見出し画像

2023 上半期 個人的ベストアルバム50

毎年恒例、1年の折り返し地点でその半年を振り返る時期が今年もやってきました。
今年は雑誌「SPUR」で連載を始めさせて頂いたこともあって、いつもの年以上に音楽を丁寧に聴き込むようになったというか、一つの作品を隅々まで聴いた上でそれを言葉で表現するというスタイルに少しずつ変化していったような気がします。
その音楽をまだ聴いたことがない人にも、その作品やアーティストの魅力が伝わるような文章を書くというのは思っていた以上に難しいものでしたが、それ以上に面白いなと思う部分が大きいですね。
自分は好きな作品に関してじゃないと中々言葉で表現出来ないし、音楽について深い知識や造詣があるわけでもないので、そんな自分がどう感じたかとか、どのように聴いてるか、みたいなところを大事にして文章を書いてます。
音楽に限らず作品の感じ方は人それぞれだし、その表現の仕方も様々あっていいと思います。
自分はこれまでと大きく変わらず、音楽好きのリスナーとしての感覚を大事にしながら、その作品の魅力を伝えられたらなと思います。
 
上半期に出会ったたくさんの作品の中から、個人的によく聴いたお気に入りのアルバムを今回も50作品選んでみました。
この記事を通して少しでもその作品の魅力が伝わり、興味を持ってもらえたら嬉しいです。

今回もアルバムジャケット下にその作品をストリーミングで聴けたり購入出来る各種サイトへのリンク(Songwhip)を貼っておきましたので、気になった作品があればぜひそちらからチェックしてみてください。
かなりのボリュームですがよかったら最後までお付き合いください。


50. MC Yallah 「Yallah Beibe」

Buy/Stream

ケニア生まれ、ウガンダ育ちのラッパー、MC Yallahの新作アルバム。
彼女は1999年頃から東アフリカのラップシーンで活躍してきたキャリア20年以上のベテランラッパーで、その界隈では重鎮として君臨しているような存在なんだそう。
自分は今作で彼女の存在を初めて知ったんですが、その迫力あるラップは中々の衝撃でしたね。
ケニアやウガンダの言語(ガンダ語、ルタ語、スワヒリ語)と英語を織り交ぜ、捲し立てるように早口でラップするスタイルは迫力満点で、USやUKのラッパー達とは全く異なる色を持っている感じ。
ダンスホールやトラップをスリリングに行き交うトラックも、圧倒されるようにワイルドな仕上がり。
近年盛り上がりを見せているアフリカの音楽シーンですが、そのほとんどがナイジェリア中心のアフロビーツの流れで、それ以外の音楽も面白いんだという事を見事に示してくれた作品でしたね。
所属するウガンダのレーベル、Nyege Nyege Tapesのサブレーベル、Hakuna Kulalaの動向も含めて、今後益々注目すべき存在です。

49. Anthony Naples 「Orbs」

Buy/Stream

ニューヨークベースのプロデューサー、Anthony Naplesの通算5作目となる新作アルバム。
Four Tetの目に留まり彼の主宰するレーベルからデビューし、ニューヨークのアンダーグラウンドなエレクトロシーンで常に異彩を放つ存在として注目を集めてきたAnthony Naples。
近年はDJ PythonやHuerco S.などが作品をリリースしているInciensoというレーベルのオーナーとしても活躍していて、才能あるアーティストを次々と世に送り出しています。
そんな彼の最新作は、ハウス/テクノからは少し距離を置き、ゆったりとしたテンポのアンビエント・チルアウトサウンドへと接近していて、とろけるように心地良い幽玄の音世界を作り上げています。
アルバムタイトルにもある通り、The Orbを思わせる90sアンビエントハウスのクールな温度感があるところも好きですね。
軽快なダブハウスや静謐なニューエイジの要素を感じるトラックもあり、アルバム全体の統一感はありながら曲ごとに少しずつニュアンスを変化させている、トータルとしての完成度が非常に高い作品でした。

48. Romance & Dean Hurley 「River of Dreams」

Buy/Stream

ロンドンベースのアーティスト、Romanceとアメリカの映画音楽作家、Dean Hurleyによるコラボアルバム。
優れたアンビエント作品を数多くリリースしていているロンドンのレーベル、Ecstaticの看板アーティストであるRomanceと、「Twin Peaks」をはじめとするDavid Lynchの作品の音楽監修を務めてきたDean Hurleyは、去年アルバム「In Every Dream Home a Heartache」をリリースしていて、今作はそれに続く2回目のコラボレーション作品です。
YouTubeにアップされている音源や80s・90sのメロドラマから抽出した音をサンプリング・コラージュした、ドリーミーでメディテーショナルなアンビエントサウンドは、ここではないどこかへ連れて行かれるような、現実味のない白昼夢のような質感の響き。
ヴェイパーウェイヴにも通じるファンタジックな空気と、モダンクラシカルなサウンドが作り上げる世界観がとにかく美しい…。
今年屈指の現実逃避アルバムです。

47. Jess Williamson 「Time Ain’t Accidental」

Buy/Stream

テキサス州出身で現在はLAベースのSSW、Jess Williamsonの通算5作目となる新作アルバム。
去年Waxahatcheeとのユニット、Plainsとしてもアルバムをリリースしていた彼女。
今作はBon IverやSnail Mail、Whitneyなどを手がけるBrad Cookをプロデューサーとして迎えていて、彼女の伸びやかな歌声とカントリー風味のフォークサウンドが非常に心地良い作品に仕上げています。
ペダルスチールやバンジョーなどのカントリーサウンドには欠かせない牧歌的な音色を使いながらも、iPhoneのアプリを使ったドラムマシンのクリック音が全体のリズムを作っていて、そのアンバランスさが何ともモダンに聴こえるというか、懐かしさと新しさが同居した新感覚のカントリーミュージックを見事に作り上げています。
別れが作品のテーマとなっているんだそうで、様々な別れを経験する事で感じた孤独感や哀しみ、そしてそれを乗り越え生まれた自信や愛などが歌詞として表現されています。
Kacey MusgravesやTaylor Swiftとはまた違ったベクトルでカントリーミュージックをアップデートした、聴き込むごとに味わい深さが増す素晴らしいアルバムです。

46. Joanne Robertson 「Blue Car」

Buy/Stream

イギリスのブラックプール出身のSSW、Joanne Robertsonの通算5作目となる新作アルバム。
彼女はDean Bluntとコラボアルバムをリリースしたり、度々彼の作品に参加してきた人物で、あの風変わりなDean Bluntと何度も共演しているという時点で中々の強者だなという印象ですよね。
Dean Bluntのサウンドとも通じるローファイな質感の響きは、聴いてると没入してしまう感覚になるというか、次第に頭の中の雑念などが消え去っていくような。
ざらついたギターと物憂げなヴォーカルという極シンプルな作りのサウンドは、アルバムジャケットと同じく白い紙の上に無造作に描かれた点と線のような抽象的な響き。
画家としても活動している彼女の頭の中の世界をデッサンしたような、刹那的で生々しい質感があるのも面白いなと思いましたね。
今作は過去10年間の未発表音源から厳選した楽曲で構成された内容になっているそうで、Coby SeyやMoinなども所属しているロンドンのレーベル、AD 93からリリースされたのも個人的には注目ポイントでした。
疲れている時や気分が乗らない時にこそ聴きたくなるような、眠りに就く時のお供として今年ずっと重宝するであろう癒しの作品です。

45. Yazmin Lacey 「Voice Notes」

Buy/Stream

ロンドンベースのシンガー、Yazmin Laceyのデビューアルバム。
スモーキーで程良く力の抜けたヴォーカルと、Erykah BaduやJill Scottをルーツとしたようなジャズ〜ネオソウルサウンドのブレンド具合が、反則級の心地良さを作り出している極上の一枚。
Jessie Wareの傑作デビューアルバム「Devotion」のプロデュースや、自身のソロ活動でも知られるDave Okumuをプロデューサーに迎えた今作は、ジャズやソウルを軸にレゲエやボサノヴァなど、ほのかに南国の香りが漂う響きが混ざり合ったサウンドで、気だるい質感のヴォーカルとも相まって聴いてると一切のやる気を奪うように心地良い脱力感が襲ってくる感じ。
先日来日公演も行なっていて、バンド演奏で聴くとまた違った印象を持った人も多かったみたいですね。
思ったよりも歌声がパワフルだった、なんて感想もあって、次の機会にぜひとも体感してみたいなと思いました。

