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新型コロナ 逼迫する小児医療 ~救急外来の現場から~

西田佐保子・学生新聞編集部
新型コロナウイルス、RSウイルス、手足口病などの感染症が流行する中、東京都立小児総合医療センターの救急外来にも多くの受診者が訪れる=同センター提供
新型コロナウイルス、RSウイルス、手足口病などの感染症が流行する中、東京都立小児総合医療センターの救急外来にも多くの受診者が訪れる=同センター提供

 「今日の発熱外来は受け付けを終了しました」「抗原検査キットが在庫切れのため検査はできません」――。新型コロナウイルス感染症の流行「第7波」により、小児医療が逼迫(ひっぱく)している。RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、手足口病などの感染症も増える中、小児救急医療の最後のとりでとして地域を支えてきた東京都府中市にある小児専門病院「東京都立小児総合医療センター」の救急外来(ER)にも受診者が殺到している。「9割以上が軽症」と話す同院感染症科の堀越裕歩(ゆうほ)医長に、オミクロン株による感染拡大の影響や受診すべきサインなどを聞いた。【聞き手・西田佐保子】

軽症の新型コロナ感染者に処方できる“特効薬”はない

 ――救急外来の受診者が増え始めたのはいつごろですか。

 ◆7月中旬ぐらいからでしょうか。通常は1日100件程度の受診者に対し、3連休(7月17~19日)にはその3倍以上の人が駆けつけ、マックスで1日に約320件。センター開設以来最多で、多くの人に長時間お待ちいただく事態になりました。

 現在、新型コロナだけではなく、RSウイルスやヒトメタニューモウイルスなどの感染症も流行しています。受診者は、小学校就学前、5歳未満の乳幼児が圧倒的に多く、発熱、せき、嘔吐(おうと)などの症状を訴えます。

 この地域(東京・多摩地区)の特徴ですが、小児の外傷を診られる施設はここだけです。骨折したり傷の縫合処置が必要だったりする子どもたちが救急外来に訪れます。そこにプラスして感染症の患者さんが受診している状況で、他の部署からの応援で医師と看護師などのスタッフの数を増やして対応しています。

――都立小児総合医療センターのツイッターアカウントで7月20日、「新型コロナと各種ウイルス感染症の流行により全国で小児科が混雑しています。当院ERでは、緊急トリアージの方を優先するため、緊急以外のトリアージの方は3時間以上お待ちいただく場合が発生しています。緊急の方を助けるために御理解をお願い致します」という投稿がありました。8月には休診する病院も多く、緊急外来がさらに混み合う可能性もあります。

 ◆「トリアージ」といって、外来で受け付けをした順番ではなく、小児の患者さんの重症度に応じ、診察する順番を決めています。担当するのはトレーニングを受けた看護師です。最も緊急度が高いのは、心肺停止し蘇生が必要な方で、他にも長時間続くけいれんで運び込まれる方、呼吸状態が悪かったり、意識状態がおかしかったりする方などには緊急の対応が必要です。

 呼吸や心臓などの機能に問題がない人は緊急性が低いので、順番を待っていただきます。重症の方が来院されると我々はつきっきりで治療を施すので、どうしても軽症の方を診るまでに時間がかかってしまいます。

 7月の連休には都内の医療機関がパンク状態で受け入れができなくなり、患者さんが救急外来に押しかけました。緊急の病気や外傷は一定の確率で発生しています。微熱や鼻水など風邪のような症状のある人が救急外来に殺到すると、本来我々が助けるべき子どもへの対応ができなくなってしまいます。

 ――受診者のうち、新型コロナに感染している子どもの割合は?

 ◆内科系、外科系の患者さんが受診しますが、新型コロナの感染割合は分かりません。当院でしかできない小児の医療があって、必要な人に医療が行き届かなくなる恐れがあるため、基本的に重症化リスクがなく自然に治癒されると思われる軽症で“健康なお子さん”にはあえて検査は行っていないためです。これはインフルエンザでも同様です。

 なお、白血病で治療中など、非常に重症化しやすい方や、入院する患者さんには、各種検査を実施しています。多くみられるのは、新型コロナ、RSウイルスやヒトメタニューモウイルスの他にも手足口病など子どもがかかりやすい感染症です。

 ――乳幼児の場合、症状を説明できません。どのように診断するのでしょうか。

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学生新聞編集部

にしだ・さほこ 興味のあるテーマ:認知症、予防医療、ターミナルケア。