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J-POPの失われた10年──“ヒット”が見えにくかった2006~2015年

松谷創一郎ジャーナリスト
2020年12月6日、渋谷タワーレコード(筆者撮影)。

 3月3日に放送された音楽バラエティ番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)の特番は、とても興味深い内容だった。

 「J-POP20年史:プロが選んだ最強の名曲 BEST30」と銘打たれたその企画は、音楽のプロ48人にアンケートをとり、この20年間のトップ30曲を決めるものだ(実際は31~50位も発表された)。この48人は、アーティストが3分の1、音楽プロデューサーや作曲家が3分の2といった内訳だ。

 投票は、個々が選んだ30曲に1位30点、2位29点、3位28点……と差をつけ、その総得点で全体の順位が決定される。ボルダルールと呼ばれるこの方式は、票が割れる状況も上手く順位に包含できるので、納得度が高い結果を見せることが多い(欠点は投票者の負担が大きいことだ)。

 そのベスト30は、この20年間のポピュラー音楽状況をさまざまに伝えるものだった。

音楽のプロが決める30曲

 こうして選ばれた2000年以降の「最強のJ-POP」は以下のようになった。

 トップに輝いたのは、いまも記憶に新しいOfficial髭男dism「Pretender」(2019年)。次に、一世を風靡したSMAP「世界に一つだけの花」(2003年)、そして3位にMISIA「Everything」(2000年)と続く。多くのひとにとって、納得度の高いものになっているだろう。

図1:筆者作成
図1:筆者作成

 また、このような地上波の企画では順位操作を疑う視聴者も少なからずいるが、それが考えにくい結果になっている。MCである関ジャニ∞の曲はひとつも入っておらず、ジャニーズもSMAPのみ。スタジオゲストだった水野良樹氏のいきものがかりの曲も入っていない。よって(当然のことだが)厳正にカウントした結果だと考えられる。

 番組では冒頭で50~31位が手短に紹介され(記事末に掲載)、それから30位から1曲ずつ紹介されていった。2時間弱の番組なので駆け足な感は否めないが、投票者のコメントやスタジオゲストの意見も織り交ぜて進めていったあたりは、この番組らしい丁寧さだ。

 また、選者がプロなだけあって、決して一般の人気と合致しているわけでもない。なかでも16位にランクインしたキリンジの「エイリアンズ」(2000年)は、同バンドの代表曲ではあるものの、一般的に大ヒットしたという印象はない。こうしたあたりには、「プロが選ぶ」この企画の特長も表れていた。

極端に選ばれなかった06~15年

 だが、リアルタイムで観ているときに、途中から「あれっ?」と感じたひとも少なくないはずだ。なぜなら、00年代中期から10年代中期までの曲があまり出てこなかったからだ。

 最後まで観ると、結果にもはっきり表れた。00年代前半と最近の5年間の曲ばかりで、06~15年あたりの曲が少ない。なかでも10~14年あたりはとくに顕著だ。それをグラフで表したものが以下となる。

図2:筆者作成
図2:筆者作成

 番組では50位まで紹介されたので、順位が高いものほど濃い色とした。すると、2010年頃を谷としてグラフが落ち込んでいることがわかる。10年代前半で10位以内に入った曲はひとつもなく、この期間の発表曲で最高は11位にランクインしたAKB48「恋するフォーチュンクッキー」(2013年)だ。

 素直に考えれば、この結果からは「プロたちが名曲だと思うものが少ない時代だった」ということになる。

 しかし、本当にそうなのだろうか?

00年代後半「着うたフル」のヒット

 いまから振り返ると、00年代中期以降は音楽状況が大きく変化した時期だった。とくに06~15年頃までは、CD以外のメディアでの音楽視聴が一般化するなかで、年々“ヒット”が見えにくくなっていた時代だ。

 たとえば日本においては、00年代中期以降に「着うた」や「着うたフル」が浸透した。曲を携帯電話(いまで言うガラケー)にダウンロードできるこのサービスは、スマートフォンが普及するまでの5年間ほど日本では若年層を中心に広く活用された。

 この時代に大ヒットしたのが、たとえば西野カナだ。当時彼女は「ケータイ世代の歌姫」といったコピーで注目されたが、08年のCDデビューに先駆けて07年末に「着うたフル」などのダウンロード販売でプレデビューしている。しかし今回のランキングでは、西野の曲は15年の「トリセツ」が43位に入っているのみだ。

 また、38位にランクインした木村カエラ「Butterfly」(09年)は、CDシングルとしては発表されずダウンロード販売のみだった。結婚情報誌「ゼクシィ」のCMソングとして一般にも広く知られ、いまでも広く親しまれている。

 だが、こうした音楽メディアの変化にオリコンランキングは対応せず、CDのランキングに固執し続けた。マスメディアも他に参考できるランキングがまだなかったために、オリコンに依存し続けた。

 そのためオリコン年間シングルランキングにおいて、西野カナであれば10年は「会いたくて 会いたくて」が72位にとどまり、木村カエラの「Butterfly」はCDシングルで発売されなかったのでランキングにすら入っていない(※1)。

AKBとジャニーズばかりのオリコンランキング

 こうした状況に登場したのがAKB48だ。握手券や総選挙の投票券を封入してCDを販売した結果、AKB48は売れに売れた。機能不全になりつつあったオリコンのバグを突き、CD販売数を人気に変換した。「AKB商法」と呼ばれるこの“人気錬金術”は、音楽メディア過渡期の混乱に乗じた戦略だった。

