夕方のニュース番組『news every.』(毎週月~金曜15:50~ ※一部地域除く)のメインキャスターとして活躍する日本テレビの藤井貴彦アナウンサー。新型コロナウイルスの感染者数などを伝えたあとに、自らの言葉で発信するメッセージも話題となり、今や日本を代表するニュースキャスターとなった。

そんな藤井アナの原点は「高校サッカー」。実況アナたちが舞台裏を明かす書籍『第100回全国高校サッカー選手権記念 伝えたい、この想い アナウンサーたちのロッカールーム』では、多忙の合間を縫って執筆に加え、編集も担当するほどの熱の入りようだ。

高校サッカーの実況アナウンサーとしての経験が今に生きているといい、「高校サッカーをやっていなかったら、私は『news every.』という番組を12年続けられていないです」とまで断言する――。

  • 日本テレビの藤井貴彦アナウンサー

    日本テレビの藤井貴彦アナウンサー

■全国から情報が集まる人脈を構築

藤井アナが、今に生きる経験として1つ目に挙げたのは“人脈”。「例えば、私が生まれ育った場所でない地域で交通事故が起きたとします。そこで、その地元局に仲の良い後輩アナウンサーがいたら、『あの場所ってどんなところ?』と聞くんです。すると、彼は高校サッカーでやり取りしていた後輩ですから、私が欲しがっているものが全部分かるので、『ここは普段交通量が多くて、信号も青の時間が短いので、赤信号のまま渡っちゃう人が多かったですね』というふうに、“それ!”という情報がやってくるんです」。

高校サッカーの実況アナは、全国大会が始まるとコロナ前までは1つのホテルに集結し、その日の実況映像を見ながら、局を越えて先輩から後輩にダメ出しやアドバイスをする習慣があった。さらに、年間を通して試合会場に足を運ぶと、その現場で「おっ、来てるね!」と会い、そのまま飲みに行くといったコミュニケーションもあったそうで、そうした密な関係を持つアナウンサーが、全国に存在するのだという。

また、ニュース番組の本番中に、必要な情報を即時に出すスキルも、「高校サッカーで取材して得た様々な資料がある中で、“今この瞬間のプレーにおいて必要な情報はこれだ!”と出すということをやっていたのが大きいですね」と分析する。

  • 本のPRで全国を飛び回る藤井アナ。2021年12月26日には福岡放送『夢空間スポーツ』に生出演した

■全国選手権をいつまでも開催し続ける責任

そして、「一度、物事を俯瞰(ふかん)で見るようになったんです」とも。

「例えば、火事や事故をヘリコプターから中継でお送りするときに、映像を見ていれば視聴者の皆さんはおそらくチャンネルを変えないと思います。でも、その映像を通して誰かの役に立たなければ、僕らは“人の不幸で飯を食う”ことになってしまう。だから、『風下にお住まいの皆さんは延焼するおそれがありますので、避難する準備をしてください』とか『火の粉が飛んでくる可能性もありますので、距離があると安心だと思っている方もご注意ください』と言える人間にならなければならないと思うんです。“人の不幸で飯を食うな”という精神は、常にスタッフと強く意識しています」

では、高校サッカーからこの考えに至ったのは、なぜか。

「自分がいいネタを取った、自分がおいしい実況ができたというだけでは、高校サッカーではいい中継にならないんです。これは本にも書いたのですが、大先輩のアナウンサーが国見高校(長崎)の試合の実況をしたんですね。その先輩は国見に取材に行って、夜暗くなったらどう練習するんだろうと思って見ていると、選手たちがボールに石灰をまぶして、監督の車のヘッドライトをグラウンドに照らし、ボールが光るようにしたそうなんですよ。『そんな涙ぐましい努力をして、全国優勝を目指しています』と実況したその翌年に、国見高校にナイター照明が建ったんです。あの実況を聞いて、ヘッドライトに照らされたグラウンドで白いボールを追いかけている選手たちの姿を想像して、『何か役に立つことができないか』と思い立った人たちがいたんですよね」

そうしたエピソードを踏まえ、「“高校サッカーを日本のサッカーを支える裾野にするんだ”という思いがなければ、やっぱりいいアナウンサーの中継にはならないんです。この本を通して、後輩アナウンサーたちにもそうしたメソッドやDNAをつなげたいという思いもあります。高校3年生の最後に、一番良いところを輝かせてあげようというこの大会を、いつまでも開催し続けるのは、僕らの責任なんです」と強調。

本の印税は、主催者に寄附することを決めた。「コロナ禍で、大会の開催が少し危うい状況になっていたので、この本が微々たるものでも貢献になれば」という思いが込められている。