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「優勝できたらええなぁ」から「優勝しよう」へ 明るさに潜むインディアンスの内燃

『M-1グランプリ2021』で、インディアンスが初のファイナルラウンド進出を果たした。3年連続の決勝進出で順調に順位を上げ続けている。2021年の2人の間にあったのは「楽しくゆるく」「優勝しよう」という両極端なテーマだった。明るさの裏側で密かに燃える炎の温度は高い。冬のロケ撮影も半袖で乗り切るほどに――!

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楽しくゆるくやれてるときがいちばんウケる

――掲載時には少し時間が経ってしまっていますが、やはり今回は『M-1グランプリ』の話を聞かせてください。2019年が9位、2020年が敗者復活から7位、今年が3位と順調に順位を上げてきていますね。

田渕:ラッキーです、これは。最初が順位低かった分、すごい頑張ってるように映るからラッキーです(笑)。9→7→3ときたら次は1っぽいですよねぇ、このへんで中途半端に5を出したくないですねぇ。


――この3年の間に、自分たちの中でネタの作り方だったりやり方だったり意識して変えた部分はあるんでしょうか?

きむ:テーマっていうんですかね、「楽しくゆるくやろうぜ」みたいなところが出てきたと思います。僕らの漫才がいちばんウケてるのは楽しくゆるくやれてるときだとはっきりわかったので、それを意識するようにはしました。いちばんいい形がどういうものなのか、自分たちでわかってきたからどんどん順位が上がっていったんじゃないかなと思います。

田渕:いちばん楽しくやれてたときって、ネタの作り方に無理がなかったんですよ。で、そのときがいちばんウケてた。あらためて「それが自分らに合ってんねんな」ってわかって、その頃に戻した感じです。

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――2019年あたりはそこがズレていた?

田渕:そのときも楽しかったんですけど、結果として若干いつもと違う感じにはなってもうたんですよね。

きむ:決勝の場にいるとやっぱり「勝ちたい」とか「優勝したい」って欲が出てくるんです。2019年は初めての決勝だったから特にそれがあって、しかもかまいたちさんが660点、ミルクボーイさんが681点出した後やったんで、焦りもあったんじゃないですかね。それで固くなってもうた。次の年は準決勝で落ちたので、半ば自暴自棄というか、「敗者復活は慣れてるネタでいいや」ってなったんです。いつも通りたぶっちゃんがアドリブを入れてくれてブワーッとやりながら時計で4分測って、時間が来たらオチ台詞っぽいこと言って終わろう、って。そしたらいつもの劇場みたいに楽しくできたし、それを多分視聴者の方もいいと思ってくれたんですよね。そのときに自分らのテーマが明確になりました。

田渕:みんなには「くだけすぎや」って言われましたけどね。でもそれで結果良かったんやったら全然オッケーちゃう?って思います。だから決勝の2本目でももっと遊べたらよかったです。テンション上がってまくしたてすぎて、ちょっともったいなかった。せっかく4分間やっていいんやし、「ここウケてる」と思ったらいっぱいしがんでみたり、もう一回同じようなことやってみたり、いろいろ乗っけても良かったな〜と後になって思いました。


「こねくり回してええことないなぁ」

――2020年敗者復活もそうですが、『M-1』のあの場でアドリブ入れていくコンビは珍しいですよね? みんな決勝に向けて一言一句突き詰めていくイメージが強いです。

田渕:僕らは普段の出番がアドリブ入れてやってるから、決勝でもそれをやるべきだし、やれたら勝てるんかなって思ってました。

きむ:2019年はギリギリまで詰めるやり方をしてみてたんですよ。「ここを新しいボケに変えよう」とかいろいろやった結果、本番でネタがぐじゃぐじゃになってしまって。僕らには合わなかったんですよね。


――田渕さんは2019年決勝でネタが飛んだと後日あちこちで語ってましたね。

田渕:はい。だからほんまに、こねくり回してええことないなぁと。

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――つまり、2019年の失敗と2020年の準決勝敗退という2回の挫折が重なったことで、逆に力を抜いて挑むようになったと。

きむ:ほんまにそうやと思います。その2つがなかったら決勝で「漫才うまいな」なんて言われなかったと思いますね。

田渕:過去2回はせっかく『M-1』の決勝出れてるのに結構あっけなく終わってしまった感じがあったんです。2021年は3回目にして初めて楽しめたし、2本目もできたし、過度な緊張もなかった。一気に何個もクリアできたんですよね。それがむっちゃうれしかったです。


――今年の2本は順番含めて早めに決めていたんですか?