44. Youth Lagoon 「Heaven Is a Junkyard」

Buy/Stream

アイダホ州出身のTrevor Powersによるプロジェクト、Youth Lagoonの8年振りとなる新作アルバム。
2010年代初頭にデビューして以来、ナイーブな歌声とドリーミーかつサイケデリックなサウンドで、インディーロック好きの中でもとりわけ熱心でコアなファンを獲得していたYouth Lagoon。
3作のアルバムをリリースした後、2016年に突如プロジェクトを終了すると発表し、その後Trevor Powers名義で音楽活動は再開していましたが、2021年に服用した市販の薬による副反応で一時命の危機に陥る程の大きなダメージを負ってしまいます。
様々な苦難を乗り越えてついにYouth Lagoonとして久々に帰ってきた今作は、精神的・肉体的苦痛を負ったことで生まれた感情や、そこから立ち直る過程で見えてきた景色を、穏やかなアコースティックサウンドと繊細な歌声で表現した、非常に味わい深い作品となっていました。
以前の作品とはまた違った美しさというか、しっかりと地に足がついた人間味のある作風になったなという印象でしたね。
The xxやSamphaなどを手がけてきたRodaidh McDonaldをプロデューサーに迎えたこともその変化の大きな要因でしょうね。
じっくりと耳を傾けたくなる素晴らしいアルバムです。

43. feeble little horse 「Girl with Fish」

Buy/Stream

ピッツバーグベースの4人組バンド、feeble little horseのセカンドアルバム。
大学の友人同士で結成した彼らの魅力は、地元の音楽好きの仲間達で集まってなんか面白いことやろうぜ、というノリがサウンドにも表れている感じがするというか、色々な固定概念に囚われていない遊び心が楽曲の随所から感じられるところですね。
弾き殴ったようなノイズまみれのギターの轟音のワイルドさと、どこか冷めたようなアンニュイな質感のヴォーカル、そこにキャッチーなポップセンスを持ったメロディーが加わるという何とも不思議なアンバランスさが非常に魅力的。
1曲の中で急にガラッと曲調が変わったり、ヴォーカルのピッチを加工したり、聴いてて飽きない様々なギミックが至る所に施されていて、そのあたりも遊びの延長感があるというか、とてもユニークなスタイルのバンドだなと思います。
同じ男女構成で4人組の先輩バンド、Big Thiefと同じSaddle Creekからのリリースというのも面白いし、遊び心を忘れずBig Thiefのように進化し続けていくバンドになっていって欲しいなと思いますね。

42. chunky 「Somebody’s Child」

Buy/Stream

マンチェスター出身のラッパー、chunkyのデビューアルバム。
ジンバブエをルーツに持つ彼は、実は15年近く前から活動しているベテランで、イギリスのアンダーグラウンドなクラブシーンにおいて常にその動向が注目される存在だったんだそう。
自分は今作で初めて彼のことを知ったんですが、鼻にかかった声で淡々とビートを乗りこなす感じがとてもクールで、1発で心を掴まれましたね。
グライムやダブステップ、ダンスホール、アフロビーツが散乱したビートは良い意味でラフな仕上がりというか、変に作り込まれ過ぎてないジャンキーな質感が彼のラップスタイルとも合っていて、作品全体がミックステープのような作りになっているところも好きでした。
近年Space AfrikaやBlackhaine、Finn、ayaなど続々と新しい感覚を持った才能が登場し盛り上がりを見せているマンチェスターの音楽シーン。
chunkyの今作もその得体の知れない流れをさらに活発化させる存在として、ぜひチェックして欲しい作品です。

41. Parannoul 「After the Magic」

Buy/Stream

韓国のソウルベースのアーティスト、Parannoulの通算3作目となる新作アルバム。
2021年リリースの前作「To See the Next Part of the Dream」で一躍大きな注目を集める存在となったParannoulですが、その人となりや経歴に関する情報はほとんど無く、いまだに謎の多いミステリアスな雰囲気があるのも魅力の一つなのかもしれません。
前作と同様、激しく掻き鳴らされたギターの轟音がエモーショナルに響き渡るシューゲイザーサウンドが軸となりながら、シンセサイザーの華やかな音色が加わりエレクトロの要素がかなり色濃く出た響きになっているのが印象的でしたね。
アルバムジャケットのように非常に彩度の高いサウンドに変化したというか、良い意味で垢抜けたなと感じる煌びやかな響きへと進化しているのが今作の魅力ですね。
今作の収録曲も披露したライブの模様を作品化した「After the Night」もリリースしていて、そちらも素晴らしいので併せてチェックしてみて欲しいなと思います。

40. Jayda G 「Guy」 

Buy/Stream

カナダ出身のDJ/プロデューサー、Jayda Gの新作アルバム。
R&Bやディスコを下敷きにした涼しげなハウスミュージックが魅力の彼女のサウンド。
2020年リリースのシングル曲「Both of Us」は、ピアノの美麗な旋律がキーとなった洗練されたサウンドがとにかく最高で、個人的にここ数年のダンスミュージックでトップクラスに好きな楽曲です。
セカンドアルバムとなる今作は、彼女の亡き父親の遺した音声が作品の随所で使われていて、アフリカ系アメリカ人として父親が感じた様々な感情や経験を通して、虐げられ苦しんできた人達への理解を深めて欲しいという彼女の想いが込められているんだそう。
比較的重めなメッセージとは裏腹に、サウンド面は彼女らしい非常に洗練されたクールなディープハウスが軸となっていて、これまでの作品に比べてヴォーカルがより前面に出たメロディアスな楽曲が多いのが印象的でしたね。
共同プロデューサーにはSAULTとの仕事などで知られるJack Peñateが参加していて、そこも変化の要因なのかなと思います。
これからの暑い季節により聴く機会が増えていきそうな、クールでスタイリッシュな作品です。

39. Nourished by Time 「Erotic Probiotic 2」

Buy/Stream

ボルチモア出身で現在はロンドンを拠点に活動しているMarcus Brownによるプロジェクト、Nourished by Timeのデビューアルバム。
ボルチモアの実家にある地下室で制作したという今作。
作曲、演奏、録音も含めて全ての制作工程を彼自身で行なったんだそう。
ローファイなベッドルームポップやニューウェイヴ、ソウル、ファンク、エレクトロなどが雑多に混ざり合った非常に折衷的なサウンドで、個人的には80年代後半のダンスミュージックの空気感に近い印象でした。
意外なくらいキャッチーなサウンドと、彼の深みのあるバリトンボイスが不思議なバランス感で一体化した独特の質感のサウンドがとても魅力的でしたね。
彼はインタビューの中で、80年代の雰囲気が残りつつも90年代の新しい空気が入ってきている1990年〜1992年頃の音楽に惹かれると語っていて、1番大きな影響を受けたのはPrinceなんだそう。
Yaejiの新作アルバムに参加したり、Dry Cleaningの楽曲のリミックスを手がけたり、彼の独特なサウンド感覚が徐々に音楽業界でも注目され始めていて、今後より面白い存在になっていくオーラをひしひしと感じますね。

38. Eddie Chacon 「Sundown」

Buy/Stream

Charles & Eddieというデュオとして1990年代から活動しているSSW、Eddie Chaconの新作アルバム。
メロウなソウルサウンドで人気だった彼らですが、メンバーのCharles Pettigrewが2001年に37歳の若さで亡くなってしまい、Eddieも活動を休止していましたが、2020年に57歳で突如アルバムを発表しカムバックを果たします。
今作はそれに続く2作目となるアルバムで、前作に引き続きJohn Carroll Kirbyがプロデューサーを務めています。
2人でスペインのイビサ島に滞在していた時に楽曲の制作を開始したんだそうで、まさにリゾート地で過ごしているような贅沢な時間が流れる至福のサウンドに仕上がっています。
70s初頭のソウルミュージックやPharoah Sandersに影響を受けたという、まるで楽園で鳴っているかのような浮遊感のあるジャズファンクサウンドがとにかく極上…。
パーカッションが奏でる心地良いリズムがバレアリックなムードを演出していて、Eddieの渋さと甘さが混ざり合った歌声も含めて、鳴っている全ての音に癒しの成分を感じる最高のリラクゼーションミュージックですね。