 この時期、もうひとつオリコンで目立ったのはジャニーズのグループだ。ダウンロード販売など新しいメディアに積極的にならずCDを売り続けた。購買力の高い熱心なファンが多いジャニーズは、相対的にオリコンランキングで浮上していく。

 こうして00年中期以降のオリコンランキングは、AKB48グループとジャニーズによって占拠されることとなる。たとえば過去30年の年間ランキング1位を振り返れば、それははっきりする。05年からジャニーズがトップに立ち、10年からはAKB48が10連覇する。

 こうしてオリコンランキングはぶっ壊れた。

図3:筆者作成
図3:筆者作成

ビルボードによる“ヒット”の回復

 機能不全となったオリコンの代わりに、15年頃から注目されるようになったのがビルボードチャートだ。CD単位でランキングを出すオリコンに対し、曲単位のビルボードはさまざまな音楽メディアを複合してチャートを構成するのが特徴だ。現在であれば、CD販売・音源ダウンロード・ストリーミング・動画再生数・PCへのCD読み取り数など8つの指標からなり、その比重は頻繁に調整されている。

 ストリーミングが普及しつつある現在は、昨年のYOASOBI「夜に駆ける」のようにCD発売をしていない曲でも大ヒットになる。ビルボードは、そうした時代に適応したチャートだ。

 だが、このビルボードが定着するまでの15年頃まで、いったいなにがヒットしているのか、はっきりしない時期が10年ほど続いた。音楽ジャーナリストの柴那典は、そうしたヒットの見えにくい音楽状況を16年に『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)で指摘したが、『関ジャム 完全燃SHOW』のランキングはそれを裏付けるような結果にも思える。

 音楽シーンが混乱していたその時代、投票者である音楽のプロたちもなにがヒットしているのか強く意識できず、結果的にその無意識がランキングに反映された可能性がある(※2)。

再構築される「J-POPの失われた10年」

 CDからネット(ダウンロード、YouTube、ストリーミング)に音楽メディアが移り変わる10年間、AKBは人気錬金術でのし上がり、ジャニーズは従来のビジネスモデルに固執して旧来型の指標(オリコン)で“ヒット”を続けたのは間違いない。

 その一方で、携帯ダウンロードで大ヒットした西野カナもいれば、少女時代やKARAなどK-POPはYouTubeをフル活用して人気を拡大していった。2011年にメジャーデビューしたきゃりーぱみゅぱみゅも、当時のJ-POPでは珍しく、当初からMVをフル尺でYouTubeに出してグローバルヒットした。また、この時期にボーカロイドを使って力を蓄えていた米津玄師が10年代後半のストリーミング時代に大活躍する。

 こうして振り返ると、06~15年あたりの日本の音楽状況はやはり残念に思える。オリコンランキングの機能不全がシーンをきわめて不鮮明なものにしてしまった。いわば、“ヒット”が見えにくい「J-POPの失われた10年」が生じてしまった

 こうした問題は、多くの音楽ファンに周知されていることでもある。たとえば音楽チャートの分析サイト「Billion Hits!」では、現在06年以降のダウンロード売上のランキングをまとめて、1年ずつ検証している。たとえば10年のランキングを振り返る記事では、いかに西野カナやKARA、少女時代がこの年に人気があったかがわかる。

 このサイトは商用ではなく一般の分析サイトだが、管理人であるあさ氏の作業はあの「失われた10年」の記憶と歴史を回復しようとするものに思える。市井のアナリストのこうした地道な活動には、敬意を表するほかない。

 たかがヒットのランキングではあるが、されどヒットのランキングだ。「ヒットしている=素晴らしい」わけではなく、「多くのひとが好む=ヒット」だとすると、それがひとつの基準(目安)になる。ヒット曲を肯定するにも否定するにも、それが見えなければシーンは前に進まない。

 2021年の現在、ジャニーズ事務所はやっと配信に積極的になりつつあり、AKB48グループの人気は見る影もない。そんないまだからこそ、過去をしっかり見つめ、あの「失われた10年」を再構築する時期に来ているのではないか。

※1:大晦日の『NHK 紅白歌合戦』は、独自の調査によってこうしたダウンロードのヒットをそれなりに反映させていたと言える。木村カエラは09年に、西野カナは10年以降、同番組に出演している。

※2:もちろん投票者が限られているので、はっきりしたことは言えない。たとえば投票者の平均年齢は42歳(生年不明の4名を除く)なので、彼らがプロとして活躍する前の00年代前半や、記憶がまだ新しい近年のものが選ばれやすかったことなども考えられる。

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※番組で紹介された31~50位

31位:罪と罰(00年)/椎名林檎

32位:Story(05年)/AI

33位:SUN(15年)/星野源

34位:行くぜっ!怪盗少女(10年)/ももいろクローバー

35位:Dragon Night(14年)/SEKAI NO OWARI

36位:白い恋人達(01年)/桑田佳祐

37位:Can You Keep A Secret?(01年)/宇多田ヒカル

38位:Butterfly(09年)/木村カエラ

39位:女々しくて(09年)/ゴールデンボンバー

40位:to U(06年)/Bank Band with Salyu

41位:楽園ベイベー(02年)/RIP SLYME

42位:全力少年(05年)/スキマスイッチ

43位:トリセツ(15年)/西野カナ

44位:千の風になって(06年)/秋川雅史

45位:前前前世(16年)/RADWIMPS

46位:つけまつける(12年)/きゃりーぱみゅぱみゅ

47位:CHE.R.RY(07年)/YUI

48位:キセキ(08年)/GReeeeN

49位:Sign(04年)/Mr.Children

50位:テルーの唄(06年)/手嶌葵

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ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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