田渕:2本に絞ってはいましたけど、どっちを先にやるかは当日決めました。その選択も間違わんかったなと思います。逆にしてもうてたら最終決戦いけてなかったんちゃうかな。

きむ:2本目のほうはウケはするけど評価が高いネタじゃないかなと思ってました。なので、点数がつけられない最終決戦であれば、ウケてしまえば札が上がるか上がらないかだけなのでそっちのほうがいいかなと。


――「ウケるけど評価されにくい」というのは今回の2本で比べるとどういう違いなんでしょう。

田渕:2本目はテーマがぼやけまくるんすよ。統一性がなさすぎて、「なんやったっけ?」って。

きむ:1本目の「心霊動画」はなんのネタをやってたかわかるじゃないですか。2本目は「サザエさんやったっけ?」「もう中さんも出てきたな」とか、筋が薄いんですよね。僕らはおもろいと思ってるんですけど。

田渕:とにかくウケるネタとして2本目はつくったので、そこを言われてしまうのはしゃあないんですよね。笑神籤で順番決めて2本やるあのシステム、すごいんですよ。いろんな要素があるから。今回の僕らみたいに1本目の出番が後半でファイナルのトップバッターやと、ネタの間が空かなくて「さっき見たヤツらがまた出てきた」って感じも出ちゃう。でも1本目の出番はその場にならないとわからないわけじゃないですか。

きむ:ギリ通過で2本目が強いっていうのが最高なんですけど、ギリ通過はむっちゃむずいしな。

田渕:だから結局、鬼みたいに強いネタが2本要るだけなんすよね。

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「俺、今年は熱いツイートせえへんわ」きむの宣言

――『M-1』に対する姿勢はいろいろあると思うんです。ゆにばーす川瀬さんやオズワルド伊藤さんのように、そこにかける熱い思いを自ら発信している人が身近にいるわけじゃないですか。でもインディアンスさんはあんまりそういうことをしない印象があります。

田渕:ほんまに趣味の問題やと思うんですよ。僕は表に発信せずに内側で勝手に燃えときたい。ヘラヘラしてて気づいたら結果出てるのがいっちゃんかっこええと思ってるんです。「こんなにやる気なんすよ」って誰かに伝えることに俺はあんま意味を感じないんですよ。ネタ見てもらえば「めっちゃ一生懸命やってきたんやろうな」ってことは伝わると思うから。あ、でもこれ言ってもうたらあかんな!?

きむ:「あえて言ってないんや」って思われるな(笑)。


――「いい話が聞けたな」と今思ってました(笑)。

田渕:なんかうまいことごまかしておいてください! でも、川瀬とか伊藤のビッグマウスは好きなんですよ。あいつらに合ってるじゃないですか。自分がそれをやるのは合ってないと思うんですよね。僕が意味深なこと言ってみたりめちゃくちゃ熱いツイートしてもうたりすると、観る人にいろんなことを考えさせてしまってもったいないことになりそうで。ネタへの影響を心配してまう部分があるんで、あんまりSNSとかでは言わんようにしてますね。

きむ:正直、僕はやりたいほうなんですけど、インディアンスに合わないなと思ってやめました。「楽しくゆるく」がテーマなのに、僕だけ「絶対優勝するぞ!」とか言うのはちゃうなって。ぎりぎりスマホで打つまではしますけど、消します(笑)。