37. Navy Blue 「Ways of Knowing」

Buy/Stream

ロサンゼルス出身のラッパー、Navy BlueことSage Elsesserの新作アルバム。
彼はラッパーでありながらプロのスケートボーダーやモデルとしても活動していて、自身の作品だけでなくこれまで多くのラッパーの楽曲を手がけてきたプロデューサーとしての顔も持つ非常にマルチな才能の持ち主ですね。
Earl Sweatshirtのアルバムに参加したことで大きく注目されるようになったんですが、Earlのサウンドとも通じるソウルやジャズをベースとしたメロウなグルーヴとゆったりとしたラップがとても心地良くて、個人的にかなりお気に入りのラッパーです。
今作は大手レーベル、Def Jamと契約してから初のアルバムで、楽曲のほとんどをプロデューサーのBudgie Beatsが手がけていて、レゲエやゴスペルなどの要素も取り入れたこれまで以上に幅広いサウンドに挑戦した作品になっています。
アルバムジャケットにもあるように今作は家族との関係が主な歌詞のテーマとなっていて、父や母から受けた影響や愛情、祖父や祖母からもらった言葉など、彼の人格を形成する上でとても大きな存在である家族との繋がりが、作品全体をどこか温かく優しいムードで包み込んでいます。
彼にとって色んな意味で新境地となった聴き応えのある作品です。

36. a.s.o. 「a.s.o.」

Buy/Stream

ベルリンベースのデュオ、a.s.o.のデビューアルバム。
Tornade Wallaceという名義でも活動しているLewie Dayと、女優として数々の映画などに出演しているAlia Seror-O'Neillの2人からなるユニットの彼ら。
PortisheadやCocteau Twins、Julee Cruiseを由来としたようなダウナーで妖しげなトリップホップ〜ドリームポップサウンドがとにかくクールで、夜に落ちていくような没入感が味わえる非常に魅惑的な作品でしたね。
90sのミステリアスな空気を纏ったような耽美な響きも、アンニュイなヴォーカルもどこかひんやりとした心地良さ。
ここ最近、こういったいわゆるトリップホップと形容されるようなダウンテンポなサウンドが増えてきているような印象で、つい先日リリースされたDoja Catの新曲「Attention」やChristine and the Queensの新作でもトリップホップが取り入れられていましたね。
新たなムーヴメントになるのかどうかはさておき、90s特有のインダストリアルな空気感を現代風にアップデートさせた今作のような作品が出てきたことは、その頃の音楽のファンとして非常に嬉しかったです。

35. patten 「Mirage FM」

Buy/Stream

ロンドンベースのアーティスト、pattenことDamien Roachの新作アルバム。
作品のビジュアルイメージのデザインなども自ら行ない、これまでもとても風変わりな音楽を作ってきた研究者のような佇まいの彼ですが、今作はそのユニークさにさらに拍車がかかった未体験のサウンドが堪能出来る作品でしたね。
今作で彼は入力した文章を音声化するAIシステムを使い、その音源を切り刻み、重ね、加工し、組み立てるという斬新な手法で完成した一枚。
例えば「楽しい」と入力すると、「楽しい」を元に画像を生成し、それを音に変換するという仕組みなんだそう。
それを何度も繰り返し、膨大な時間をかけて生み出された今作は、ヴェイパーウェイヴを再解釈したような、近未来感とノスタルジーが入り混じった何とも奇妙な響きで、曲によってはハウスだし、AORっぽくもあるし、ヒップホップのようでもあるし、本当に摩訶不思議なサウンドなんですよね。
音楽の未知の可能性を提示したかのような、時代の何歩も先を進んでいる新感覚の作品です。

34. Fever Ray 「Radical Romantics」

Buy/Stream

スウェーデン出身のKarin Dreijerによるプロジェクト、Fever Rayの通算3作目となる新作アルバム。
実弟のOlofとのユニット、The Knifeとして2000年代から活動を始め、カルト的な人気を博した彼女。
The Knifeとしての作品は2013年リリースの「Shaking the Habitual」が最後となっていますが、今作はOlofがプロデューサーとして何曲かで参加していて、アルバムには他にもNine Inch NailsのTrent ReznorとAtticus RossやVesselなどのクセモノが制作に参加しています。
ダンスホールのリズムや民族音楽のテイストを取り入れた奇妙なエレクトロサウンドは非常に妖しげで、どこか儀式っぽい神聖な質感も感じるような不思議な響き。
Karinの歌声は時に可愛らしい女の子のようでもあり、時に感情を殺した老人のようでもあって、声のトーンだけでなく性別すらもコントロールして使い分けている感じなんですよね。
ジャンルやカテゴリーという枠組みに囚われず、サウンド面でもビジュアル面でも唯一無二の個性を放っているFever Rayの、最新の進化の形が示された傑作アルバムです。  

33. Asake 「Work Of Art」

Buy/Stream

ナイジェリア出身のSSW、Asakeのセカンドアルバム。
去年リリースのデビューアルバム「Mr. Money With The Vibe」がアメリカやイギリスのチャートにもランクインするなど、一気に注目度を高めたAsakeから早くも届けられた2作目のアルバムは、前作の勢いをさらに加速させるような素晴らしい完成度の作品でした。
ナイジェリア発で今や世界的な音楽となったアフロビーツを軸に、南アフリカ生まれのハウスミュージックの亜種、アマピアノやKwaito、ヨルバの民族音楽であるフジなどのサウンドをミックスした、アフリカ大陸を飛び回るかのような自由なダンスミュージック。
今や様々なアーティストが取り入れているアフロビーツサウンドですが、Asakeのリズム感覚やヴォーカルの乗せ方は本当に独特で、気分を高めてくれる心地良いグルーヴ感を生み出しています。
前作はアルバムを通して楽曲がシームレスに繋がったDJミックスのような質感が特徴的でしたが、今作も前作ほどではないものの、アルバムトータルでコーディネートされた一体感があるんですよね。
数多くのスターが生まれているアフリカの音楽シーンの中でも、彼が頭一つ抜き出た才能の持ち主だという事を見事に証明した1枚です。

32. Avalon Emerson 「& the Charm」

Buy/Stream

LAベースのDJ/プロデューサー、Avalon Emersonのデビューアルバム。
元々とてもレフトフィールドなテクノ・ダンスミュージックを作っていた人なんですが、今作は初めて自身の声にスポットライトを当てたポップサウンドに挑戦した作品で、アルバムタイトルにもある「the Charm」という別プロジェクトを始動させるという意味合いで制作された作品になっています。
Nilüfer YanyaやWestermanなどを手がけるプロデューサー、Bullionと手を組む事で彼女のポップセンスや才能が一気に花開いた印象で、今回初めて歌に向き合ったとは思えない見事なパフォーマンスでしたね。
エレクトロを軸にほんのりとシューゲイズ風味のドリームポップサウンドが、春の季節の空気と絶妙にマッチする感じでずっと聴いてましたね。
今作の影響源としてCocteau TwinsやThe Magnetic Fieldsを挙げていて、確かにその辺りのサウンドを意識して作られた感じがしました。
元々やっていた音楽と違うサウンドに挑戦した作品に昔からとても惹かれるんですが、今作もまさにそう。
そのアーティストが実はずっとやってみたかったけど心の奥底にしまっていたパーソナルな部分が垣間見える感じがして面白いなと思います。

31. Speakers Corner Quartet 「Further Out Than The Edge」

Buy/Stream

ロンドンベースの4人組ユニット、Speakers Corner Quartetのデビューアルバム。
フルートのBiscuit、ドラムとパーカッションのKwake Bass、バイオリンのRaven Bush、ベースのPeter Bennieの4人からなる彼らは、ロンドンの音楽シーンを中心に数多くの作品にミュージシャンとして参加してきた、アーティスト側からの信頼も厚い凄腕演奏家ユニット。
今作の参加アーティストはSamphaやTirzah、Coby Sey、Kelsey Lu、Kae Tempest、さらにはMica LeviやShabaka Hutchings、Joe Armon-Jones、Léa Sen、James Massiah、LEILAHなど本当に豪華なメンツ。
ジャズやヒップホップ、R&Bがブレンドされた、ここ数年のロンドンのアンダーグラウンドシーンの空気をリアルにパッケージングした見事な完成度の作品で、参加ゲストの個性やカラーを完璧に理解し、それを活かしたサウンドメイクをしてるのが流石でしたね。
今作を聴いて気になったアーティストの作品をチェックするという楽しみ方も出来ると思うし、様々な人やコミュニティを繋ぐハブのような作品としても素晴らしい完成度の作品でした。

