テングザルという奇妙なサルがいる。東南アジア、ボルネオ島の一部にのみ生息する希少な絶滅危惧種（endangered）で、その名が示すとおり、オスは天狗のように大きな鼻をもつ。
しかし、テングザルのオスがなぜ大きな鼻をもつようになったのかはこれまで大きな謎だった。その謎の一端を、中部大学、松田一希准教授らのチームが解き明かし、2月22日付けの科学誌「Science Advances」に論文が掲載された。
ギャラリー：大きな鼻ほど強くてモテる、奇妙なテングザル 写真11点
テングザルのオス。この鼻は大きなほうだが、やや細め。（写真提供：松田一希）
テングザルのメス。オスと比べると小さいが、他の霊長類よりは大きな鼻をもっている。（写真提供：松田一希）
テングザルは実によくジャンプする。川に飛び込むときもジャンプして入る。また、特に川沿いで他の群れと対峙するときは、オスはよく勃起している。（写真提供：松田一希）
ハーレムのオス（中央）とメスたち。（写真提供：松田一希）
お尻と尻尾が白いのは、おとなのオスだけの特徴だ。松田氏は勝手に「白パン」と呼んでいるという。白パンの理由は、まだよくわかっていない。（写真提供：松田一希）
テングザルの親子。（写真提供：松田一希）
テングザルは、複数のハーレムが集まり重なり合う複雑な社会を形成する。そうした重層化した社会をつくる霊長類は、人間の他にはゲラダヒヒ、マントヒヒ、シシバナ属のサル（キンシコウなどを含む少なくとも3種）、そして、テングザルだけだ。（写真提供：松田一希）
テングザルを含むコロブス類のサルの特徴のひとつに、母親以外の個体が子育てを行う「アロマザリング（allomothering）」がある。生まれて間もない子どもを、母親以外のサルが取り合うように抱きかかえる。そのあいだ、母親は葉っぱや木の実をゆっくりと食べる。（写真提供：松田一希）
子どもは、生まれたときは全身が真っ黒だが、だんだん頭と体の色がおとなと同じ色に変わり、最後に顔の黒みが取れる。この写真のように、顔だけが黒い状態くらいになると、よく母親から離れて動きまわる。（写真提供：松田一希）
鼻が大きいほど、オスは強くてモテることが最新の研究で明らかになった。（写真提供：松田一希）
テングザルはボルネオ島の川沿いの密林にのみ暮らしている。近年は、川に近いぬかるんだ土地にもアブラヤシのプランテーション事業が拡大しており、絶滅危惧種であるテングザルへの影響が懸念されている。（写真提供：松田一希）