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田渕:2021年はめっちゃ神妙な顔で「俺、ずっと毎年そういうツイートやってもうてたけど、今年からやめるわ」ってツイートせえへん宣言してきましたね。「なにそれ」と思いましたけど。でもどうせ『M-1』はみんな緊張感持って観てくれるんやから、その中でどれだけくだけられてるかっていうのをしたいですよね。「こいつらほんまに『M-1』の決勝やと思ってんのか」みたいな振る舞いできたもん勝ちみたいなところはあると思うんですよ。2021年はそれに近いことができたんで、これをもういっちょええ感じにできたら優勝なんかなと思います。

きむ:最終決戦でもいつも通りにできるようになるっていう課題が見えた感じですかね。半ば「どうでもいい」と思わんとあかんので、むずいんですけど。


「優勝しよう」足並みが完全に揃った2021年

――話を聞いていると、2人の中で「インディアンスとしてどうあるべきか」という共通認識が明確にあるんだなと感じます。それは話し合って生まれてきたものなのか、自然と形成されていったものなのか、どっちなんでしょうか。

きむ:10年くらい毎日ネタ合わせしてるんで、そのときにいろいろ話すんです。今思うと、そこでうまいことできていったのかもしれないですね。

田渕:うん。2021年に共通で思えたことでいうと、「優勝しよう」ってところがめっちゃくっきりしたんですよ。それまでは「優勝できたらええなぁ」くらいだったのが、「いや、優勝しよう」になった。そこで足並みがめっちゃ揃った気ぃします。ほんまに1年間、『M-1』のことしか考えてなかった。優勝だけを意識してやってきたから最終決戦までいけたんやろなぁと思うんですよね。2022年も早めから力みすぎずに、『M-1』のことは常に頭にあるけど楽しくネタつくってできたらまた年末にええ結果出るんちゃうかなって気がしてます。

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――「優勝しよう」と「楽しくゆるく」がテーマって、すごい両極端ですよね。

きむ:そうなんです、だからむずいんですよ。

田渕:でも僕らとしてはそれが直結してるんですよ。「楽しくゆるく」ができたら優勝で、優勝できてるってことは「楽しくゆるく」ができたってことなんで。

きむ:僕の中では、最終決戦までいくことを目指しながら、気持ちの上では「まぁどっちでもええやろ、楽しくやるだけや」って方向に持っていってます。自分のことを騙してるところがあるんかもしれないですね。


――絵馬に書いた目標が叶う2022年になるといいですね。

田渕:そうっすねぇ、彼女つくりたいっすね。

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――そっち!

田渕:ニシンのパイがつくれる彼女募集中です。一緒に釜戸にパイを入れたい。

きむ:釜戸から要るんや。大変や。

田渕:焼いてる間に話が盛り上がりすぎて、気づいたら20分焼くところを30分くらい経ってもうて「いっけなーい!」って釜戸開けに行くんですよね。でも最初のうちは炭があんまり熱くなってなかったから実は意外と30分くらいでちょうどよかった、こんがり焼けてた!みたいな。

きむ:相手の女の子に台本渡さなあかんわ。

田渕:ジブリ飯好きでつくってる人って少なからずいるんでねぇ、気が合う人おるんちゃうかなって思うんですよね。ですかね!

きむ:話を締めたなぁ(笑)。


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■撮影協力

成子天神社
〒160-0023 東京都新宿区西新宿8-14-10


■インディアンスINFO

豆苗添えと安肉3人衆 vol.7
日時:2022年1月25日(火)20:20開場 20:40開演 21:40終演
会場:ヨシモト∞ホール
出演者:相席スタート/インディアンス
料金:前売¥1,800|当日¥2300|有料配信¥1,200
お知らせ相席スタートと、インディアンスの二組のネタとフリートークライブ!ライブ中に毎回次のタイトルを決めています。今回は初心に戻ったネーミングです!


おっさんずバカ
日時:2022年2月7日(月)19:30~21:00
※見逃し視聴は2月9日(水)19:30まで
※チケットの販売は2月9日(水)12:00まで
出演者:インディアンス、錦鯉(SMA)
料金:有料配信¥1,500
2021年のM-1を最も沸かせたインディアンス・錦鯉によるライブ!
今、最もHOTなおっさん達によるライブは抱腹絶倒間違いなし!!



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ライター/斎藤岬 撮影/越川麻希(CUBISM)
企画・編集/かわべり





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