30. Killer Mike 「MICHAEL」

Buy/Stream

アトランタ出身のラッパー、Killer Mikeの通算6作目となる新作アルバム。
El-Pとのユニット、Run the Jewelsとしての活動がメインとなっていた彼の、実に11年振りとなるソロ名義でのアルバムは、OutKast〜Goodie Mob〜Future〜Young Thugなどが繋いできたアトランタを中心とするサウスのラップシーンが、いかにクリエイティヴだったかを改めて認識させられる圧巻の完成度でした。
今や多くのラッパーを輩出している南部ヒップホップの聖地となったアトランタの礎を築いたユニット、Dungeon Family。
OutKastやそのプロダクションチームのOrganized Noizeを中心とした集団で、Killer Mikeも一員の1人として活躍していましたが、今作はその頃の空気感を感じるというか、参加ゲストも含めて良い意味でのファミリー感や仲間うち感が出てるなという印象でしたね。
ゴスペルやブルース、ソウルといったアメリカ南部発祥の音楽のテイストを取り入れたサウンドも、亡くなった母親や祖母、さらにはアメリカ社会に対する思いなどを綴ったリリックも、彼をこれまで形成してきた様々な要素がパーソナルな形で表現された、非常に聴き応えのある作品でした。

29. Daniel Caesar 「NEVER ENOUGH」

Buy/Stream

カナダ出身のSSW、Daniel Caesarの通算3作目となる新作アルバム。
愛や孤独について歌った内省的なトーンのヴォーカル、心が洗われるような美しいメロディー、派手さを抑えたメロウなムードのR&Bサウンド。
その全てがハイクオリティな見事な完成度の作品でしたね。
今作は世界の様々な街を旅しながら制作した作品なんだそうで、ゲストも含めて色々なエッセンスがほのかに香る程度で加えられてる感じが好きでした。
客演にはTy Dolla $ignやMustafa、serpentwithfeet、Omar Apollo、そしてChronixxやSabrina Claudioがコーラスで参加してます。
さらに制作陣にはMark RonsonやBADBADNOTGOODの他、Raphael Saadiqやその甥っ子のSir Dylanが中心となり、甘美なサウンドへと仕上げています。
彼のこれまでの作品と比べてもサウンドの方向性は大きくは変わらず、多くのファンが彼に求めている音をそのまま形にしてくれた感じが自分的には好印象でした。
聴けば聴く程に愛着が湧いてくるような、忙しい日常の中でホッとひと息つけるオアシスのような一枚です。

28. Maxo 「Even God Has A Sense Of Humor」

Buy/Stream

LAベースのラッパー、Maxoの新作アルバム。
彼はEarl Sweatshirtの楽曲にも参加した経験のあるラッパーで、近年のアブストラクトなヒップホップの流れの中でも個人的にかなり注目していた存在でした。
自身が抱えるトラウマや、いまだに解決しない人種差別に対する思いなど、シリアスなテーマを扱いながらも、ユーモラスな表現を交えてラップするスタイルが魅力的なんですよね。
楽曲のプロデュースにはMadlibやKarriem Riggins、Mount KimbieのDom Makerといったそれぞれ自分の色を持った個性的なプロデューサーを招いていて、生のスネアドラム特有の揺れとかズレを感じるビートが効いたジャジーでソウルフルなサウンドがめちゃくちゃカッコよかったです。
盟友のPink Siifuはもちろん、Liv.eやKeiyaAというこの界隈の中でもとりわけ才能のあるシンガー2人をゲストに迎えていて、そのあたりのチョイスも色々と分かってる人のセンスですよね。
現在のUSラップシーンの面白さが凝縮したような、非常に聴き応えのある作品です。

27. Mandy, Indiana 「i’ve seen a way」

Buy/Stream

イギリスはマンチェスターベースの4人組バンド、Mandy, Indianaのデビューアルバム。
ここ数年で出会った新人バンドの中でもトップクラスで衝撃を受けましたね。
不穏な空気漂うポストパンクとインダストリアルなテクノサウンドがミックスした実験的な響きは異常なまでにクールで、緊張感にも近い張り詰めた空気感は、聴いててゾクゾクするというか、非常にスリリングな体験を味わっているような感覚でした。
工場や洞窟、地下室、ショッピングセンターなど、様々な場所から採取したノイズや環境音をサウンドに取り入れていて、それがまた怪しさをより増長させてる感じ。
ヴォーカルのValentine Caulfieldはフランス生まれで、彼女の歌はほとんどがフランス語で歌われていて、その独特の響きが今作をよりミステリアスな雰囲気にしているんですよね。
想定してた以上にダンスミュージックとしての要素が強いというか、ライブで観客が頭を振って踊り狂ってる光景が目に浮かぶようなサウンドになってるのが個人的には意外でした。
様々な仕掛けが施された予測不能のダンジョンの中を彷徨っているかのような、危なっかしい魅力が詰まった1枚です。

26. Water From Your Eyes 「Everyone’s Crushed」

Buy/Stream

ニューヨークベースのNate Amos、Rachel Brownによるデュオ、Water From Your Eyesの通算5作目となる新作アルバム。
前作の「Structure」が音楽好きの間で話題となり一気に注目度を高めた彼ら。
今作は名門レーベル、Matadorに移籍してから初のアルバムで、彼らの自由な発想から繰り出される摩訶不思議なポップサウンドにさらに磨きがかかった作品に仕上がっています。
ざらついた質感のジャンキーなギター、トリッキーに動き回るドラムとベース、多彩な色使いで奇抜な模様を描くシンセ、クールかつキュートなヴォーカル。
様々な響きが雑多に混ざり合ったカオスな質感のポップサウンドは、やりたい放題やってるように見えて意外と統率が取れているというか、不思議とごちゃつかず統一感があるんですよね。
個人的には去年心を掴まれたJockstrapのサウンドと近い印象で、彼らに共通してるのはジャンルやカテゴリーを意識していない自由な音でありながら、そこにしっかりとしたビジョンというか彼らなりの美学があるところだなと思いますね。
新しい感覚と発想を持った2人の音を使ったハイレベルな遊びが堪能出来る1枚です。

25. B. Cool-Aid 「Leather Blvd.」

Buy/Stream

ビートメイカーのAhwleeとラッパーのPink Siifuによるユニット、B. Cool-Aidの新作アルバム。
先程挙げたNavy BlueやMaxoも含めて、近年のUSのラップシーンの充実ぶりは本当に凄いなと思うんですが、多くの作品やアーティストが数珠繋ぎになっているのもポイントで、そのコミュニティの中心にいるのがこの2人ですね。
アブストラクトなヒップホップとネオソウルの中間のちょうど1番心地良いポイントを的確に捉えた今作には、彼らの仲間が数多く参加しています。
Liv.eやFousheé、Jimetta Rose、Quelle Chris、 Digable PlanetsのLadybug Meccaなどの客演に加えて、Navy BlueやMndsgnがプロデューサーとして携わっていて、仲間が集まって楽しみながら音楽を作った様子が楽曲から伝わってくるような、とてもリラックスしたムードが作品全体を包み込んでいます。
「Brandy, Aaliyah」という曲があるように、どこかノスタルジックな90sの空気感を感じるところも好みでしたね。
家の中でゆっくり過ごす時に流すのに最適なメロウでチルなサウンドは、今年一年を通してずっと聴くことになりそうです。

24. Jam City 「Jam City Presents EFM」

Buy/Stream

UKのプロデューサー、Jam CityことJack Lathamの新作アルバム。
これまでKelelaやOlivia Rodrigo、さらにはLil Yachtyなど様々なアーティストの楽曲をプロデュースしてきた奇才であり、彼自身も2作のアルバムを発表してきたJam City。
今作は彼が10代の頃から抱き続けてきたハウスやテクノなどのクラブミュージックへの憧れをストレートに形にした作品で、様々なタイプのダンスミュージックが詰め込まれたプレイリスト・ミックステープのような質感をしています。
Jai Paul以降のリズム・音選びの感覚で鳴らしたような、独特のポップセンスを感じるサウンドがとにかくクール!
ほとんどの楽曲にゲストヴォーカルを迎えていて、Empress OfやWet、Aidan、Clara La Sanといったシンガーから、ハードコアパンクバンド、Show Me the BodyのJulian Cashwan Prattという意外なセレクトも含めてセンス溢れる人選ですよね。
Omar Sをサンプリングしたデトロイトハウス調の楽曲や、ハードなグリッチ、軽やかなテクノポップなど、実に様々なテイストのサウンドが一堂に会した、聴いてて飽きのこない作品でした。

