子見をしていた企業も、市場規模が大きくなると本格的に参入を試みてくるはずです。これを想定できていないと、せっかく労力をかけて開拓した市場を一気に持っていかれるリスクがあります。

「デジタルマーケティングサービス」を例にすると、新領域が立ち上がったタイミングではブティック系のエージェンシーが市場拡大の波に乗って事業を拡大させていきますが、市場が大きくなり魅力度が上がると「電通・博報堂・サイバーエージェント」といった強者が参入してくるリスクが常にあります。

バイヤーの変化を踏まえた上で、今後3年間のサプライヤーの競争環境の変化を見極めることが、一定以上の規模まで事業を成長させる上でとても重要になります。

戦う市場を選択する(まとめ)

「市場規模」「バイヤー」「サプライヤー」の変化を見極めた上で、ステップ❶で設定した事業規模の目標を達成するために、①現在の市場で戦っていくべきなのか、②別の市場にも挑戦する必要があるのかを判断していきます。

戦略や戦術レイヤーは非常に重要ですが、その戦略の前提となる「市場選択」は最も重要なファクターです。事業としての「勝ち筋」を考える前に、必ず「戦う市場」を整理→腹落ちしてから選択することを強くおすすめします。

ステップ❸ | 戦う市場での「バリュープロポジション」を言語化する

3年後の「市場環境と競争環境」を見通せたら、いよいよ自社の「勝ち筋」を検討していきます。

いわゆる「3C分析」を行い、「バリュープロポジション」を言語化していくプロセスになります。バリュープロポジションについては、スタートアップで事業に関わる人は全員読むべきと言える、DCMベンチャーズ原さんの解説がものすごく参考になります。

💡バリュープロポジション
「誰が顧客」であり、その顧客の「ペインポイントは何で」、その顧客に対して「どのような価値を提供する」「何で(製品カテゴリー)」、それは「どのような機能」によって成立しているか。それは「競合製品や既存のソリューションと比べて」どう違うのか、をシンプルに明らかにするものです。

原さんのnoteでは、新規事業のPMF(プロダクトマーケットフィット)に関するバリュープロポジションを解説されていますが、本マニュアルではそれを「3年後のバリュープロポジション」に転用していくイメージです。具体的には以下を詳細に言語化していきます。

  1. 顧客の課題・ニーズの把握  |  ①「誰が顧客」であり、②その顧客の「ペインポイントは何で」

  2. 提供する商品・サービスの決定  |  その顧客に対して③「どのような価値を提供する」、④「何で(製品カテゴリー)」、⑤それは「どのような機能」によって成立しているか

  3. 自社の価値・強みの定義  |  ⑥「競合製品や既存のソリューションと比べて」どう違うのか

3C分析・バリュープロポジションは既によく知られたフレームワークですが、それにもかかわらず、いまだに多くの企業が「顧客が欲しがらない商品・サービス」を作ってしまうという失敗を繰り返しています。その要因は、SAIRUさんがまとめられている通り、バリュープロポジションには「3つの落とし穴」があるからです。

💡バリュープロポジション 3つの落とし穴
自分たちの想いが先行してしまう 
|  事業責任者の原体験や、テクノロジーの優位性に囚われて、顧客が欲しがらないものを作ってしまう
既存のアセットに引っ張られる  |  自分たちが持っているアセットがあるがゆえに、それらを活かすことばかりを考え、「顧客が望んでいる価値」と合致しない商品をつくってしまう
自社のケイパビリティが追いつかない  |  顧客が望んでいる価値を取捨選択せず、幅広く対応しようとしすぎて、自社が提供できる価値を届けきれなくなってしまう

3つの落とし穴を回避するには、「バリュープロポジション」は必ず「顧客」から考え始める必要があります。そして上記プロセスは、この落とし穴を回避できる順番になっていますので、1つずつ詳細を見ていきましょう。

1. 顧客の課題・ニーズの把握

まず始めに①「誰が顧客」であり、②その顧客の「ペインポイントは何」かを言語化していきます。ポイントは時間軸を常に「3年後」に置くことです。ステップ❷で検討した「市場環境の見通し」を土台に考えていきます。

