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欧州評議会、「子どもに対する暴力に関する通報・報告システムの強化」についての勧告を採択

 欧州評議会閣僚委員会は、9月6日、「子どもに対する暴力に関する通報・報告システムの強化」についての加盟国への勧告(Recommendation CM/Rec(2023)8 of the Committee of Ministers to member States on strengthening reporting systems on violence against children)を採択しました(説明覚書も参照)。

★ Council of Europe: New Council of Europe Recommendation aims to strengthen national reporting systems for professionals on violence against children
https://www.coe.int/en/web/children/-/new-council-of-europe-recommendation-aims-to-strengthen-national-reporting-systems-for-professionals-on-violence-against-children

 欧州評議会の関連条約のほか、とくに「暴力からの子どもの保護のための統合的な国家的戦略」に関する2009年の閣僚委員会勧告をはじめとする関連文書、国連・子どもの権利委員会の関連の一般的意見(とくに「あらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利」に関する一般的意見13号〔2011年〕および「自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利(第3条第1項)」に関する一般的意見14号〔2013年〕)、欧州評議会の第4次「子どもの権利戦略」(2022年)なども踏まえて作成されたこの勧告には、「子どもに対する暴力に関する通報・報告システムの強化についてのガイドライン」が付属文書として添付されています。その構成は次のとおりです。

I.目的、適用範囲および定義
II.基本原則
III.法律上および政策に基づく通報・報告義務
IV.子どもに対する暴力の通報・報告のための望ましい条件づくり
V.効果的な通報・報告手続
VI.子どもに対する暴力に関する通報への対応およびフォローアップ
VII.データ収集およびモニタリング
VIII.メディアおよび広報
IX.本勧告の見直しおよび加盟国間の協力

 このガイドラインは、基本的に、子ども(18歳未満)と直接間接に接触する専門家およびボランティアが子どもに対する暴力について通報・報告するための制度の強化について定めたものです。ここでいう「専門家」(professionals)には、具体的には次のような専門家が含まれます(パラ4)。

-子どもとの日常的な(時には毎日の)接触がその職務に含まれる専門家。乳幼児期以降の教育・ケア施設、司法制度、警察、被害者支援サービス機関、保健ケア、社会サービス、移住者の受け入れおよび国境管理に関わるサービス、スポーツ団体・レクリエーション団体・文化団体・宗教団体その他子どもにサービスを提供するあらゆるタイプの団体(ホットラインやヘルプラインを含む)で働く専門家を含む。
-とくに脆弱な状況に置かれている親または他の子どもの養育者を相手として働きまたは支援する専門家(ソーシャルワーカー・精神医学者・心理学者など)。

 通報・報告の対象は「あらゆる形態の子どもに対する暴力」であり(パラ1)、これには、「身体的、性的または心理的な暴力、マルトリートメントおよび虐待のような作為」のほか、子どもの権利を侵害し、かつ子どもの健康、身体的・心理的・情緒的不可侵性(integrity)、生存または発達を実際に害しまたは害する可能性のある「ネグレクトおよび怠慢な取扱い」が含まれます(パラ2)。子どもを辱めまたは(たとえ軽いものであっても)苦痛を与えるしつけ/規律維持のための措置のほか、搾取およびハラスメント、ドメスティックバイオレンスにさらすことならびに暴力を目撃させることも対象となります(同)。▽子どもに対する暴力の加害者は、子どもの信頼の輪*の内外にいる者を含む大人の場合もあれば、他の子どもの場合もあること、▽さまざまな形態の暴力がデジタル技術やメディアによって容易にされたり悪化したりする可能性があることについても、留意されています(パラ3)。

* 「信頼の輪」(circle of trust)については、家庭や拡大家族(larger family)状況のほか、▽教員および学校で働くその他の専門家、▽子どものケア(保育・養護等)を行なう専門家、▽スポーツコーチおよびスポーツ施設/イベントで働くその他の専門家、▽宗教関係者、▽保健・ソーシャルワークの専門家、▽課外活動を担当する大人、▽家庭教師(tutor)、▽後見人、▽子どもが密接な関係を持っている他の者(同世代の子どもを含む)などから構成されるものと説明されています(パラ5)。

 基本原則には、国連・子どもの権利条約の4つの一般原則(子どもの最善の利益/差別の禁止/生命・発達に対する権利/意見を聴かれかつ尊重される権利)に加え、▽家族の支援および▽回復・再統合が挙げられています(パラ6)。意見を聴かれかつ尊重される権利については、
「子どもにやさしい情報を提供すること、適切な場合には非言語的手段を通じて意見を表明できるよう子どもを支援すること、子どもにやさしい環境で意見を聴かれる権利を保障すること、ならびに、子どもの意見がどのように考慮されたかに関してフィードバックを提供することおよび透明性を確保すること」
 が含まれるとも書かれています。

 家庭内の虐待・ネグレクトのみならず、「あらゆる場面における、子どもに対するあらゆる形態の暴力」への法的対応が求められ(パラ7)、子どものために/子どもとともに働く専門家および機関・団体に対して通報・報告義務を課すよう求めている点が、今回の勧告の特徴のひとつに挙げられるかと思います。「通報・報告義務を遵守しなかった専門家に対する適切かつ比例的な処置または制裁」を設けることも促されています(パラ9)。

 日本では、保護者による虐待・ネグレクトについてはすべての者に通告義務が課されており(児童虐待防止法6条)、さらに専門家に対しては早期発見の努力義務が課されています(同5条)。また、里親家庭や児童福祉施設等で行なわれた虐待(被措置児童等虐待)についても、児童福祉法で通告義務が定められており、通告したことを理由とする施設職員等の不利益取扱いも禁止されています(33条の12)。

 しかし、「あらゆる場面における、子どもに対するあらゆる形態の暴力」について通告や報告が求められているわけではありません。とくに学校における暴力については、いじめ防止対策推進法(23条など)や教育職員等による児童生徒への性暴力防止法(18条)に通報・報告に関する規定がある程度で、不十分です。そもそも、児童福祉法33条の11のように虐待その他子どもの「心身に有害な影響を及ぼす行為」を禁止する規定自体、学校教育法などの法令には存在しません。速やかな法改正が必要です。

 欧州評議会閣僚委員会のガイドラインには次のような規定もあります。

「子どもは、子どもの保護に関する政策およびシステムの策定・実施に、その年齢、成熟度および発達しつつある能力にしたがって参加するためにエンパワーされるべきである」(パラ11)
「加盟国は、暴力のリスクおよび蔓延状況、暴力の有害な影響および暴力または暴力の疑いを通報することの重要性について、また(たとえばホットラインまたはヘルプラインを通じて)暴力について知らせかつ支援を受けるための、容易にアクセス可能な子どもにやさしい手段(子どもにやさしい苦情申立てのためのしくみを含む)について、子どもおよび一般公衆の意識を高めることを目的とする措置を促進しかつ実施するべきである」(パラ20)

 日本での対応を考えていくにあたり、今回のガイドラインも十分に参考にしていく必要があると思います。

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