23. Matty 「EIS O HOMEM」

Buy/Stream

BADBADNOTGOODの元メンバー、Matthew Tavaresによるソロプロジェクト、Mattyの新作アルバム。
これまでソロでリリースしてきた作品は、メロウな質感のAOR風味なベッドルームポップという感じで自分も気に入ってよく聴いてたんだけど、今作はマジで別人レベルで作風が変わっててビックリしましたね。
ジャズ・サイケ・ロック・民族音楽・ダンスミュージックをボーダレスに行き交う自由極まりないサウンドは、これまでに体験した事のないような新感覚の響き。
旅をテーマにした作品なんだそうで、確かに様々な地域のサウンドが混ざり合ったような響きをしてますよね。
歌モノが多かったこれまでの作品とは違いほとんどがインストで、そのあたりも旅情をかき立てるというか、旅の最中や移動中にBGMとして聴くのにピッタリなサウンドだなと思いました。
ちなみに、MattyのパートナーでもあるAmanda Hicksによるソロプロジェクト、Mandaworldのデビューアルバム「For Emotional Use Only」もMattyがプロデュースしていて、ドリーミーなエレクトロポップサウンドがとても良かったので、気になる方はそちらもぜひチェックしてみてください。

22. Christine and the Queens 「PARANOÏA, ANGELS, TRUE LOVE」

Buy/Stream

フランス出身のアーティスト、Christine and the Queensの通算4作目となる新作アルバム。  
今作は前作に引き続きオペラをモチーフにした作品となっていて、1980年代のニューヨークでAIDSに冒された同性愛者の人間模様を描いた「Angels in America」という戯曲にインスパイアされて制作されたんだそう。
戯曲の舞台を思わせる3幕構成のスケール感、ジャンルを縦横無尽に行き交うサウンドの臨場感、共同プロデューサーのMike Deanによる凶悪なまでの重低音の迫力、強さと弱さが混在した歌声と言葉の説得力。
何もかもが圧倒的。そしてこれまでと全く異なる重厚感のあるサウンド。
正直最初に聴いた時は戸惑ったというか、キレ味のあるエネルギッシュなダンスポップの印象が強かったので、これ程までにダークな作風を受け入れるには中々の時間を要しましたね。
ただChrisが今作に込めた思いの強さや気迫みたいなものが作品や楽曲からヒシヒシと伝わってきて、聴き込んでいくうちにどんどん惹かれていきました。
友人の070 Shake、さらにはMadonnaの力を借り、作品の持つ意味をより深く説得力のあるものにしているのも聴きどころですね。

21. Yves Tumor 「Praise a Lord Who Chews but Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)」

Buy/Stream

マイアミ出身のSean Lee Bowieによるプロジェクト、Yves Tumorの通算5作目となる新作アルバム。前作アルバム・EPを経て彼の中で飼い慣らした70sサイケロック〜グラムロックへの情熱をよりソリッドなものにしたアルバムという印象で、近年取り組んできたロック路線の一つの到達点とも言える素晴らしい完成度の作品でした。
今作はKanye WestやRosalíaなどを手掛けてきたNoah Goldsteinをプロデューサーに迎えたのもポイントで、禍々しい歪みの中にも耳馴染みの良いポップな質感が忍ばせてある感じが非常にセンスを感じましたね。
制作にはその他、Frank OceanのCoachellaのステージにも出演していたDaniel AgedやSir Dylan、さらにはJohn Carroll Kirbyというソウル/R&B界隈の重要人物も参加していて、ただ単に激しいロックを鳴らしたいわけではなく、しっかり現行の感覚を取り入れながらアップデートしていくという彼の音楽への探究心が垣間見れますよね。
強烈なインパクトのビジュアルも含めて、自らのキャラクターやそのイメージを上手くコントロールしながら、サウンド面においてもその異物感や浮世離れ感を見事に表現してますよね。
今後どのように進化・変化していくのかが益々楽しみになる1枚です。

20. JPEGMAFIA & Danny Brown 「SCARING THE HOES」

Buy/Stream

ボルチモア出身のラッパー、JPEGMAFIAとデトロイト出身のラッパー、Danny Brownのコラボアルバム。
共に非常にクセの強いラッパー2人の共演ということで、只事では済まないだろうなとは思ってましたが、蓋を開けてみると予想していた以上にヤバすぎるアルバムに仕上がってましたね。
P. DiddyやKelis、*NSYNC、さらには坂本真綾、80年代の日本の古いテレビCMまで、インターネット上に無数に転がる様々な音源をテキトーに漁り、それを狂気じみた凶悪なビートに変えてしまう発想力はもはや異常と言っていいレベル!
ヒップホップという文化に制約や限界は無いんだなと改めて思い知らされるような、他のアーティストの作品では絶対に耳にしないであろう完全にオリジナルのサウンド。
そこに声質もフロウも言葉のチョイスも異なる2人のラップが縦横無尽に行き交うという、まさにカオスな仕上がりの今作は、聴いていてストレス解消になるというか、多少の嫌な事なんて頭から消え去っていくような痛快さがあるんですよね。
音楽というおもちゃでやりたい放題遊びまくり無法地帯化したヤバすぎる1枚です。

19. Kali Uchis 「Red Moon In Venus」

Buy/Stream

コロンビア出身のSSW、Kali Uchisの通算3作目となる新作アルバム。
サイケポップやアフロポップを差し色として取り入れながら、甘美で官能的な70sソウルを正統に継承したようなスローテンポなR&Bサウンドがとにかく美しい…。
全体的にBarry Whiteを思わせるアダルトなムードで統一されていて、彼女のヴォーカルも含めて女性にしか醸し出せない色気や妖艶さが作品全体から溢れ出してる感じ。
「Endlessly」はThe Internetみたいだし、「Blue」はSadeが歌っても違和感ないくらいだし、「Moral Conscience」はTame Impalaのようなトリップ感があるし、楽曲のテイストに幅があって全然飽きない作りなのが見事なんですよね。
前作は全編スペイン語で歌われていましたが、今作は英語とスペイン語が使い分けられていて、その響きのコントラストも魅力的でした。
妖しげな輝きを放つ赤い月をタイトルに冠した今作は、タイムレスでロマンティックなサウンドを意識して制作した作品なんだそうで、彼女曰く今作とはコンセプトが異なる作品がもう1つ既に完成していて、それが今年中にリリース予定だというんだから驚きですよね。
聴くたびにうっとりしてしまう、彼女のセクシーな魅力が充満した1枚です。

18. Lana Del Rey 「Did you know that there's a tunnel under Ocean Blvd」

Buy/Stream

ニューヨーク出身のSSW、Lana Del Reyの通算9作目となる新作アルバム。
驚異的なペースで傑作アルバムを生み出し続けているLana Del Reyの最新作は、レギュラーコラボレーターのJack Antonoffなどがプロデューサーとして参加していて、その他Jon BatisteやFather John Misty、Tommy Genesisなど多彩な顔触れがゲスト参加した作品となっています。
古き良きアメリカンカルチャーを下敷きにした文学的な心情描写と、そこにピリッと皮肉のスパイスを効かせナチュラルに物議を醸していく感じがまさに彼女のスタイルで最高にクールですよね。
作品全体が終始映画音楽のような優雅なムードで統一されているんだけど、時折顔を出すトラップビートが程良いアクセントになってて、このバランス感覚はホント唯一無二ですね。
初期と比べると彼女の歌声もかなり表情豊かになったというか、様々な質感のヴォーカルを使い分けながら世界観を構築していく感じが素晴らしかったです。
この人の作る音楽を聴く事でしか味わえない感覚が間違いなく存在すると改めて思わされた1枚です。

17. Blondshell 「Blondshell」

Buy/Stream

LAベースのSSW、BlondshellことSabrina Teitelbaumのデビューアルバム。
これは全インディーロック好きが虜になってしまうと断言出来るレベルで最高な1枚でしたね。
90sオルタナロック・グランジ由来のざらついたギターの響き、感情表現豊かなヴォーカル、ロック好きのツボを心得たメロディーセンス。
自分がSSWに求めるものを全て持ってると言っても過言ではない程に心を掴まれました。
彼女は今作の制作中90年代の音楽を集中的に聴いていたそうで、中でも女性SSWの作品に大きくインスパイアされたと語っていました。
Sheryl CrowやAlanis Morissette、Liz Phairなど、90年代は数多くの自立した女性SSWが傑作を生み出していましたが、そんな先人達に触発されるように彼女も怒りや悲しみを正直に歌詞にしています。
彼女の声は感情が乗りやすいというか、伝えたいメッセージや真意をリスナーに生々しく届ける力があるんですよね。
数年後にはアメリカを代表するSSWになっているポテンシャルを感じる、素晴らしい完成度のデビュー作品でした。