①「誰が顧客」かについては、ターゲットセグメントを考えるのが重要になります。そのときに大切になるのは「フォーカス」で、狭いけど大丈夫かなと思うくらい絞り込みます。また、セグメントは「課題」ベースで切り分けましょう。同じ「セグメント」というのは同じペインポイントやニーズを持ち、同じ機能でそのペインポイントを解決でき、同じようなマーケティング手法でアクセスでき、口コミが効く集団を指します。

②「ペインポイントは何」かについては、ターゲットセグメントのペインの「深さ」を重視します。

Nice to have (あったらうれしいかな) or Must have (ないと本当に困る!)な商品・サービスになるかは解決するペインの深さ次第です。そのため、ペインポイントの深さは徹底的に追求しましょう。

ペインの深さは以下の公式で決まります。

💡 ペインの深さ = 緊急性/必要性 x 経済インパクト x 頻度

「誰が顧客」か・「ペインポイントは何」かを捉えるためには、セールス部門へのヒアリング、既存顧客へのインタビューを行いましょう。

セールス部門へのヒアリング
受注時の担当セールスや、カスタマーサクセスへのヒアリングを行います。顧客がどんな課題・ニーズを持っていて、なぜ自社商材に興味を持ってくれたのか、比較された他社商材は何か、なにが決め手で受注できたのか、なぜ自社商材を活用してくれているのかといった背景を深掘りしましょう。

既存顧客へのインタビュー
セールス部門へのヒアリングは有効かつすぐに実施できますが、顧客の解像度を上げるためには自ら既存顧客にインタビューを実施しましょう。

「顧客解像度」についてはLayerX稲田さんの「4レイヤーと問い」は非常にわかりやすく、いつも参考にさせていただいています。以下の問いに明確に答えられている状態を「解像度が高い」状態と定義して、それぞれに仮説を持った上でインタビューで情報を集めていきます。

https://note.com/hiroto_inada/n/n8ca334c00cc2?sub_rt=share_pw

また、インタビュー以上に解像度を高められるのが「実際に一緒に働くことでペインを自ら体験する」です。

ログラスのVPoP(プロダクトの最高責任者)の斉藤さんが解説されている「丁稚奉公」は顧客解像度を高める最強のアプローチですので、タイミーでバイトをしてみるなどの方法で、ぜひ実際に自分でやってみる・一緒に働くをやってみることを強くおすすめします。

2. 提供する商品・サービスの決定

次に③「どのような価値を提供する」、④「何で(製品カテゴリー)」、それは⑤「どのような機能」によって成立しているかを考えていきます。3年後のバイヤー・サプライヤーの状況を踏まえた上で、今後3年間で自社はどの範囲まで「提供する商品・サービス」を拡げるかを検討していきましょう。

ここでは「フォーカス」と「拡張」のバランスが重要です。

これまではより「フォーカス」が重要視されてきました。「ペインポイントを解決するために何が一番重要な機能」になるのか、「その機能が代替手段よりも高い価値を提供できるのか」を考え、提供機能を絞り込む中で、特にSaaS企業ではこれまでのERPの「アンバンドル」が進んできました。

一方で、2024年現在は「コンパウンドスタートアップ」と言われる、複数商品・サービスの提供を構想するスタートアップが急激に増えています。LayerXの福島さんが解説されている通り、コンパウンドスタートアップはアンバンドルされた機能を、リバンドルして新たなソリューションを創り出しています。そして、リバンドルされたソリューションは「データ」と「連携」によって、アンバンドルされた単一ソリューションでは提供できない高い機能・UXを備えています。

https://comemo.nikkei.com/n/n7332c93f50c7

これはSaaS企業に限った話ではなく、例えばデジタルマーケティング支援企業も類似です。Web広告・SEOなど単一領域で強みをつくり総合代理店と差別化した上で、SNS・CRMなどの隣接領域にも進出していくブティック系のマーケティングエージェンシーが複数います。これらの企業も、マーケティングファネル横断での施策で、領域ごとの分断を打破し、単一領域のエージェンシーよりも高いマーケティング効果を実現しています。

こういった「コンパウンド化」が進む中で、競合企業の動き次第では、現状の商品・サービスラインナップでは足りず、新たなソリューションを作りにいかなければいけない可能性もあります。

