六本木の蜘蛛が紡ぐもの

CulNarra! Interns
My Night Cruising 2019
5 min readAug 26, 2019

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Written by : Sayako Yamamoto

六本木ヒルズの象徴といえば、よく待ち合わせの目印として使われる大きな蜘蛛のオブジェ。六本木ヒルズ森タワーの目の前にある広場に位置し、日比谷線からエレベーターを上がるとすぐ目の前に現れます。

お腹に大理石の卵を抱えており、作品名は「ママン」というそうです。ルイーズ・ブルジョワというフランス出身の女性彫刻家が作ったもので、ここだけでなくロンドンのテートモダン、スペインのグッゲンハイム美術館、韓国のリウムなど9カ所に設置されているだとか。

また、なんとこの作品は総重量が9トンもあるんだそうです。日本が地震大国ということもあり、世界中で唯一この作品だけ揺れを吸収するために足が固定されていないのだそうです。

ルイーズ・ブルジョア「ママン」六本木ヒルズ

でも、巨大な蜘蛛というとなんだか怖いイメージがありませんか?

森ビルの方々は、なぜわざわざランドマークとして蜘蛛のオブジェを置いたのでしょうか?

私は慶應義塾大学アート・センターと六本木アートナイト2019がコラボしたワークショップに参加する中で、この問いに対する答えを見つけることができました。

このワークショップでは、まずシステム×デザイン思考のワークショップ、そして現代アートとアーカイヴに関するトークセッションに参加しました。その後、六本木アートナイト実行委員会事務局の方に直接インタビューする機会があり、森ビル株式会社で事務局長の三戸和仁さんにお話を伺うことができました。

森ビルは「まちを育む」という取り組みを行っています。丸の内=ビジネス、霞ヶ関=政治 というイメージがある中で、六本木のまちづくりで大切にしたのは「アート」でした。一番使用料金が高い最上階を、あえて美術館と展望台にしているのもそのためだそうです。

アートを中心にしたまちづくりの中でも、なぜその最も中心に蜘蛛を置いたのか。その答えは「蜘蛛の巣」にありました。

「蜘蛛の巣のように六本木からネットワークが広がって、人と人が出会い、そして新たなものが紡ぎ出される場になってほしい。」

こんな想いから、広場に蜘蛛のオブジェを設置したのだそうです。

実は、六本木ヒルズ周辺には他にもパブリックアートがたくさん。みなさんも六本木を訪れた際には、世界的に有名なアーティストの作品を楽しんでみませんか?

さらに六本木では、毎年六本木アートナイトというアートのお祭りが行われています。今年は5月25日から26日にかけてオールナイトで行われました。

六本木アートナイトの作品にも、蜘蛛をモチーフにした作品がありました。

唄う蜘蛛の巣

いろんな人に触れてもらい、音を奏でてもらおうという意図で作られたこの作品。白い糸で編まれた部分を触ると、スピーカーからクラシックが流れてきます。

多くの人が触れば触るほど、音楽はより重層的に。鑑賞している人たちが楽しく触っている様子が、まるで蜘蛛の巣に囚われているようにも見えて面白い作品です。

私は六本木アートナイトのイベントのひとつ、インクルーシブ・ツアーに参加したことで、「ママン」や「唄う蜘蛛の巣」のモチーフである蜘蛛の意味について知り、なんだか怖いイメージだった蜘蛛に親近感が湧いてきました。

インクルーシブ・ツアーでは、目が不自由な方や他の参加者の方と一緒に対話しながらアートを鑑賞します。参加しようと思ったきっかけは、所属している学生団体S.A.L.で作っているフリーマガジン「Magadipita」の最新号(秋に発行予定)でアウトサイダーアートを扱った際、「みんなで」楽しむアートって何だろう? と疑問を抱いたこと。正直一人で参加するのはハードルが高かったのですが、「六本木アートナイト」のお祭り気分が何だかチャレンジしてみようかな、という気持ちにさせてくれました。

参加してみると、一人で見るだけでは思いもよらなかった新しい視点の発見がありました。目の不自由な人に向けて説明するという言語化のプロセスを踏むことで、新しい形容詞が次々に浮かんでくる、不思議な感覚がありました。

家族や友達ではなく、普段関わり合うことが少ない人とのツアー。まさに私にとって「六本木から始まる新たな出会い」でした。

さまざまな出会いが生まれる六本木、そして六本木アートナイト。

来年はあなたも訪れてみませんか?

山本紗弥子。シンガポール生まれ、東京育ち。法学部政治学科3年で、社会学のゼミと東アジアの安全保障のゼミに所属。多文化共生政策や中国の安全保障政策を学んでいます。9月から台湾に交換留学予定。留学先では台湾日本語世代の生活史調査を行う予定です。ふだん港区では遊びませんが、今年度は授業が週6なので港区漬けの生活です。

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「都市のカルチュラル・ナラティヴ」プロジェクト、カルチュラル・コミュニケーター・ワークショップのインターンが、地域の文化について語ります。http://art-c.keio.ac.jp/-/artefact