16. Overmono 「Good Lies」

Buy/Stream

イギリスのウェールズ出身のデュオ、Overmonoのデビューアルバム。
彼らはTesselaとTrussとしてそれぞれがDJ活動をしているEd RussellとTom Russellの実の兄弟ユニットで、これまでEPやシングル、Joy Orbisonとのコラボ作など非常に精力的に作品を発表してきていましたが、フルアルバムとしては今作が初めてということで個人的にもかなり待望の1枚でした。
UKガラージ〜2ステップをベースにしたアグレッシヴなブレイクビーツでありながら、TirzahやSmerz、slowthaiなどのヴォーカルをふんだんに散りばめる事で耳馴染みの良いマイルドな質感も兼ね備えていて、ハードさとポップさのバランスが見事な作品に仕上がっていましたね。
彼らが意識したのは車の中で聴いた時に良い音楽かどうかというところだったそうで、フロア受けするクラブチューン一辺倒なサウンドにはならないように心掛けていると語っていました。
こういったダンスミュージックはクラブやパーティーなどでどれだけ映えるかみたいな部分が重要視されがちな音楽ではありますが、実際は車や家の中だったりイヤホンで1人で楽しんでいる人も多いわけで、彼らのそういった感覚は実はとても大事なものなような気がします。

15. Gia Margaret 「Romantic Piano」

Buy/Stream

シカゴベースのSSW、Gia Margaretの通算3作目となる新作アルバム。
これ程までに美しい作品にはそうそうお目にかかれないというレベルで素晴らしい1枚でした。
ピアノを軸に極力無駄な音を排除した静謐なアンビエントサウンドは、人の体温や風の揺れ、空気の匂いまでも感じ取れるような生々しい質感をしていて、ミシガンやワシントン、イリノイなどで行なったフィールドレコーディングで採取した自然の音が実際に使われているんだそう。
Erik SatieやDuval Timothyにも通じるような、音と音の隙間や余白を残したサウンドメイクが魅力的なんですよね。
彼女は今作の楽曲を初心者という意識で書いたそうで、ピアノの知識や技術を一旦忘れた状態で曲作りをしたらどんな音になるのかというのを試してみたかったと語っていました。
一時期病気が原因で声が出なくなってしまい、そこからヴォーカル無しのインストゥルメンタルの楽曲を本格的に作るようになったらしいんですが、今作では「City Song」という曲で久々に歌声も披露していて、その柔らかな響きも非常に心地良かったです。

14. bar italia 「Tracey Denim」

Buy/Stream

ロンドンベースの3人組バンド、bar italiaの通算3作目となる新作アルバム。
今作は名門レーベルのMatadorに移籍してから初のアルバムで、最初にそれを聞いた時は変に洗練されてしまわないか不安な所もあったんだけど全くの杞憂でしたね。
Joy Division、The Cure〜King Krule、Dean Bluntまでを繋ぐ、UKポストパンク・ロックの2023年時点での最適解と言える見事な完成度!
ロンドンの気候のようなモヤっとした陰鬱なムードが立ち込めるローファイなサウンドも、どこか飄々とした佇まいも全てがたまらなく好きです。 
彼らは男性メンバーのJezmi Tarik FehmiとSam FentonがDouble Virgoとして昨年VegynプロデュースのEPをリリースしてたり、紅一点のNina CristanteがNINA名義でDean Bluntのレーベルからアルバムをリリースしてたり、それぞれが別プロジェクトでも才能を発揮していて、3人が集まることでそれぞれで得た経験が見事にアウトプットされてますよね。
ちなみに彼らが今作をリリースした時に、Instagramのアカウントであるバンドをタグ付けしていて、個人的にはそれが何を意味してるのかがずっと気になってます。
Eternaというスペインのバンドみたいなんですが、聴いてみたらbar italiaとも通じるサウンドで面白かったです。
気になる方はぜひそちらのバンドもチェックしてみてはいかがでしょうか。

13. Janelle Monáe 「The Age of Pleasure」

Buy/Stream

カンザスシティ出身のSSW、Janelle Monáeの通算4作目となる新作アルバム。
これまでの作品はどこか人工的というか、近未来やアンドロイドなどのフューチャリスティックなコンセプトのアルバムでしたが、今作はグッと人間味が増した野生味のある作風となっています。
レゲエ・アフロビーツ・ソウルが官能的に混ざり合ったレイドバックなサウンドで、自由や悦楽をトロピカルかつ開放的に表現していて、ビデオやビジュアル、歌詞共にかなりセクシャルな表現が多いのが印象的でしたね。
AmaaraeやCKay、Doechiiといった若手から、Grace JonesやSister Nancyなどのレジェンドアーティスト、さらにはFela Kutiを父に持つSeun Kutiまで幅広いメンツをゲストに迎えていて、ゲストの登場時間は決して多くはないものの、それぞれの持つ個性を活かし楽曲に効果的に意味を持たせている感じが見事でした。
オールドスクールなルーツレゲエをサンプリングした曲など、これからの暑い季節にピッタリな極上のグルーヴが堪能出来る楽曲が満載で、今年の夏はこのアルバムを聴く機会がとても多そうな気がしてます。

12. King Krule 「Space Heavy」

Buy/Stream

サウスロンドン出身のSSW、King Kruleの通算5作目となる新作アルバム。
16歳で衝撃のデビューを飾った彼も28歳となり、4年前には娘さんが誕生し父親にもなり、月日の流れの早さを感じますが、今作はそんな彼のこれまでの作品の良さを凝縮したような、様々な経験が活かされた円熟味すら感じる1枚となっています。
夢と現実の狭間を漂っているような、孤独や闇を鳴らしてきた彼なりの子守歌のような。
家庭を持ち子育てをしながら穏やかに暮らしている事が垣間見えるような、これまでで最も優しい響きな気がしますね。
今作はロンドンとリバプールを行き来しながら制作された作品で、ロンドンにある母親の実家のバスルームをレコーディングスペースとして改築し使用していたんだそう。
そのあたりのリラックスした空気感もサウンドに表れているような気がしますね。
近年TirzahやNilüfer Yanya、bar italiaなど彼に影響を受けた、もしくは彼と共鳴するアーティストが続々出てきましたが、やっぱりこの人のサウンドは特別ですね。
まさに唯一無二です。

11. Yaeji 「With A Hammer」

Buy/Stream

韓国をルーツに持ち現在はニューヨークを拠点に活動しているDJ/SSW、Yaejiのデビューアルバム。
これまでリリースしてきたEPやミックステープて世界中の音楽好きを虜にしてきたYaejiの初となるフルレングスのアルバム作品は、ニューヨーク、ロンドン、ソウルの3ヶ所で制作されました。
それぞれの都市のカラーやトレンドを少しずつ取り入れ、ドラムンベースやトリップホップにまで接近したアグレッシヴなビートはキレ味抜群で、これまで以上に多彩なサウンドに挑戦してる印象でしたね。
英語と韓国語が入り混じる言葉のリズム感や、キュートでユニークな声も含めてどこを切ってもオリジナルな響きですよね。
今作は怒りをテーマにした作品となっていて、これまで経験してきた過去の体験やずっと頭の中にあり続けている思いなど、彼女の中に蓄積してきた怒りの感情がハンマーとなり表出し、それを叩き壊し新たな未来を創造していくという意味が込められているんだそう。
先程紹介したNourished by TimeやLoraine James、K Wata、Enayetといった世界各地のクセモノビートメイカーを客演に招いていて、彼らとの化学反応もまた聴きどころでした。