「3年後の市場・競争環境」を想定した上で、提供すべき商品・サービスを考え抜きましょう。

自社がコンパウンドスタートアップを目指していなくても、事業責任者が考えるべきは、隣接領域から参入してくるプレイヤーの可能性です。このプレーヤーは、別領域の「データ」を持っているからこそ提供できる機能・「リバンドル(連携)」しているからこそ提供できるUXを持っています。

あなたが単一領域で戦っている事業責任者であれば、コンパウンド企業が参入してくる可能性とその対抗策は、常に考えていかなければいけません。もし参入が見込まれて、かつ競争で負けるリスクが高いのであれば、自社も同様の商品・サービスを開発する・参入される前に提携するなど、対策を講じる必要があります。

3年後の「市場」「競合」を考えた上で、自社として提供していく「商品・サービス」を設定します。

3. 自社の価値・強みの定義

最後に⑥「競合製品や既存のソリューションと比べて」どう違うのか、自社の価値・強みを定義していきます。

顧客の課題・ニーズや、ソリューションの提供価値は、現時点での相対的なものです。ペインポイントや自社の価値は、現在顧客が使っている or 競合が今後出すソリューションによって、一気になくなってしまうリスクもあります。だから現在の代替手段・競合商品は「絶対に甘く見ない」のが鉄則です。

特に現在の代替手段は、ユーザーが何年もかけて慣れて、組織にも浸透しているものです。それを押しのけて新たに導入しようと思わせるだけの「自社の価値・強み」を打ち出せるかは非常に重要になります。

一方で「世の中で自社しか提供できない機能」など、誰にでもひと目でわかる構造的な独自の強み(USP(Unique Selling Proposition))を作れている企業ばかりではないと思います。それでも「顧客が自社から買うべき理由」の定義にはこだわるべきです。たとえ強みが「人材レベルや特定領域での実績、使いやすさ」といったファジーなものでも、「何が自社の強みなのか?」「なぜ他社より高い水準で提供できるのか?」については、顧客が納得するに足る仕組みやストーリーが必要です。

強いバリュープロポジションが作れるかが、プロダクトの価値だけではなく、営業やマーケティングの難易度にも大きく関わってきます。簡単ではありませんが、ここをこだわりきらないと、事業のその他の要素にもダイレクトに影響が出るため、考え抜きましょう。

https://note.com/kenichiro_hara/n/nda84fcb24fa7

ステップ❹ | 事業の「スケーラビリティ」をチェックする

「バリュープロポジションやUSP」といった事業の「勝ち筋」が言語化できたら、次に事業の「スケーラビリティ」をチェックしていきます。
スケーラビリティとは「拡張性」のことで、ある事業が「パフォーマンスを保ったまま」どの程度規模を大きくできるかを意味しています。『起業大全』の田所さんが解説しているように、フィジビリティとスケーラビリティはトレードオフです。コンサルのような特定の個人のスキルに依存する属人性が高かったり、時間を売る工数ビジネスはスケーラビリティが低い、いわゆる「スモールビジネス」になります。

https://diamond.jp/articles/-/252314

スケーラビリティのチェックは、①営業、②運用(カスタマーサクセス)の2つの観点でしていきます。

① 営業の観点 | 一般的な営業が売れるか?

1つ目は「営業」の観点です。スキルの高い営業じゃないと売れない商品・サービスになっていないかをチェックします。
「顧客の潜在的な課題を抽出・整理して、カスタマイズした商品・サービスを提案する営業」ができるような、「コンサルティング営業」「ソリューション営業」でなければ売れない商品・サービスになっていたら、確実に事業の拡張性で悩むことになります。
なぜなら、真に「ソリューション営業」ができるような人材はほとんどおらず、育成の難易度もとてつもなく高いからです。顧客のニーズがぼんやりしていても、契約につなげられるようなハイレベルの営業に期待するのではなく、「普通の営業」が提案をしたら「顧客のニーズが喚起され」、ちゃんと売れる商品・サービスを作ることにフォーカスしましょう。

② 運用(カスタマーサクセス)の観点 | 一般的な人材で回せるか?

2つ目は「運用」の観点です。業界の平均的な意欲・能力のメンバーでも、顧客の期待値通りに価値を「デリバリー」できる商品・サービスになっているかをチェックしましょう。
コンサルファーム・SIer・エンプラSaaSでのプロマネ経験者といった、既に高いレベルの折衝力を持ったメンバーだけが「炎上せずに回せる」ような運用になっていたら黄色信号です。そういった人材は希少なため、事業が拡張する中で採用・育成スピードが追いつかず、事業拡大のボトルネックになるリスクが高いです。
メンバーのスキル不足を嘆く前に、業務の標準化や分業で「難易度」を下げながら、採用・育成プロセスを作り、新しいメンバーでも「安定して人材を増やせる状態」を構築すべきです。
「最初から誰でも回せる」ような低難易度の商品・サービスにこだわる必要はありませんが、将来的に「業務を型化して適切な育成をしたら」運用を回せる状態を想定できないと成長の阻害要因になるため、運用難易度が高すぎないかは必ず確認しましょう。

ステップ❺ | 戦略を実現するための「組織」を設計する

ここまで整理ができたら、「3年後の事業規模・事業の勝ち筋」を実現するための「組織」を設計していきます。
3年後に目指す事業を実現するために、①どういった組織図にする必要があり、②どの組織にどれぐらい人数が必要で、③絶対に採用しなければいけないキーポジションはどこなのかを言語化していきましょう。
事業は「戦略」と「実行」の両輪であり、「実行」レベルのほとんどを決めるのは「組織・人材」です。事業が急成長していくスタートアップでは、どうしても「今必要なポジションの採用」を優先したくなりますが、「未来の組織図から逆算した採用」が絶対に必要です。
ここでもLayerX石黒さんのnoteを参考にさせていただきます(LayerXさんは本当に何もかもがすごい…)。こういった形で未来を見据えて組織図を考え、埋めていきたいポジションを明確にするからこそ、採用候補者に正しく期待も伝えられますし、急激な事業成長に耐えうる組織ができあがっていくと思います。

https://note.com/t_1496/n/n876b5bef9cfd

またLayerX福島さんが解説してくださっていますが、成長するスタートアップこそ、時間軸は常に、半年先・1年先・1.5年先を意識して採用をする必要があります。そのためにも「未来の組織図」は必須です。
そして「組織はマネージャーから作る」が鉄則だからこそ、「未来の組織図」を見通しながらキーマンから採用していく、または内部でキーマンとなりそうな人を育成・登用していくことが重要です。

まだ作成していなければ、まずは「3年後の未来の組織図」を考え、「キーポジション」とその「採用要件」を言語化することは、ここで必ずやり切りましょう。
具体的な採用戦略については、別の章で詳細に解説していきます。

ステップ❻ | 1年後までの「戦略アクション」を決定する

いよいよ最後のステップです。3年後の「戦略・組織」が定義できたら、そこで満足せず、「今後1年間で絶対に実現すべき戦略アクション」を決めていきましょう。
急成長して日々忙しい中で、目につく課題に「何でもかんでも手をつける」のは避けるべきです。すべてが中途半端になり時間と労力を無駄にしてしまうリスクも高いですし、事業へのインパクトも限定的になります。
今後の1年間で実現しておかないと、3年後の目標実現が遅れる・不可能になるような「最重要イシュー」に絞り込み、戦略アクションとして設定していきます。そして、それらの戦略アクションを、事業のマネジメント陣で担当分けしていきましょう。

併せて、「戦略アクション」の進捗をモニタリングする「会議体」も設計しておきます。

戦略アクションは「重要度は高いが緊急度は低い」イシューであることが多いため、日々起きる現場の問題に忙殺されると、ついつい後回しにされがちです。そのため、事業責任者自身が「戦略アクションの完遂」にコミットし、日々マネジメント陣に要求し続けていく必要があります。

そのためにも「モニタリングできる会議体」を最初から設定し、進捗を追いかけられる環境を構築しましょう。このあたりは「実行戦略」の章で詳細に解説していきます。

本章のまとめ

スタートアップで事業戦略を考えるとは

  • 3年後の「市場・競合環境と、顧客課題・ニーズ」の変化を見極めて

  • 自社の「勝ち筋・バリュープロポジション」を定義して

  • それらを実現する「未来の組織図とキーポジション」を言語化し

  • 3年後に向けた「今後1年間の戦略アクション」を決定すること

です。事業成長を実現するための「戦略」と「実行」を両面で検討し、具体的なアクションにまで落とし込んでいきましょう。


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