10. boygenius 「the record」

Buy/Stream

Julien Baker、Phoebe Bridgers、Lucy Dacusという現在のアメリカの音楽シーンを代表するSSW3人によるユニット、boygeniusのデビューアルバム。
SZAやThe Nationalなど数多くのアーティストの作品にゲスト参加し、今その声が最も求められているSSW、Phoebe Bridgersを含めて、それぞれが独自の世界観を持ったSSW3名の共演という何とも豪華な1枚。
それぞれが異なる個性を持ち寄り、3人で集まり歌うからこそ生まれるハーモニーや空気感を大切にして作られた至福のフォーク・ロックサウンド。
タイトル通りレコードのA面B面を意識した楽曲の配置や、どこかほっこりと落ち着くアナログな質感の響きに心癒されます。
悲しみも怒りも過去のあれこれも、それぞれが抱える問題や感情を曲にしてそれを3人で歌う事でスッキリと洗い流しているような、心を浄化してくれる美しさがありますよね。
3人全員が曲を書けるので、誰が原曲を書いたのかを感じ取りながら聴くのも面白かったです。
ゆったりとしたフォークもパワフルなロックも、3人が終始リラックスしたムードで制作していたのが伝わってくるような、アットホームな質感があるんですよね。
今年最も心と体を癒してくれる作品になるでしょう。

9. Kara Jackson 「Why Does the Earth Give Us People to Love?」

Buy/Stream

シカゴベースのSSW、Kara Jacksonのデビューアルバム。
詩集を発表するなど詩人としての活動も精力的に行なっている彼女の音楽作品としてのデビュー作は、彼女の音楽家としての魅力が存分に詰まった素晴らしい完成度の作品でした。
自身の心情や経験を文学的かつシニカルに描写した歌詞、フォーク・カントリー・ソウルが交錯したのどかなサウンド、ブルージーでスモーキーな味わいのヴォーカル。
そのどれもが味わい深い、ゆったりとした時間が流れる至福の響き…。
Nina SimoneやBeyoncé、Neil Young、Brandyなどの言葉から影響を受けたと語っていて、ロックやラップと同じように黒人が発展させてきた歴史を持つフォークやカントリーに惹かれて今のサウンドやスタイルになったんだそうです。
今作では彼女自身の他にNNAMDÏやSen Morimoto、KAINAといったシカゴを拠点に活動してる友人が制作に参加してて、そこも聴きどころでしたね。
直接的というよりは、彼らのサウンドの色がちょっとずつ垣間見える感じが面白かったです。 
デビュー作品にして既に名盤のオーラを放つ1枚です。

8. Amaarae 「Fountain Baby」

Buy/Stream

ガーナをルーツに持つSSW、Amaaraeのセカンドアルバム。
2020年リリースのデビュー作「THE ANGEL YOU DON’T KNOW」で新しいスタイルのアフロポップを提示し、一躍注目される存在となった彼女の2作目のアルバムは、その方向性をよりスケールアップしつつ幅広い層にアピール出来るポップさが増した、非常に良く出来た作品でしたね。
肉感的かつ魅惑的なアフロポップと、The NeptunesやTimbalandが実権を握っていた2000sのポップ/R&Bを品良くミックスしたような、自分からすると懐かしい感覚も味わえるサウンドが面白かったです。
ちなみに今作はJanet JacksonやBritney Spears、Missy Elliottを参考にして作り上げたんだそうですよ。
Erika de CasierやRavyn Lenaeとも通じるクールでキュートなヴォーカルも魅力的。
The Naptunes制作の中近東テイストのビートがクセになるClipseの「Wamp Wamp (What It Do)」をサンプリングした「Counterfeit」や、日本語や和楽器の音色が使われた「Wasted Eyes」、曲の途中から突然ポップパンク化する「Sex, Violence, Suicide」など、楽曲のベクトルも様々な非常に幅広いサウンドを展開させていて、何度聴いても飽きのこない仕上がりでした。

7. Liv.e 「Girl In The Half Pearl」

Buy/Stream

ダラス出身で現在LAベースのSSW、Liv.eのセカンドアルバム。
デビューアルバムリリース前から彼女のことは追いかけてきたんだけど、体感では今作で完全にブレイクした感覚で個人的にとても嬉しいですね。
ジャズやソウル、ヒップホップをドロドロに煮溶かしたようなアブストラクトなグルーヴが心地良かった前作から、今作はドラムンベースをはじめとするブレイクビーツの要素を強め、かなりアグレッシヴに飛躍したサウンドへと進化を挙げていました。
彼女自身の他、MNDSGNやJohn Carroll Kirby、Justin Raisenなどがプロデューサーとして参加していて、様々な方向へとクロスオーバーしたレンジの広いサウンドを展開しています。
今作の影響源として彼女が挙げていたのが、子供の頃に遊んでいたテレビゲームやそこで使われていた音楽らしく、そこが非常に面白いなと思いましたね。
90年代後半から00年代前半のテレビゲームのサントラなどを聴くと、確かにジャングルやドラムンベースなどから影響を受けたサウンドのものが多いんですよね。
近年トレンドとなっているUKを発信源としたブレイクビーツとは異なるソースを持ちながら、サウンド的には同じベクトルにあるというのがとても興味深いです。
ちなみにですが、先日行なわれた来日公演を観る事が出来て、彼女とバンドのポテンシャルの高さにかなり驚かされましたね。
今作の変則的かつアグレッシヴなビートをバンド演奏で完全に再現していて、非常に観応えのあるライブでした。

6. Lil Yachty 「Let’s Start Here.」

Buy/Stream

アトランタ出身のラッパー、Lil Yachtyの通算5作目となる新作アルバム。
今年もあと半年を残すところまで来ましたが、よほどの事が無い限りこの作品を超える衝撃はこれから先もないでしょうね。
脱力系のトラップサウンドが持ち味だった彼の新作がまさかの全編サイケロック路線!
このアルバムのリアクションで1番よく目にしたの「Pink Floydみたい」でしたからね。
さすがにこれは誰も予想出来なかったんじゃないでしょうか。
オープニング曲の「the BLACK seminole.」のイントロでギターが鳴った瞬間の衝撃は今でも頭に焼き付いてます。
Yves TumorやTame Impalaにも通じる心地良さと不気味さの入り混じった浮遊感&トリップ感。
制作陣にはLiv.eの新作にも参加していたJustin RaisenやJam City、元CharliftのPatrick Wimberly、Unknown Mortal OrchestraのJacob Portrait、さらにはMac DeMarco、Alex G、Nick Hakim、Magdalena Bayなどの名前もあり、客演にはFousheéやDaniel Caesar、Diana Gordonなど、ジャンルを超越した圧巻のラインナップが集結しています。
Yachtyのオートチューン加工を駆使した歌声の響きもまた作品をよりカオスかつサイケデリックな質感にしてますよね。
これだけ大きな路線変更したので当然戸惑う人も多いと思うし、賛否両論あるのは彼も想定していたと思いますが、固定概念とか先入観とか色々とぶち壊すパワーやエネルギーに満ちていて個人的にはかなり刺さりました。

5. Wednesday 「Rat Saw God」

Buy/Stream

アッシュビルベースの5人組バンド、Wednesdayの通算5作目となる新作アルバム。
自分の中にあったロックへの枯渇感を一瞬で潤してくれるような、やっぱりロックってかっこいい音楽だなと改めて感じさせてくれた素晴らしい作品でしたね。
ソロ活動もしていて昨年リリースの「Boat Songs」も最高だったMJ Lendermanが奏でる荒々しく鳴り響くギターの轟音、繊細で時に感情を爆発させるヴォーカルのKarly Hartzmanの歌声。
ロックバンドとしての武器をいくつも持っていながら、これまでそれほど注目されることのなかった彼らの本気を見せられたというか、元々高かったポテンシャルが覚醒した瞬間がパッケージングされた圧巻の完成度でした。
自分達の音楽を「カントリー➕シューゲイズ🟰カントリーゲイズ」と称している通り、ただ激しいだけではなくペダルスティールの柔らかな音色を活かした穏やかなサウンドも表現出来るのが彼らの強みですよね。
聴きどころ満載なアルバムですが中でも「Bull Believer」の後半のKarlyの阿鼻叫喚とも言える悲痛な叫びは本当に圧倒されますよね。
聴き終えた後に残る胸のざわめきはBig Thiefを聴いた時のそれと似てるような。
彼らが今後益々凄いバンドになると確信した渾身の1作です。

4. billy woods & Kenny Segal 「Maps」

Buy/Stream

ニューヨークベースのラッパー、billy woodsとLAべのプロデューサー、Kenny Segalの2回目となるコラボアルバム。
昨年は「Aethiopes」と「Church」の2枚のアルバムをリリースするなど、ここ数年驚異的なペースで音楽を作り続けているbilly woods。
盟友のプロデューサー、Kenny Segalとは2019年に「Hiding Places」をリリースして以来2度目の共演。
Kennyの手がけるアングラな質感ながらどこか人の体温や生楽器のまろやかさを感じるジャジーなビートと、文学的で抽象的な表現のbillyのラップとの相性は当然のように抜群で、ここ数年のアブストラクトなヒップホップ作品の中でもトップレベルで完成度の高いアルバムに仕上がっています。
昨年リリースの2作品ではそれぞれPreservationとMessiah Musikをプロデューサーに迎えていましたが、毎作品異なるビートメイカーにも関わらずbillyの作品には統一感があるというか、トレンドに全く左右されない一貫した美学やプライドが滲み出てる感じがどの作品にもあるんですよね。
ここ数年で注目度の高まったbillyですが、実は2000年代前半から活動しているキャリア20年以上のベテランで、さらに自身のレーベル、Backwoodz Studiozの代表としての顔も持っていて、業界内でも彼のレーベル経営の手腕は高く評価されています。
だからこそ彼の周りには人が集まり、Danny BrownやQuelle Chris、Aesop Rockなど、今作に参加しているラッパーを含めて、アンダーグラウンドなヒップホップシーンの影のボスのような存在として彼を慕う人も多いんだと思います。
相棒的存在のELUCIDとのユニット、Armand Hammerとしてのアルバムも既に完成しているという情報もあり、今後も益々彼の動向から目が離せないです。

3. Caroline Polachek 「Desire, I Want To Turn Into You」

Buy/Stream

ニューヨークベースのSSW、Caroline Polachekのセカンドアルバム。
元Chairliftのメンバーであり、Ramona LisaやCEP名義でソロ作品も発表してきた彼女のCaroline Polachekとしての2作目のアルバムは、それはそれは凄まじく素晴らしい作品でした。
「Bunny Is A Rider」「Billions」「Sunset」「Welcome to My Island」と先行シングルがリリースされる度に、その完成度の高さにアルバムに対する期待も上がりまくってましたが、その期待を超える見事な作品を届けてくれましたね。
フラメンコ、トリップホップ、ケルト音楽、ブレイクビーツなど多様なサウンドを取り入れながら、多彩な歌声と巧みなソングライティングを駆使し作り上げた彼女にしか鳴らせない唯一無二のポップミュージック。
ソングライターとしてBeyoncéやCharli XCXなどと楽曲を共作してきた経験を持つ彼女ならではの豊富なアイデアから生み出されるメロディーやサウンドは、どこまでも自由で挑戦的でオリジナルな美しさを持っていますよね。
オペラの歌唱法を学んだという彼女のヴォーカルは、他アーティストの誰とも違う独特の響きを持っていて、今作のハイライトでもあるGrimesとDidoをフィーチャーした「Fly to You」では三者三様の異なる味わいの声を堪能する事が出来ます。
ポップミュージックの可能性をさらに拡大させるような今作は、2023年最も重要な一枚である事は間違いない上に、2020年代のポップ作品のターニングポイントになるような非常に大きな意味を持つ作品だと思います。

2. Kelela 「Raven」

Buy/Stream

エチオピアをルーツに持つワシントン出身のSSW、Kelelaのセカンドアルバム。
2017年リリースの前作「Take Me Apart」は個人的に2010年代で最もよく聴いた作品の一つで、そこから6年の月日を経てようやく届けられた今作は本当に待望のアルバムでした。
ジャングル〜ドラムンベースなクラブ・レイヴカルチャー由来のエッジィなサウンドプロダクション。フロアの熱を鎮めるアンビエント・R&Bと交錯するクールなヴォーカルの匂い立つ色気。
1人の黒人女性の内面が生々しく描かれた奥深い歌詞の世界観。
何もかもがハイレベルな、長い間待った甲斐のある圧巻の完成度でしたね。
ロンドンやベルリンなどのアンダーグラウンドなクラブシーンからインスパイアされたという今作は、見知らぬ人々がひしめき合うクラブ内のスリリングな高揚感や空気が見事に表現されてるなという印象。
年齢も人種も性別も性的指向も関係なく、多種多様な人を受け止めるクラブという海の中を自由に泳ぎ回るKelelaの歌声は、どこまでも伸びやかでひたすらに美しいです。
ブラック・クィアコミュニティーが作品の大きなインスパイア源という意味で、昨年リリースのBeyoncé「RENAISSANCE」とも共鳴する部分があるというか、併せて聴いてみるととても面白いかなと思います。
8月には5年振りとなる来日公演が決まっていて、今作の世界観を生で体感出来る機会が早くも訪れるということで今から本当にワクワクしてます。

1. Jessie Ware 「That! Feels Good!」

Buy/Stream

ロンドン出身のSSW、Jessie Wareの通算5作目となる新作アルバム。
というわけで2023年上半期の個人的なベストアルバムはJessie Wareの「That! Feels Good!」を選びました。
単純にこの半年で1番よく聴いたのがこのアルバムだったし、コロナ明け的なムードにようやくなってきた今の空気感やモードにこれ以上なく完璧にマッチした作品がこのアルバムだったのかなと思い1位に選んでみました。
2020年リリースの前作「What’s Your Pleasure?」で一気にダンサブルな路線に舵を切ったJessieですが、今作はそのベクトルをキープしたまま、よりエレガントでよりゴージャスにアップグレードしたような仕上がりになっています。
Diana RossやChic、Donna Summer、Chaka KhanからMadonna、Kylie Minogue、Beyoncé、Dua Lipa、Lizzo、なんならDaft Punkまで感じるような反則級の最強格ディスコ・ソウルサウンドは、どんなメンタルの時に聴いても気分を上げてくれるマジカルな響き。
現在38歳で3人のお子さんを持つ母親でもあるJessieですが、伸びやかでグラマラスな歌声はギアがかかったように益々魅力を増している上に、若手にはまだ表現出来ないような妖艶さや奥ゆかしさも兼ね備えていて、ヴォーカリストとして本当に凄いレベルに到達してるなという印象でしたね。
時代を超えて愛される、なんて表現で形容される作品は音楽に限らずたくさんありますが、このアルバムは間違いなく10年後も20年後も聴いてるでしょうね。
そう思うのは決して自分だけではないはずです。


というわかでいかがだったでしょうか?
2023年上半期の音楽シーンもとても面白い動きや傾向があって、後半にも期待してしまいますよね。
これからフジロックやサマーソニックなどの日本の音楽フェスで、自分が挙げたアーティストの生のパフォーマンスを観れる機会があって、そのタイム感がとても嬉しいというか、今年新作出したアーティストのライブをその年に観れるという感覚が久々な気がして、それにとてもワクワクしますね。 
 
ちょっと話は変わるんだけど、たまにhashimotosanは嫌いな、もしくは苦手な音楽はないの?なんて質問をされる事があります。 
あと年間「ワーストアルバム」も気になります!みたいなものも。
それは普通にプライベートな付き合いの中でも、SNSを通じてでも。
これ自分でもちょっと気になって考えたんですけど、嫌いかどうかは分からないけど苦手だなと思う音楽は全然ありますし、好きなアーティストの作品でもあまり気に入らなかった作品とかは普通にありますよね。
それに対して言及したりとか、言葉にする事はあまりないというだけで、全ての音楽が大好き!みたいなマインドではないんですよね。
作品を悪く言うのが得意ではないというのもありますが、正直言うと世の中には過去の作品も含めて素晴らしい音楽が無限のように存在しているわけで、苦手な・気に入らなかった作品を聴いてる時間がもったいないなと思ってしまうというのが強いのかなと思います。
苦手な作品の嫌いなところを考えてる時間があるなら好きな作品を聴く時間に使いたいし、ワーストアルバムを考えられる程その苦手な作品を聴き込んでないというのが自分の考え方なので、今後もそういった事を書いたりするつもりは今のところないですかね。
ただ、なんで苦手なんだろう?とか、どの部分が気に入らないんだろう?と考察するのはもしかしたらとても面白いのかもしれないなとも思うので、あり余る程の時間が作れるようになったらやってみたいなと思います。

今年後半もたくさんの素晴らしい音楽に出会えるといいなぁ。
毎年この時期そう思ってる気がしますが、今回も自分の「好き」を振り返って文章にすることで、自分がこの半年で感じた感覚を整理出来た感じがします。
最後まで読んで頂きありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?